最期
お墓参りを目前に控えた千寿子さん。
その願いを叶えるための準備を進める中で、彼女の体力はますます低下していました。
ベッドから離れることが少なくなり、トイレの際もナースコールで排泄介助が必要に。
「オムツに切り替えてもいいのでは?」と提案しましたが、千寿子さんは毅然としてこう言いました。
「しんどくてもトイレがいい。最後の頑張りだから。」
食事もお粥やゼリーなど、口にしやすいものを3割ほどしか食べられない状態。
それでも、千寿子さんの心は驚くほど明るく、楽しみに満ちていました。
お墓参りへの思い
お部屋に伺うと、千寿子さんはお墓参りに着ていく服を眺めながら、満面の笑みで話してくれました。
「これを着て京都に行ったら、ご先祖様にちゃんと報告できるね。」
さらに、お墓参りの帰りに必ず立ち寄っていたお蕎麦屋さんの話や、旦那さまとの思い出まで楽しそうに語られました。
「楽しみがある」って、こんなにも人を強くするんだ。
私たちは千寿子さんの姿から、「心の持ちよう」が持つ力の大きさを改めて感じました。
お墓参り前夜、その決意
お墓参りの前日、千寿子さんは明日着る衣装を枕元に丁寧に置き、こう話しました。
「これを着て、ちゃんとご先祖様に挨拶しに行くのよ。」
その姿は、体力の低下を感じさせないほどの決意に満ちていました。
一方で、私たちスタッフには不安も残りました。
「本当に明日行けるのだろうか?」
そんな気持ちを抱えながら帰宅しました。
当日、奇跡の朝
翌朝、出勤すると夜勤スタッフが興奮した様子で教えてくれました。
「千寿子さん、自分で着替えて車椅子に座ってます!」
急いでお部屋へ向かうと、そこには見違えるように清々しい顔で車椅子に座る千寿子さんの姿がありました。
「準備できたよ。今日は大事な日やから」
自力で着替えを終え、準備を整えたその姿に、私たちはただ驚きと感動で胸がいっぱいになりました。
念願のお墓参り
朝食はわずか2割程度しか食べられませんでしたが、家族も加わり、看護師や介護スタッフのサポートのもと、京都へ向かいました。
車内では静かに外を眺めながら、時折会話を楽しむ千寿子さん。
約1時間の移動の後、念願のお墓へ到着しました。
お墓参りを終えた千寿子さんは晴れやかな表情でこう言いました。
「ほんまにありがとうね。やりたいことが叶ったし、これで安心したわ。」
この時の表情は今でも私の中に強く残っています
もう一つの楽しみ、お蕎麦屋さんへ
お墓参りの後は、思い出のお蕎麦屋さんへ向かいました。
千寿子さんは天ぷらそばを注文し、「今日は私がご馳走するから!」と笑顔。
みんなで同じ天ぷらそばをいただきながら、楽しい会話が弾みました。
しかも!
驚いたのは、千寿子さんがその天ぷらそばを完食したことなんです。
「えー!完食したんですか!?」とスタッフ全員が驚くほどの食欲。
その場は、何とも言えない温かくて、笑いと感動に包まれた空間でした
1週間後
無事に施設に戻った千寿子さんは、その1週間後、静かに家族に見守られ永眠されました。
その表情は穏やかで、どこか満足したように見えましたのは不思議な感覚でした。
千寿子さんが教えてくれたこと
千寿子さんが私たちに遺してくれたもの、それは「諦めない生き方」
ある日、千寿子さんにこう尋ねたことを思い出します。
「お墓参りに行ったら、もっと身体が辛くなるかもしれないですよ?」
すると千寿子さんは笑顔で答えました。
「それがどうしたん?
お金ない、時間ないって言うのはやりたくない言い訳やねん。
自分でできへんことは、誰かに助けてもらう。それが感謝につながるんやで。
だから、ええ迷惑はかけなさい。」
この言葉が、私にとって生きる使命にも繋がっています。
諦めない生き方の真髄
千寿子さんは、最期まで「自分のやりたいこと」を諦めませんでした。
その姿勢が私たちに「生きる意味」と「感謝」の大切さを教えてくれたのです。
これからも千寿子さんの言葉と姿を胸に、寄り添うケアを続けていきます。
千寿子さん
ありがとうございます。あなたとの時間は今の私に力強さを与えてくれています。
感謝
