短編小説 | ホームセンターの森
「LEDの下にいると、昼も夜もわからないや」
巨大ホームセンターの通路を、僕は台車を押しながらつぶやく。日用品、インテリア、アウトドア、DIY…整然と積まれたそれぞれの商品が、天井近くまで林立している。
BGM、こどもたちのはしゃぐ声、バーコードスキャンの音、ペットコーナーの動物たちの鳴き声…にぎやかな店内で、僕は品出しを始める。
そんな、現代社会の象徴みたいなこの場所に一か所だけ、心安らぐ場所がある。
建物の外、メインゲート側の、広大な観葉植物の森。安らぐのは緑だけじゃなく、そこにスイさんがいるからだ。
霧吹きの水滴、LEDストリングライトの光…その淡い光の中に長い髪をひとくくりにした彼女がいて、ただ見とれている僕がいる。
もし、閉店後の店に二人…スイさんとの時間を過ごすことが出来たら。
台車に彼女をのせて駆け回ろう。防犯カメラに変顔で映ろう。そしてベンチに腰かけて、ライトアップされた森の中で、二人で夢を語り合おう。
…そんな妄想をするのも、品出しが終わらないからだ。いつまで続くんだろう…品出しも、この豊かに見える風景も。
「わからないのは夏も冬も、でしょ?」
突然、スイさんが語りかける。僕の胸がどきんと跳ねる。
「いいねぇ、中は空調効いてて。一度担当代わってよ」
スイさんの声に、僕は「はいっ」と返すのが精いっぱい。
それが現実だ。僕は台車を押し、彼女は霧吹きを携えて、会話しても二言三言。この時間がもう少し続けばいいのに。
「あのさ」
背後から囁く声。通り過ぎたはずのスイさんだ。
「変なこと考えたんだけど」
「…どんな?」
「…ペットコーナーの動物たち、いつか全部逃がしちゃおう」
その時、確かに、風が吹き抜けた。イヌ、ネコ、インコ、ハムスター…その小さな命たちが、メインゲートに向かって駆け出す光景が、僕には見えた気がした。
…僕だけじゃなかったんだ、妄想してたのは。
「…スイさん、最高かよ」
僕の言葉に、彼女は照れた。その笑顔は、LEDよりあたたかった。
