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短編小説 | 九月半島

強い風が、半島に立ち続ける男の頬を撫でた。あの日と同じ、何も変わらない風。
今日は、友と交わした遠い約束を果たす日。この丘に埋めたタイムカプセルを、二人で掘り出す日だ。

SNSに溢れていた友の写真が、ある日ぷっつりと途絶えた。世界中の光を追いかけていたあいつが、今は深い闇の中にいることを、男は最後の投稿の文面から感じ取っていた。
それでも男は、ただ待っていた。

やがて、聞き慣れた足音が背後で鳴る。振り返ると、年月の分だけ皴を刻んだ友が、どこか儚げな笑みを浮かべて立っていた。

「遅いじゃないか」
「悪い。世界中を少し、道草しててな」

シャベルが土をかく音だけが響く。やがて鈍い感触と共に現れたのは、錆びついたクッキーの缶だった。
蓋を開けると、少年時代の日々がよみがえる。ビックリマンシール、ミニ四駆、そして未来の自分たちに宛てた手紙。
友の手紙には、世界の果てまでをも写し撮るという、まぶしいばかりの夢が綴られていた。

「全部見たよ。この手紙に書いた景色も、それ以上のものも…」
友の声はかすれていた。
 「なのに、今はもう、何を見ても何も感じないんだ…」

それは男も同じだった。職場での華やかな時期はとうに過ぎて、今は力を発揮できない日々。これが歳を取るということなのか。

男は、箱の底に残っていた一枚の写真を友に見せた。日に焼けて笑う、二人の少年。 
「おかえり」
男の一言に、友の肩が小さく震えだした。
強い風が、二人の涙を乾かすかのように、半島を吹き抜けていった。

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