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短編小説 | フェイクタクシー

午前一時、烏丸御池。飲み会帰りの私の側に、流しのタクシーがするりと停まった。
私は何かに誘われるかのように乗り込むと、上賀茂の自宅住所を伝えていた。
墓標のように聳え立つビルの間を、タクシーは静かに走り抜ける。

「お客さん、深泥池の怪談はご存知で?」
バックミラー越しに視線を送り尋ねる、年配の運転手。
ええまあ、と曖昧に頷く私。雨の日、タクシーに乗った女性がいつの間にか消えていて、あとには濡れたシートと長い髪が…という、京都では誰もが知る話だ。
「あれ、もう古いんですよ」
運転手は囁いた。
「本当に怖いのは幽霊じゃなくて、人ですよ」

北へ北へと向かうにつれ、運転手の言葉が熱を帯びていく。
「切り取られた映像、付け加えられた言葉…生成AIだってある時代だ。それでも、人は信じたいことだけを真実と思い込む。何が本物で何が偽物か、もう誰にも分からない」
馬鹿馬鹿しい、後でタクシー会社に文句を…と思いつつ、思考が泥濘に沈む。これは酔いのせいなのか…?

やがてタクシーは、深泥池の側で静かに停車した。
「これからも本物でいたいなら、誰の言う事も信じてはいけませんよ。マスコミもネットも、この私の言葉でさえも」
運転手はそう言い残し、タクシーは霧の向こうに消えた。

池の畔に一人残された私は、スマートフォンの画面に目をやる。そこには「深夜のフェイクタクシー 乗客に陰謀論ふきこむ? 京都」というネットニュースが、SNS上で拡散されていた。「さっき烏丸御池でお客乗せてて草」というコメントと共に投稿されたピンボケ写真は、どう見ても私がタクシーに乗り込む瞬間だ…。

夜気が肌を撫で、私は身震いする。握りしめたタクシー代のレシートはインクが滲み、何処のタクシー会社なのかもう分からない。霧はますます深くなり、自宅の方角も分からない。
フェイクなのはタクシーか、ネットニュースか、それとも――。

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