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短編小説 | めくれる

乾いたチョークの粉が、夜の教室に広がっていく。
加湿器は「強」のランプを灯しているが、ユキの喉はカラカラだった。目の前に並ぶ保護者たちの表情も、強張って乾ききっているかのように見えた。

「…ですので、外国人のお子さんの、ご家庭での日本語教育を徹底していただきたい。うちの子は、意思疎通で困っています」

一人の親が口火を切ると、堰を切ったように空気が変わった。
これまで取り繕われていた和やかな表面が、静かにめくれていく。

「うちもです。ここは日本なんだから、日本語を使ってもらわないと」
「給食だって、特別扱いするんじゃないかって話を聞きました。多少の好き嫌いがあっても食べさせるのが教育でしょう?」

言葉のナイフが、この場にいない特定の家庭とこどもたちへと向けられていく。ユキは、自分のクラスのこどもたちの顔を一人ひとり思い浮かべた。
言葉の壁に悔し涙を浮かべるあの子も、宗教上の理由で食べられない給食をさみしそうに見つめるあの子も、みんな同じ小学6年生だ。

喉の渇きが痛みに変わる。
ごくりと唾を飲み、ユキは静かに立ち上がった。保護者たちの視線が、刃のように突き刺さる。
「みなさまのおっしゃりたいこと、お困りのことは分かりました」

ユキの声は、少し震えていたかもしれない。それでも、言わなければならなかった。
「私は、このクラスのこどもたちみんなが、ただ笑っていてほしいと思っています。だから、困りごとを抱えている世帯の困りごとが無くなったらいい。そして、そうでない世帯は、今よりもっと生きやすくなったらいい。そう、心から願っています」

教室に沈黙が広がる。
「でも、まだ、どうすればいいか…答えは見つかっていません」
ユキはただ、まっすぐに保護者たちを見つめ返した。
「お願いです。こどもたちの笑顔のために何が出来るか、一緒に考えて頂けないでしょうか?」

乾いた空気が、ほんの少しだけめくれた気がした。

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