【通算084|要求AI 01】前回の予告を、いったん撤回します — 10年の年表を引いたら、世界は別の場所にいた
前回、私はこう宣言した。
「『ソフトウェア要求』と『ビジュアルモデル』の2冊を土台に、AI時代の要求の扱い方を考えていく」
その予告を、今日いったん撤回する。連載を始める前に、AIを使って本気でリサーチをかけた——数十のソースを集め、主張ひとつひとつに反証チェックをかけた——ところ、私の想定と世界の現在地がズレていたからだ。
10年の年表を引いてみる
まず、時間の流れを整理したい。
2013年 『ソフトウェア要求のためのビジュアルモデル』邦訳刊行。要求を22種の図・表で表す方法論
2014年 『ソフトウェア要求 第3版』邦訳刊行。要求開発の定番教科書
2010年代〜 この間も「要求工学(Requirements Engineering)」という分野で、要求のより良い扱い方の研究と実践は着実に続いていた
2022年末〜 生成AIブーム。AIがコードを書き始める
2025年初頭 「バイブコーディング」が流行。ノリでAIに作らせる開発スタイル。だが流行とほぼ同時に、「意図したとおりのソフトウェアが作れない」という問題が噴き出した
2025年7月〜9月 その対処として SDD(spec-driven development/仕様駆動開発) という流れが生まれ、一気に製品化された
つまり、2冊の書籍から現在まで10年以上。その間に要求の世界は止まっていたのではなく、別の入口から、別のプレイヤーが入ってきたのだ。
意外だったのは「誰が」作ったか
SDDの具体的な製品は、現在3種類が代表格だ。
Kiro(AWS)— 要件定義書→設計書→タスクリストを先に作らせるAI開発環境
Spec Kit(GitHub)— オープンソースの仕様駆動ツールキット
Tessl — 人間は仕様だけを書き、コードは全て生成物とする急進派
要求工学の側がAIを取り込んだのではない。AIを提供する側(AWSやGitHub)が、「要求に基づくプログラミング」に挑戦し始めた。書籍が示した方法論はそれなりの成果を上げてきたが、AI活用という点では要求工学はまだ途上——その空白に、AI陣営が先に手を伸ばした格好だ。
リサーチの一番の収穫は、この「地図」だった
では、書籍はもう古いのか。そうは思わない。調べる過程で、私にとって一番の収穫になったのは、『ビジュアルモデル』が示していた要求の整理軸だ。それを私なりに1枚に描き直してみた。

要求は、目標・人間・システム・データの4つの視点で可視化する。
注目してほしいのは配置だ。システムは中央にあり、目標・人間・データの3つに囲まれている。私たちがAIに渡しがちなのはシステムの視点(機能の話)だけで、残りの3つの視点は「当たり前」として文章に書かれない。そこが曖昧さの住処になる。
そして今のSDD製品が厚く支援してくれるのも、主にシステムの視点だ。残りの3つをどう扱うか——ここにこそ、10年前の書籍の知恵とベテランの経験が生きる余地がある。
この連載は、この「4つの視点」を中心に組み立て直す。明日から毎日1話ずつ、4つの視点をめぐりながら、AI時代の要求の扱い方を検分していく。
今日のまとめ
2冊の書籍の刊行から10年以上。要求工学は続いていたが、AI活用ではまだ途上
バイブコーディングの流行(2025年初頭)と同時に「意図と違うものができる」問題が噴出し、その対処としてSDD(Kiro・Spec Kit・Tessl)が製品化された
SDDが厚いのは「システムの視点」。要求には他に「目標・人間・データ」の視点があり、そこが曖昧さの住処
連載は「要求を可視化する4つの視点」を軸に組み立て直し、明日から毎日更新する
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