神戸製鋼所のプロジェクト管理——「10年単位の仕事」をWBSで管理した人たちのこと|SEとして歩んだ30年を振り返る⑥
「10年後に竣工するプラントを、今日管理する」
そういう仕事をしている人たちのシステムを作る機会があった。あの現場が、私の「プロジェクト管理観」を根底から変えた。
1980年代後半、神戸製鋼所へ
前回は「人月の神話」とブルックスの法則について書いた。今回は1980年代後半、私が関わった現場の話だ。それまでのシステム開発とは毛色の違う、重厚な仕事だった。
受注したのは、神戸製鋼所(現コベルコ)エンジニアリング事業部向けのプロジェクト管理システムだ。
エンジニアリング事業部が手がけるのは、石油精製プラントや化学プラントといった大規模な設備工事だ。
「10年単位」という時間軸
このプロジェクトのユーザーたちの仕事の規模が、まず違った。
着工から竣工まで10年単位のプロジェクトがある
コストは数百億円規模になることもある
関わる専門職の数は数百人から数千人
現場は国内だけでなく、海外も含まれる
そういうプロジェクトを管理する人たちが、私たちのシステムのユーザーだった。
プロジェクトマネージャー(PM)たちは、一流のエンジニアでもあった。プラントの設計・調達・建設を熟知した上で、コスト・品質・スケジュールの三つを同時に管理する。そういう仕事だ。
1台100万円のAppleコンピューターが、PMに1人1台
このプロジェクトで驚いたのが、使用するコンピューターだった。
Apple Lisaや初期のMacintosh——1台100万円以上するコンピューターを、PMたちは1人1台持っていた。
1980年代後半、まだパソコンが一般的ではない時代に、だ。
これがなぜかというと、このシステムの中核にWBS(Work Breakdown Structure)があったからだ。
WBSとは、プロジェクトの作業を細かく分解して、階層構造で整理したものだ。「この作業は何を達成するための作業か」を可視化する手法で、Appleのグラフィカルな画面が、この階層構造を表示するのに最適だった。
WBSで「見えない仕事」を見える化する
10年かかるプラント建設プロジェクトの何が難しいか。
それは「今日の仕事が、10年後の完成にどうつながるか」が見えにくいことだ。
WBSはこれを解決する。大きなゴールを小さな作業に分解し、それぞれの担当・期限・コストを割り当てる。
これにより、
全体の中で今どこにいるか
遅れが出たとき、どこに影響するか
コストの見通しが今どうなっているか
が、リアルタイムで分かるようになる。
私はこのシステムを作りながら、「プロジェクト管理とは何か」を初めて深く考えた。
このシステムが教えてくれたこと
神戸製鋼所のPMたちと仕事をして、学んだことがある。
「大きな仕事を成し遂げる人は、小さな単位への分解が上手い」
10年後に竣工するプラントも、今日の作業に分解できる。今日の作業を正確に把握できる人が、10年後のゴールに近づける。
これはソフトウェア開発にも、今の個人ビジネスにも、まったく同じことが言える。
AIを使った個人プロジェクトを今進めているが、WBSの考え方は変わらず役に立っている。「今日、具体的に何をするか」を決めることが、長期の目標に近づく唯一の方法だからだ。
まとめ
1980年代後半、神戸製鋼所エンジニアリング事業部向けのプロジェクト管理システムを開発
10年単位のプラント建設プロジェクトを管理するPMたちが相手
Apple Macintoshを使ったWBSシステムで、大規模プロジェクトの可視化を実現
「大きな仕事を成し遂げる人は、小さな単位への分解が上手い」という視点を得た
次回⑦では、アパレルメーカー・ワールドの商品物流システムの話。「売ること」と「届けること」は違う——という話だ。
あなたに聞いてみたい
大きな目標に向かうとき、あなたはどうやって「今日やること」を決めていますか?
WBSに限らず、手帳術でも付箋管理でもAIツールでも。ぜひコメントで教えてください。
関連記事:
→ SEとして歩んだ30年を振り返る⑤-1|「人月の神話」が解き明かした失敗の理由
→ SEとして歩んだ30年を振り返る⑦|アパレル9ヶ月のサプライチェーン(次回)
元大手SIerのSE。50代で退職後、両親の認知症介護に5年間専念。現在は在宅でのAIエージェントビジネス構築に取り組み中。
#SE #システムエンジニア #プロジェクト管理 #WBS #神戸製鋼所 #Apple #1980年代 #50代 #キャリア
