個人情報保護法改悪で命を断とうとしている方の話を聞いてみた
注意:本記事には、センシティブな記述があります。
悩みや辛いことは、一人で抱え込まず、以下の窓口や、お住まいの町の相談窓口へ相談してください。
「友人のAが命を断とうとしている。
最近話題の個人情報保護法のニュースで気を病んでいる。
自殺する前に、自分の思いを話して、残しておきたいと言っている。一度会って話を聞いてくれないか。」
6月某日、ある方からそんな相談があった。
高市政権下で進められている個人情報保護法の改悪に対して、死をもって抗議したいのだそうだ。
「Aは、自分の人生経験から、個人情報保護法の『改正』が許せないと言っている。
自分について安易に知られる世界になるくらいなら、命を断ちたい。
そして、その前に、自分の思いを話しておきたいと思っている。」
相談を受けたあと、私は考え込み、その方としばらく話し込んだ。
その方自身もどうしていいか悩み、言葉では言い尽くせない感情を抱き、SNSに悩みをつづり、ときには号泣したこともあったそうだ。
しばらく話を聞いたあと、自分がYoutubeをやっていたことを思い出し、少しでも役に立てるならと思い、取材させていただくことにした。
私は普段、Youtuberとして、政治や社会について発信している。
高市政権や改憲に抗議するデモや、差別者によるヘイトデモや街頭宣伝への抗議活動を行いながら、差別者や地元のモスクなどへの取材も行っている。
私に相談をしてくれたのは、デモで出会った知人の方だった。
以下に書くのは、高市政権に対して、一死をもって報いようとしているAさんから、私たちに託されたメッセージである。
Aさんについて
Aさんとは、相談をくれた知人と私の3人で会うことになった。
周りに音が漏れないようにと、カラオケボックスの中で2時間ほど話を伺った。
Aさんは20代。
漫画の「カイジ」シリーズが好きで、しばらく『カイジ』の登場人物である利根川やハンチョウの話で盛り上がった。
「自殺」の二文字など思い浮かばないほど、明るく気さくな方だった。
「高市さんのことは否定も肯定もしない。
デモも行ってことがないし、政治も詳しくない。」
普段、政治に強い関心もなく、何かの運動をしているわけでもない、ごくごく「普通」の市民だった。
自民党の支持者ではないが、強く批判しているわけでもなかった。
そんなAさんだったが、ある日たまたまXで見た国会中継で、個人情報保護法の改悪が進められていることを知った。
2026年7月現在、個人情報保護法「改正」案は、衆議院を通過し、参議院での審議が始まっている。内閣総理大臣である高市早苗のもと、着々と施行の日が近づいている。
個人情報保護法改悪の建前は、AI活用をはじめとするデータの円滑な利活用を促進することだ。統計作成等に限定されるAI活用などで、本人の同意を得ず、外国企業や個人事業主が、本名と住所付きで、データ収集することができるようになる。
しかし、法案には本人の同意なしに病歴や犯罪歴などの「要配慮個人情報」を含むデータを第三者に提供できる特例が設けられており、人権などの観点から強い批判が上がっている。
Aさんが気に病んでいるのも、まさにその点だった。
「もしある人がの配偶者が不倫をして、性病をうつされたら、その病歴が公開される。
自分が障害を持っていたら、それも公開される。
犯罪被害歴も知られるのだから、強姦されて妊娠中絶すれば、それを知られる。
自分が知らない誰かが、自分を知っていることになる。
そして誰がどこまで知っているか、自分は分からない。
純粋に統計作成のための情報取得であっても、情報を知っている人とたまたま知り合うかもしれない。」
まるでジョージ・オーウェルの『1984年』のような世界に、Aさんは心の底から絶望していた。
Aさんは、かつてのある経験からPTSD(心的外傷後ストレス症)を発症したそうだ。
他にもAさんには摂食障害やアルコール依存症があり、最初は自分について詳しい話をするのを避けていた。
「自分について知られるのが嫌なわけじゃない。
しかし、目の前にいる人が、いくらでも自分のことを知っているかもしれない。そんな世界になるのはおかしい。」
Aさんは、そう言った。
命を断ちたい理由とAさんの過去
「見知らぬ誰かが、自分のことを知っている世界になるのが耐えられない」
私が個人情報保護法改悪を許せない理由を尋ねると、Aさんはそう教えてくれた。
「止めたいが、止められそうにない。
死をもって抗議したい。
国会前で焼身自殺するなど、象徴的な場所で社会に訴えたい。」
Aさんは、これまでにデモに行ったことがなく、自分の体力や気力をつかって世の中に訴える気力もないそうだ。
「『普通』に良い会社に入って、『普通』に良い人生を送ってきた。
その中で、生きることはコスパが悪いと思った。
前々から希死念慮がないわけではなかった。
それが、個人情報保護法『改正』でより強くなった。」
Aさんは明るく、そう語ってくれた。
やがて、少しためらいながら、自分の過去のことを語ってくれた。
Aさんは、子どものころ、家族からの性被害にあったのだそうだ。
PTSDを発症したのも、子どもの頃の経験が原因で、今でも、そのときの様子がフラッシュバックするのだそうだ。
誰にも知られたくない過去だが、個人情報保護法が改悪されれば、今後会うことになる企業の人たちが、自分について知っている世界になるかもしれない。
そうなったら、面接や商談などで、脅しの道具に使われるかもしれない。
当然ながら、個人情報保護法「改正」案には、人権の配慮などが盛り込まれている。
政府から見れば、悪用されるリスクは低く、考えられない。
しかし、「AI等での活用」という建前さえあれば、企業や政府は情報を収集することができる。そして、それを誰がどこまで知ったか、市民は把握することができない。
Aさんの病歴や過去の被害歴もまた、これから出会う誰かが知っているかもしれない。
目の前に現れた人が、自身の過去を知っていたら……。
Aさんは、そんな思いを抱えながら、淡々と「準備」を進めているそうだ。妹にLINEでノートを送り、それが「遺書」の代わりになっているそうだ。
「命を断つなら、準備して冷静にやりたい。
派手なのは目立つが、やっぱりなるべくしんどくない死に方がいい。
実行場所のホテルや特殊清掃も、自分で頼みたい。」
少し前まで楽しくカイジの話をしていたAさんは、そう淡々と、自分の人生の「行く末」を語った。
未来は僕らの手の中
私は最初、Aさんに対して、「自殺するのは抗議方法としてコスパが悪いですよ。」と言うつもりだった。
しかし、Aさんが淡々と自分が命を断とうとしている理由を語っているのを見て、少しずつ言葉が出なくなった。
「国会前に行くときは連絡して。」
そう苦し紛れに言うしかなかった。
そこで、知人が機転を利かせて、名古屋や岐阜でのデモについて語ってくれた。
その知人は、名駅前のデモに何度も参加し、今では自分でデモを呼びかけるようになった。
「スピーチとかしてみない?」
知人はAさんにそう声をかけた。
今のところ、Aさんは乗り気ではないらしい。
連絡先を交換し、しばらくデモや政治、YoutubeやSNSの話をして、そして、何曲かカイジの歌を聞いて、私たちは別れた。
今でも知人は、Aさんとこまめに会っているそうだ。
取材のあとも二人で飲みにいったらしく、知人から美味しそうな生ハムとお酒の写真が送られてきた。
とても微笑ましかった。
そんな日々が、いつまでも続いて欲しいと思った。
カイジのオープニングテーマは、THE BLUE HEARTSの『未来は僕らの手の中』。
次にAさんと会ったら、一緒に歌ってみたい。
Aさんが暮らしている町やその近くでも、デモが行われていると思う。
「くだらない世の中だ ションベンかけてやろう
打ちのめされる前に 僕等打ちのめしてやろう」
私は、デモを呼びかけるうちに、BLUE HEARTSの曲の意味が少しだけ分かった気がしている。
また生きてAさんと会うことがあったのなら、思いっきりカイジの好きなところを言い合いたい。
Aさんはお酒が好きなのだそうだ。
私はお酒が苦手だが、少しくらいなら一緒に飲んでみたい。
くだらない世の中だが、未来は僕らの手の中にあるのかもしれない。
