そもそも買う気にならない時代、AIに引用されれば売れるの?~”新しい買いたい”を創る不変の理論とは?~
初回は”AI狂騒曲”ともいえる現状への疑問を語り、その一方で前回は”AIが引用する情報とは何か?”といった記事を書くなど、思っていること言いたい放題の様相を呈してまいりましたが、今回はこのテーマの最終回として前回の最後のぶっこみである「この構造を活用してAIに引用されたとして、それで本当に売れるのでしょうか?」を回収したいと思います。
前々回の記事で「AIは何をしているのか?」という問いへの答えとして「既存のサイト(=すでに存在する情報の要約・提示」と申し上げました。これはマーケティング・生活者の商品購買の意思決定プロセスでいうと「既存(すでに存在している)市場における”最適化(=生活者が最終的に購買する商品を絞り込む工程)”」で特に機能すると思います。
もちろんこのプロセスはとても大事ですし、現在人気・需要が拡大している市場であればAIにより最適化精度が高まるのはとてもよいことです。ただ一見そう見える現状の中に、以下2つほど見過ごされがちな罠が潜んでいると考えています。
1つ目は「AI自体も、いつかコモディティ化するのでは?」
という観点です。現在繰り広げられているAIへの対応スピード競争で勝利した企業は、一旦は競合を上回る最適化力を得て、短期的に潤うことが予想されます。要は検索段階で一旦は競争優位に立つということです。ただどんなテクノロジー・イノベーションであっても、普及ステージを経てコモディティステージになるのは歴史が示すところ。以前では検索広告市場もそうであったように、AIもその運命からは逃れられないであろうとなった時に「最適化競争」で先行者利益を得ていた企業も、いずれ競合他社に追随されてその優位を失ってしまう。それもAIがもたらす爆発的な情報収集・要約力の向上と作業効率の向上により、あっという間にその均質化が訪れるのではという皮肉な話です。
2つ目は「人気・需要が拡大している既存市場ってそんなにあるんでしたっけ?」「それって続くんでしたっけ?」ということです
こんなデータがあります。
内容を要約すると現在95%が物価高を実感し、食品~レジャーまでの8カテゴリーの商品購入について「”今よりも安いものを選びたい”と考える層が15~30%」「”今よりも購入量を減らしたいと考える層が20~45%」という結果でした。ここに戦争による価格高騰が長期化したら、消費意欲はますます低下し、勝ち組カテゴリーがどんどん減少していくのはいうまでもないですよね?
そして人気カテゴリーになったとしても油断できません。昨年に様々なメディアのヒット番付でランキングに入った「リカバリーウェア」。市場は伸びるのかもしれませんがあっという間に各社が登場してきていますね。
このあと何かしらのイノベーション/社会情勢の変化がないと、あのリカバリーウェア市場ですら競争激化→レッドオーシャン→コモディティとなっていくのは経済学・マーケティング論の必定、それもAIによるイノベーションの高速化でそれはあっという間にその状況になると思うのは私だけなのでしょうか・・・?
といった嫌な話ばかりしていると
「じゃあ、どうするんだよ!?」
と怒られそうなのでそろそろ解決先に。
困った時ほど原則に立ち返れと申しますが、私がここで触れたいのは、今や日本でも経営の教科書化している
「両利きの経営」
という本です。
「両利きの経営」をかいつまんで説明すると、経営には「❶知の”深化”(=既存事業の効率アップ)」「❷知の”探索”(=新規事業の発見・確立)」の双方が大事という話。これをマーケティングにフォーカスして言えば、「❶知の”深化”」は「既存市場における需要の喚起効率」であり「❷知の”探索”」は「新規市場創造の探索・確立」となります。そして「新規市場=新商品・新事業」だけではなく「既存商品のリポジショニング」も含めて「❷知の”探索”」の領域となると思います。
この話に従って言うと今回のAI導入による最適化は「❶の既存市場における需要の喚起効率」に該当しますし、とても大事なテーマ。ただAIの激烈な進化、そして物価高・戦争・情報やテクノロジーの進化を考えると、この❶だけにパワーを特化して注ぐのは企業にとって非常に危険なやり方だと感じます。❶をやるとしても、やはり大事なのは併行して「❷知の”探索”=新規市場創造(=新商品の開発&既存商品のリポジショニング)の探索・確立」を追求し続けることだと思うのです。
ではどうしたらいいのか?これも原理原則から始めたいと思い、ここでもある本をご紹介したいと思います。
「ジョブ理論」という本です。
「ジョブ理論」では、人は商品を買っているのではなく、「ある状況(ジョブ)を解決する・充足する」を手段として商品を選ぶと考えます。例としてあげているミルクシェークの事例では「朝の通勤途中でミルクシェークを買う人」は「長い通勤時間の口さみしさを紛らわしたい」という”ジョブ”を解決したい。「休日にモールで子供にミルクシェークを買う父親」は「子供を気遣う父親気分を味わいたい」という”ジョブ”を充足したい、といったことです。ただこれはそんなに目新しいことではなく、元ハーバードビジネススクール教授であるセオドア・レビット教授の「ドリルではなく穴を売れ」という格言そのものですよね。ドリルを買う人の本当の目的はドリルという製品そのものではなく「(例えば子供の本棚をつくるために)穴をあけたい」というジョブと言い換えられると思います。
※ちなみに宣伝ですがw、私が会社のメンバーと共著で10年前(=ジョブ理論発刊の1年前)に書いた「カスタマーセントリック思考」という本では、このジョブにあたる部分を「生活欲求」と表現し、そのジョブ解決に最適な商品を選択したいという部分を「購買欲求」と表現しています。
新商品の開発・既存商品のリポジショニングを検討中のマーケターの方の多くは「そんなの当たり前だよ!」とおっしゃるかと思うのですが、実際ご自身の担当される商品・サービスのマーケティングにおいて、この”ジョブ”(穴/生活欲求)と”解決・充足策”(ドリル/購買欲求)のバランスは、どの程度うまくとれていらっしゃいますでしょうか?
私は仕事柄、膨大な数のマーケターの方と会っていますが、なかなかこの関係を正しくマネージしながらやれている方は多くないと感じます。
とにかく「他社にない性能を生み出せる自社独自の技術」を起点に「競合優位性」に偏重したマーケティング、つまり先ほどで言うと「穴」の話はまったくせずに「ドリルの性能」を全面に出したマーケティングをしがち。
新商品の開発・既存商品のリポジショニングをする際も、ペルソナを作っているケースを数多く拝見しますが、「”ジョブ”(穴をあける理由)」が何かが全く書いてないことや、あったとしてもそれも競争優位性から逆算した「こんな”ジョブ”持っている人いる?(いないんじゃない??)」というペルソナであることも結構あったりします・・・。
だからこそ、「生活者は何を求めているんだろう」「どんな“ジョブ”を解決したいと思っているんだろう」という視点に立って考えることが、新規市場創造(新商品の開発&既存商品のリポジショニング)の探索・確立には不可欠だと思うのです。
ここまで3回にわたって「AIがマーケティングにもたらすものは本質的に何なのか」について書いてきました。
1回目は、AIに引用されれば売れるという単純な話ではない▶AIがマーケティング(=売れる仕組みづくり)で果たす役割を見極めるべき、
という問題提起。
2回目は、AIに引用されるには、オーガニックな第三者情報が連鎖して生まれる構造をつくること、その際に重要となるKOI(Key Opinion Influencer)を知ることが有用であるということ。
そして今回は、AIの最適化競争で短期利益を獲得できたとして、情報・イノベーションスピードが速い中で生き残るには「新規市場創造(新商品の開発&既存商品のリポジショニング)の探索・確立」を生み出し続けることが必要。そのためには「ジョブ(穴/生活欲求)」と「解決・充足策(ドリル/購買欲求)」をセットで考えることが重要という話でした。
以上7年ぶりの参戦早々の3回シリーズ、お付き合い下さりありがとうございます。これを機にちょくちょく書いていけたらなぁと思うので、気が向いたらまたご覧頂けたら幸いです。今後ともよろしくお願いします!
