【構造実装】④制度圧の中で、成功定義は再配置できるか ―登校改善事例の構造検証(制度圧×外部構造×内部構造の統合実装)
※本記事では「責任配置」という語を使用していますが、現在は概念整理のため、「役割構造」という表現に更新しています。
本記事は、前回整理した「制度圧下での構造視点の駆動条件」を、実際の事例に当てはめた統合検証編です。理論編を未読の方は、先に以下をご参照ください。
はじめに.
ここまで、外部構造×内部構造で場を見て、外部構造に介入する「構造視点」の実装理論を整理してきました。前回の記事では、この外部構造を強く規定する装置である「制度圧」と、構造介入の際の「成功定義」の言語化を試みました。
本記事では、これらの 外部構造(+制度圧)×内部構造+成功定義が、実際にどのように複合的に場を動かすのか、あるいは動かせないのか、事例をケースワークとした構造整理を試みます。
1.ケースワーク:「登校不安定生徒の学校×福祉の連携支援」
①状況整理
ある教育機関において、登校が不安定となり進級要件を満たせなくなりつつある若年当事者がいた。担任がまず信頼関係をもとにヒアリングをおこない、保護者との連絡も担った。
情報A|面談の中で、当事者からは以下のような語りが得られた。
・学校に通う意味を感じにくい
・将来像はあるが、現在の学習との接続が弱い
・生活リズムが乱れている
・ゲーム依存をしてしまう
・家庭内に緊張関係がある
情報B|保護者からは以下のような語りを得た
・生活習慣の乱れへの困惑
・当事者を変えたい焦り
・家庭内の対立構造
・仲裁役としての疲労感
情報C|管理職とのやり取りで担任は以下の指示を得た
・面談と登校支援
・家庭連絡の緊密化
・外部連携先との接続
②構造介入と状況変容
当初は教育機関の制度通りに、「当事者の生活改善指導」「当事者の生活態度改善」等を焦点に指導相談がすすめられた。
情報A~Cを統合し、担任は
進級目標を管理職と共有しつつ、医療との接続を家庭に勧めることで進級までの時間的猶予を確保した。
当事者と保護者の語りから全体関係者のハブ化している保護者にアプローチすることで家族システムへの構造的介入が必要と位置づけ、第三者専門職の接続を図り、徐々に、家庭システム全体の再整理へと支援の重心を移した。
支援の方向性は次のように変化した。
1⃣ 個人改善
当事者の生活指導
当事者の出席管理
当事者の動機づけ面談
↓
2⃣ 構造的再配置
・家庭内役割の再確認
・調整機能を担う保護者への支援
・医療的視点の導入(当事者)
・第三者専門職の接続(保護者)
支援は「本人を変える」から、 「本人が変わりやすい条件を整える」へ移行しました。制度自体は劇的には変わりませんでしたが、関係者内での議論の質が変わりました。
③事例経過
・家庭内の緊張は徐々に緩和
・保護者の支援スタンスが変化
・当事者の生活リズムは一定の改善
・しかし在籍校での出席は安定せず
・結果的に環境変更(転学等)を本人が選択
新しい環境を選択してからは、当事者は前進している様子が確認されました。家庭内の当事者に対する受容性・支援性も高まっていることも確認されました。
2.構造的整理
◎外部構造の分析
教育機関:制度に基づいて担任が本人および保護者にアプローチ
家庭:本人の養育・教育責任
調整者(保護者):家庭内窓口
専門職(支援職):教育機関と連携して家庭にアプローチ
管理層:制度の運用責任主体
制度圧→ 進級要件→ 担任へ責任集中→ 保護者ハブ化→ 保護者の過負荷→ 当事者に「変われ圧」が集中
➡ あらゆる関係者の働きかけが、「保護者の調整機能」に集約していく
責任は分散しているようで、 実質的調整機能は一人の保護者に集中しています。制度圧は直接保護者を圧迫しているわけではないですが、責任再配置の連鎖の中で、結果的に保護者へ集中したといえます。
◆内部構造の仮説化
1️⃣ 当事者
・将来志向はある
・現在との接続が弱い
・生活リズムの乱れ
・家庭内関係の影響
2️⃣ 保護者
・仲裁役
・手詰まり感
・焦燥と責任感の混在
3️⃣ 組織側
・結果志向
・支援職への役割期待集中
当事者たちの内部構造が、外部構造に「漏れ出ている」状態(内部ストレスが外部役割に投影されている)だといえます。
◉部分成功の定義づけ
成功は「欠席の完全改善」ではありません。
教育・支援の現場における最上位目標が「当事者の自立成長」だとすれば、構造視点から見た成功は以下のように整理できます。
家庭内緊張の緩和
保護者の視点転換
当事者の選択肢拡張
新環境での前進
つまり、外部構造と内部構造の再配置が起きたことです。
制度圧そのものは変えられません。しかし、制度圧の中で「成功定義」をどこに置くかは、現場裁量に依存しています。この点は、制度圧を構造装置として整理した前回で触れた通りです。
3.教育×福祉に共通する骨格
この事例からは、教育領域と福祉領域に共通する構造が抽出できます。
1️⃣ 「本人を変える」圧力の集中
2️⃣ 実質的ハブの存在
3️⃣ 責任の曖昧化
4️⃣ 道徳語の増殖
5️⃣ 内部構造を読まない介入の防衛化
これは、教育でも福祉でも同型でしょう。
4.理論上の限界
この事例は、
専門職資源が存在した
医療接続が可能だった
という条件下で成立しています。
資源が乏しい場合、同様の再配置は可能か?
ここが今後の検証課題です。
また本事例は、制度圧が完全に緩和された環境ではなく、むしろ制度圧が存在したまま成立しています。この点は、制度圧下で構造視点がどのように駆動するかを整理した前記事と接続しています。
おわりに.
本記事では、これまで整理してきた構造要素の複合
外部構造(+制度圧)×内部構造+成功定義
が、実際にどのように場を動かすのか、あるいは動かせないのかを、ある事例をケースワークとして構造整理を試みました。
本事例では、本人の登校状況は改善されませんでした。この部分を見れば構造介入は失敗しています。
ただ一方で、成功定義を「本人が自分の将来を自ら考えられるようになること」と再配置し構造介入先を絞ったことで、「保護者の視点転換」→「家庭内緊張の緩和」→「当事者の選択肢拡張」と構造変容が連鎖し、結果「当事者の新環境での前進」につながっていきました。
これは構造介入が一因として作用した可能性は高いですが、他要因との相互作用(医療接続や発達段階の自然変化、転学環境の適合性)の中で生じた変化であるとも考えられます。
この事例が示すように、構造介入は「結果を保証する技術」ではなく、「可能性を拡張する技術」であるとも言えます。
⏹️本記事は、マガジン
「壊れない現場 ― 教育・支援を『構造視点』で翻訳設計する」
の一部です。教育や支援の現場で起きる出来事を、個人の資質や努力に回収せず、関係構造・責任配置・行動誘因(=構造)から読み解き、現場を構造として翻訳し直す視点を順に整理しています。
このシリーズでは、
違和感 → 構造分析 → 構造視点 → 構造翻訳 → 構造設計 → 実装
という流れで、壊れない現場を構造から考えていきます。
はじめて読む方は、以下の記事からご覧ください。① 善意も熱意もあるのに、うまくいかない
② 問題は「人」ではなく「構造」にある
■ 壊れない現場 ― 構造視点シリーズ(マガジン一覧)
