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【構造実装】②「ルールを変える」のではなく、「成功定義を動かす」―スマホ規制をめぐる年間の組織翻訳(組織実装)

本記事は、前回整理した「個人翻訳」を組織へ拡張した実践です。「構造実装」シリーズの第二段階(組織実装)にあたります。学校におけるスマホルール変更を事例に、構造設計を組織に組み込む組織実装を整理します。
前回はこちら↓

はじめに.

スマホルールは、学校にとって扱いの難しいテーマです。

  • 依存への懸念

  • 学習環境への影響

  • 保護者の目

  • 地域の目

  • 他校との比較

だからこそ、多くの学校では、スマホルールはこうなります。

「全面禁止。見つけたら没収。」

私の学校もそうでした。



1.形式と実態の乖離

学校では、

朝のホームルームから清掃終了まで使用禁止
発見した場合は没収し担任へ

という運用ルールでした。

しかし実際には、以下のような状況でした。

・教員居所と生徒教室は離れている
・休憩中は常時把握・監督できない
・多くの生徒は教員の目をかいくぐり使っている
・教員も実態をわかっている
・取り上げ指導は強い抵抗を招き、数もキリがない
・生徒“密告”「あいつ使ってました」の対処の難しさ

その結果、

表向きは禁止、実態は黙認

という二重構造が生まれていました。
建前で圧をかける、というわけです。
私はここの構造の不整合に違和感を覚えました。


2.最初は「制度批判」しない

私は職員会議で

「ルールは間違っている」

とは言いませんでした。
その代わり、年度末の振り返りアンケートで、以下の趣旨を毎年書きました。

・「子供にどうなってほしい」ルールか
・時と場所を踏まえた主体的行動の育成ではないか
・休憩と授業を区別させる方が現実的ではないか
・その方が教員も生徒も持続可能ではないか

これは制度批判ではなく、
成功定義への問いでした。

ただし、この段階では制度は変わりません。


3.動きはじめた構造

2年が経ちました。この数年間は、生徒会選挙で「スマホルール改定」を訴える生徒が毎年当選していました。
生徒側にも問題意識が蓄積していたのです。

その後、

生徒指導部から
「スマホルール変更を審議する」

という提案があり、教員に向けて制度変更のための意見調査アンケートが実施されました。
ここで初めて、制度が動き始めました。


4.会議での転換点

職員会議で、生徒指導部長は言いました。

「ルールを変更する。」
「ただし規律が緩まないよう釘を差す。」

ここで私は、職員会議で問いを置きました。


「生徒会選挙で毎年スマホルール変更を求める生徒が当選していましたが、このルール変更は、生徒指導の独自提案ですか?生徒の要望も影響していますか?」

指導部長
「生徒の動き“も”あります」


「もし、生徒の動きも影響しており、この制度変更の議論があるなら、この機会をとらえて生徒会の生徒から、
『私たちが訴えてきたことが実を結んだ』
『だからこそ責任を持って使おう』
と呼びかけさせてはどうでしょうか?」
「その後に生徒指導部が学校として話せば、二重の釘として機能するのではないでしょうか。生徒にとっても、“使う責任”を学んでもらう丁度よい機会にもなるのではと思います。」

職員会議は、

生徒指導部と生徒会が連携を取って、生徒への伝え方を検討する

という方向性に落ち着きました。
ここで私がやったのは、ルールの是非を論じることではありません。
発信源を再配置する提案でした。


5.何が変わったのか

その後、以下の状況変化が起きました。

⚫️生徒総会
・生徒会長がスマホルールの変更を説明
・生徒指導部長、教頭が補足

⚫️昼の放送
・生徒会が適正利用を呼びかけ

⚫️職員会議
・「分別を持って使えているようだ」「よい息抜きとして使い、切り替えできているように思う」と教員から報告

変わったのは文言だけではありません。
変わったのは、以下の3つの構造配置です。

  • 成功定義(禁止 → 適正利用)

  • 責任主体(管理側単独 → 生徒会+管理側)

  • 規範の発信源

「スマホにかまけさせない」という、制度目的は変わっていません。


6.結果

その後、学校は以下のようになりました。

・生徒の表立った反発は減った
・使用は「場面限定」に近づいた
・教員の摩擦コストも下がった

全面的な理想状態ではありません。
しかし、

形式と実態の乖離は縮小した

これは確かです。


7.ピアス事例との違い

前回のピアス事例で私は、
現場で成功定義を読み替えました。

しかしスマホ事例では、

成功定義を組織内で言語化し、発信構造を設計

しました。これは個人の構造設計ではなく、組織の構造介入といえます。


8.留意すべき諸条件

もちろん、この事例の土壌として、

  • 生徒会の成熟

  • 時間の蓄積

  • 職員間の意識醸成

が連環的に作用しています。職員会議での構造介入だけで説明はできません。

しかし、

成功定義の再配置と責任再分配が、
現場の納得度を高めた確からしさは高い

と私は考えています。


さいごに.

私はルールを変えたのではありません。
成功定義と発信源を動かしたのです。

制度圧は消えていません。
しかし、

  • 成功定義

  • 責任配置

  • 発信構造

は設計できます。

ピアス事例が「現場翻訳」だとすれば、このスマホ事例は「組織翻訳」です。

次は、その翻訳を個人に依存させないための会議設計へ進みます。

⚫️ 構造実装の三段階
① 現場翻訳(ピアス事例)
② 組織翻訳(本稿)
③ 制度化(会議設計)



⏹️本記事は、マガジン
「壊れない現場 ― 教育・支援を『構造視点』で翻訳設計する」
の一部です。教育や支援の現場で起きる出来事を、個人の資質や努力に回収せず、関係構造・責任配置・行動誘因(=構造)から読み解き、現場を構造として翻訳し直す視点を順に整理しています。
このシリーズでは、
違和感 → 構造分析 → 構造視点 → 構造翻訳  → 構造設計 → 実装
という流れで、壊れない現場を構造から考えていきます。
はじめて読む方は、以下の記事からご覧ください。① 善意も熱意もあるのに、うまくいかない
② 問題は「人」ではなく「構造」にある

■ 壊れない現場 ― 構造視点シリーズ(マガジン一覧)



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