街中で会った凄い人。苦労話で終わらない笑顔の人|街の人々①
街で、凄い人に会いました。
といっても、有名人などではありません。
あるお店で働いていた女の人です。
仕事の合間に、少しだけ言葉を交わしたことがきっかけでした。
「口元の両サイドにピアス開けてるのは、なにかこだわりがあるんですか?」
自分を可愛がるために
彼女は、服飾の専門学校に通っているそうです。
口もとだけでなく、いくつかピアスとタトゥーがあるとのこと。
だけど、それは誰かに見せるためではないそうです。
「私はかわいい、と思うため」
人からどう見られるかではなく、自分がかわいいと思えること。
自分の身体を、自分の美意識で扱うこと。
そこには、軽やかな自己表現がありました。
そうして話しているうちに、彼女の人生が少しずつ見えてきました。
18歳で介護職に就いて、その後に結婚と離婚を経験。
いまは改めて専門学校に通いながら、将来的には自分の店を持ちたいと考えているとのこと。
すでに実際の現場を回って、研究を重ねているようでした。
ただ「店をやりたい」というより、
「自分が本当にいいと思える空間をつくりたい」という印象を受けました。
生活の実感からくる身体知
見た目の若さに反して、芯の強さを感じます。
その理由の一つは、彼女の育った環境かもしれません。
年の離れた弟がいるらしく、中学生の頃から、ミルク、沐浴、オムツ替え、寝かしつけなどを、育児の多くを担っていたそうです。
ただ、彼女はそれを「つらかった過去」として語っていませんでした。
もちろん、実際には大変だったでしょうし、本人の中に傷はあるのかもしれません。
けれど、少なくとも僕が受けた印象は、
「傷ついた人」というより、「早く大人にならざるを得なかった人」でした。
僕からも、家庭や仕事の悩みを手短に話しました。
どれも、簡単に答えの出ない話です。
しかし、彼女の眉間や口角から、気軽に「わかる」と言ったわけではなく、
彼女自身の経験の深さから、こちらの話を受け止めてくれたと伝わってきました。
たぶん彼女は、きれいに整理された考えというより、生活の実感として、人間の生きづらさを知っているのだと思います。
家庭の中で、自分の意思とは関係なく、役割を背負わされること。
人の世話をすることの重さ。
それでも、自分の人生を自分のものとして生きること。
そういうものを、彼女は23歳にして、かなり深いところで「知っている」ように見えました。
強い人だからこそ
一方で、彼女自身も悩んでいました。
「やることが多すぎる」
「落ち着きたい」
彼女は、同じ店のスタッフに「推し」がいるそうです。5つ上の女性。
まったく状況を想像できないけど、その人のうちわを作って、仕事中に振り回すほど推しているとのことでした。
顔がいいそうです。一見ミステリアスだけど、実はよく笑う人だと。
話だけ聞くと、明るくて、少し面白い推し活です。
「できれば結婚したい」と彼女は笑って言いました。
僕が彼女を「凄い人」だと思ったのは、たくさん苦労してきたからではありません。
ただ「大変だった」で終わらない。肌感覚として、人の痛みに共感できる。
痛みを知って、それでも夢に希望を抱く。
好きな人を、全力で推す。
そして、明るく笑う。
傷ついた経験を持ちながら、それを自分の美意識や人を見る力に変えてきた人なのだと思います。
彼女の人生は、まだこれから長いです。
いつかお店を出したら、行ってみたいと思います。
