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習作 三題噺『迷える古道具屋』 2025/09/09


『迷える古道具屋』

この町の路地裏には、誰も知らない古道具屋があるという。
閉店した店から払い出された品々や、無縁仏の遺品などが、次の主を求めて眠っているらしい。
商品たちから呼ばれた者だけが、その店にたどり着けるのだそうだ。
今日もまた、誰かに呼ばれた迷子がひとり、店の暖簾をくぐっていく。
「えっと、すみませーん、どなたかいらっしゃいますか?」
その声に反応したのか、店の奥から店主が現れた。つばの長い帽子をかぶっており、その表情はうかがい知れない。
「いらっしゃいませ、ようこそ迷える古道具屋へ。」
「あ、ごめんなさい、ちょっと道に迷っちゃって、駅への道を教えていただけないかなと。」
男は電波を探すかのようにスマホをあちこちへかざしているが、成果はないようだ。
「それはそれは、さぞかしお困りでしょう。それでしたら当店のいずれかの品が貴方を導いてくださるでしょう。気になるものはございますかな?」
「買いに来たわけじゃないんだけど、やっぱり何か買うしかないのかなあ……あれ、これは……」
と、困り顔を浮かべながらぐるりと店内を見回していると、店の奥にかかっていたジャケットが、淡い光を放っていた。
「どうやら、そのジャケットが貴方をこの店へ導いたようですな。」
「え?このジャケットが?」
「ええ、本人が求めているのであればお代は結構です。どうぞご自由にお持ちくだされ。」
男が事態を飲み込む前に、店主はジャケットを男に手渡す。
「は、はあ。まあそうおっしゃるのでしたら、ありがとうございます。」
ジャケットを手に男が店を出ると、目の前に駅が見えた。
「え?あれ?」
思わず後ろを振り返っても、そこにはただビルの壁があるだけで、あの店はどこにも見当たらない。
「またご縁がございましたら、いつでもお越しくださいませ。」
店主のしわがれ声がどこからともなく聞こえた気がした。
空を見上げれば、どこかで見たようなつばの長い帽子が風に乗って踊っていた。


本日のお題

1つ目は『路地裏』
2つ目は『ジャケット』
3つ目は『眠る』

三題噺(さんだいばなし)ガチャ
https://odaibako.net/gacha/293


「原稿用紙二枚分の文芸賞」


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