命の境界線を超えて㊶ 世界に根を張る

GCUの専用ベビーバスで沐浴=Illustrated by Nano Banana 2

 ママが沐浴をさせている時、タライがずいぶん狭くなったように感じた。初めてのお風呂の時は、突っ張った足がタライの縁にようやく届くくらいだったのに、今はもう窮屈そうだ。こんな何気ないところにも、確かな成長を実感する。

 この日の体重は2499グラム。惜しい! 2500グラムまで、わずか1グラム足りなかった。出生時の体重が2500グラム未満の子は「低出生体重児」と呼ばれる。もちろん、これは出生時体重による分類だから、2500グラムを超えれば「卒業」というわけではない。それでも、ぼくらにとって2500グラムは、大きな節目のように思えた。日ごとに重みを増していく娘を目の当たりにするのは、親としてこの上ない喜びだった。

 口から胃へ入っていた経管栄養チューブは、もう外されている。今は鼻から胃へ入れたチューブを通して、お風呂上がりにミルクを注入する。口から飲むことには、これからゆっくり、ゆっくり挑戦していく。「本来の出産予定日(2月27日)ごろまでにできるようになれば大丈夫ですよ」という看護師さんの言葉が、優しく響いた。

 「エアーおしゃぶり」は、驚くほど上手になった。時々ピタッと止まっては、また一生懸命に口を動かす。こんなに上手に吸えるのに、ミルクを飲むとなるとまだ難しい。吸うことはできても、吸う、飲み込む、呼吸する——この三つをうまく合わせるのが、今の彼女にとっての大きなハードルなのだろう。

 翌日、誕生から88日目を迎えた。末広がりの「八」が二つ並んだ、縁起の良い日だ。

 「今日はなんだか、お顔が違うね」と妻が言った。成長につれて、少しずつ赤ちゃんらしい顔つきに変わっていく。体重は2543グラムに達し、オムツもさらにひと回り大きいサイズになった。

 「どうですか? デカパンの履き心地は?」

 ママが冗談めかして声をかける。身につけるものが大きくなっていくたびに、彼女がこの世界に根を張っていくのを感じる。

 2月9日、また一歩前進があった。酸素チューブが変わったのだ。これまでは鼻の穴に直接差し込む形だったが、「新型」は鼻先にそっと当てて酸素を流すタイプだった。

 そして、ついにNICUに隣接する「新生児回復治療室(GCU)」へ、初めての「お出かけ」をした。GCUはいわば、おうちへ帰るための練習の場だ。そこで、専用のベビーバスを使って初めて沐浴した。

 これまではオープンベッドの横にタライを置いて沐浴させていたが、理容室のシャンプー台のような専用のベビーバスは、小さな赤ちゃんを安全に入れられるよう工夫が凝らされている。すぐ横の壁からは直接酸素が供給され、チューブをつけたまま入浴させることができる。お風呂上がりに体を拭くのも、着替えさせるのも、十分なスペースがあって非常にスムーズだ。

 「あ、浮いた!」

 男性看護師さんに教わりながら娘を支えていた時、ほんの少し力を緩めると、娘の体がふわりとお湯に浮いた。その姿が、自分の力で呼吸しながら少しずつ大きくなっている証しのように、ぼくには思えた。

 「おとうちゃん、また撮ってるよ~」

 妻が笑う。娘も、そう言いたげな表情を浮かべていた。誕生から一日も欠かさず、ぼくは動画を回し続けている。中途半端を嫌うぼくのこだわりであり、同時に欠点でもあるのだが、この記録だけはやめるわけにはいかなかった。

 親としての責任。毎日娘と接し、オムツを替え、沐浴をさせ、カンガルーケアでその鼓動を感じるうちに、ぼくはその重みを少しずつ実感するようになっていた。自分のことは後回し。娘が無事に独り立ちするまで、その責任は続いていく。

 親になるというだけで、人が突然、立派になるわけではない。ぼくは両親から惜しみない愛を受けて育った自負があるが、それでも自分に「親の資格」があるのか、一抹の不安を拭い去ることはできなかった。

 とにかく、ずっと見守っていくよ。ぼくにできるのは、それだけだから――。

 ぼくは心の中で、小さな背中にそっと語りかけた。

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桐生毅 拙い文章なのに高い評価をいただき、本当にありがとうございます!いただいたチップは、作家としての取材費や、困っている人々のために使わせていただきます😃