メモ 大統領制を採用していても、権力分立が維持される保証はない
大統領制は国家元首を大統領が務める政治制度をいい、その起源はアメリカの憲法です。高校生から学部生向けの政治学教育では大統領制の特性を議院内閣制と比べながら教えることが一般的であり、大統領制の下では政府の独立性が強くなるが、その権力は議会、裁判所によって相互に抑制されるなどと説明しがちです。
このような説明は権力分立の考え方を伝えるためであれば適切ですが、大統領制の説明としては問題があります。なぜなら、政治学の研究が進んだことで、大統領制を採用している国々で政府の権力が肥大化し、議会や裁判所との権力分立を脅かすケースが相次いで報告されるようになってきたためです。
大統領制の事例で興味深いのは、ブラジルの大統領制の事例です。Pereira et al.(2008)が報告している通り、ブラジルの憲法では、「緊急性」があると認められた場合に、暫定的措置として大統領に法令と同じ効力がある政令を制定する権限が付与されていました。ただし、その政令は議会で法令化されなければ30日が経過した後に失効することが定められています。
つまり、政府の決定に対して議会の承認を必要とする制度が採用されていたのですが、実際に憲法が運用されると、ブラジルの大統領は「緊急性」を拡大解釈して自在に政令を制定した上に、同じ政令を1か月ごとに再制定することによって、議会の承認手続きを回避するようになりました。政府が議会から独立して事実上の立法権力を行使できる状態になったのです。
2001年の憲法改正で大統領が制定した政令を60日の間は有効と見なした上で、その再制定を1度だけ認める制度を導入しました。興味深いのは、45日以内に議会が政令に関して具体的な行動を起こさない場合、その政令が自動的に最優先の議題とすることが義務付けられたことです。
これにより、政府の権力を制限することが期待されましたが、結果は期待を裏切るものでした。というのも、その後のブラジルでは大統領がより多くの政令を制定するようになった上に、政府が議会の活動を以前よりも強く操作し始めたためです。大統領は予算執行権、緊急時の法案提出権、そして政令制定権を駆使して議会を構成する議員の政治行動にさまざまな影響力を行使するようになりました。
大統領は議会を構成する議員から自分に協力的な人物を選別し、彼らを優先的に閣僚に加えることを約束し、あるいは議会内部に置かれた委員会の人事で優遇することを約束することで、多数の議員を味方に引き入れるようになりました。改正によって大統領が制定した政令を議会で優先的に審議しなければならなくなったことで、議会の議事は政府の管理を受けるようになり、独自に議事を進めることができなくなりました。いわば、議会は政府に従属するようになり、立法実績を見ても政令が法令化される頻度は大きく上昇しました。
大統領制の下で政府の権力が次第に肥大化していく傾向があるのは、ブラジルだけではありません。アメリカやヨーロッパの先進国であっても、大統領制が権力分立を持続させる上で悪影響をもたらす恐れがあることが議論されるようになっています。
参考文献
Chaisty P., Cheeseman, N., Power, T. 2014. Rethinking the ‘presidentialism debate’: conceptualizing coalitional politics in cross-regional perspective. Democratization, 21:72–94.
Pereira, C., Power, T. J., Rennó, L. R. 2008. Agenda power, executive decree authority, and the mixed results of reform in the Brazilian Congress. Legislative Studies Quarterly, 33:5–33.
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