小説・祭りのあと【あとがき】

この小説は昨年亡くなった父が遺したものだった。確か5年以上も前に書いていたもので、放置されていたパソコンに保存されているのは私も知っていた。さほど興味がなかったので、今回アップすることを決めるまで冒頭数行しか読んだことがなかった。

内容について、どこまでが事実でどこからが創作なのかも謎のままだ。でも父の回想なのだろうと勝手に予想している。
当時、学生運動をしていたことは何となく知っていたが、本人から直接聞いたことは記憶にない。母や兄から聞いた話では、一時は中枢にいたとか何とか。学生運動には過激なイメージしかなかったし、実際、おおっぴらにできない空気もあった。そのうち学生運動の話など忘れ、最後まで詳しい話は聞けずに終わった。この小説を読んでみて、父は過激な方向に走る前に疑問を持って自らの意志でやめたことを知った。私はこういう話に疎いし、詳しく調べる気もないが、理想に燃える若者が参加するには、それなりの理由があったのだろう。純粋で正義感が強い父だったので、分かるような気がする。

この話はそんな学生運動から足を洗った後の平凡な日常をつづっている。やたらと「2流大学」という単語が出てきているのに、強い学歴コンプレックスを感じる。第一志望の国立に落ちた父の学生当時の悔しさは知るすべもないが、少なくともその後入社した会社で学閥に翻弄されたのは、私に向かって言うでなくとも聞こえてくる話で理解できた。
ただ、持前の正義感と勤勉さ、時には強情ともいえる意志によって頭角を現し、社内ではなかなかの有名人だったとか。情にも厚く、子どもから見ても少々めんどくさいなというところもあったが、愛される人だった。同時にそれを疎ましく思う人も多かったようだ。「弱きを助け強きを挫く」を体現し、権力に媚びない姿勢を貫いた。それが仇となって最後は就けるはずだった役職に届かず終わった。こうやって書いてみると、最後の最後は学歴など関係なかったのではとも思うが、仕事人生においてはかなり辛酸を舐めてきたのだろう。

父は歳をとるにつれ——特に退職後は、ちょっとしたトラブルやテレビのニュースにやたらと怒るようになった。同世代の男性には似たタイプが多いという。希望に満ちた高度経済成長の真っただ中にあって、男たるものこうあるべし、みたいな像に従って家庭もそこそこに仕事にまい進していた。それが正しい姿であったのに、時代が変わると間違っているかのように言われることも増えたからだろうか。正義を貫いたはずの仕事も報われず、誰に向けて良いか分からない怒りや寂しさがあったのかなとも思う。
「報われず」というのは本人の心の中がそうだろうということで、現実は違うと思っている。元同僚や後輩、再就職後に数年過ごしただけの同僚まで、父の死を心から悲しむ人が多く本当にびっくりした。私が死んでもここまで悲しむ人がいるだろうかと。「父さんのやり方は間違ってなかったよ」と教えてあげたい。私も父の生き方や仕事への姿勢を心から尊敬している。

この小説を読むことで、父の若い頃のみずみずしい気持ちを垣間見ることができ、温かい気持ちになった。また、なかなか繊細な描写をすることを意外に思った。
執筆当時、父は母には官能小説を書いていることにしていたらしい。「全然違うよ」と母に軽く内容を話すと「官能小説書いてるから、いっぱい読まなアカンねん、って言ってたけど」と驚いていた。あまのじゃくな父だが、母は情緒ってやつをさほど持ち合わせていない。見た目や表面上は強気で乱暴者っぽい風貌をしているが、その辺の人よりよほど繊細な父は、茶化されるだけだと判断して止めたに違いない。

私には「直木賞とるねん」と冗談めかして言っていたが、約1万字で終わっている所をみると、早々に諦めたらしい。おそらく父にとっての最初で最後の作品だ。これがもともと短編なのか、本当は続きを書くつもりだったのか、今となっては分からないのだが、どちらにしろ書けなかっただろう。

編集に当たっては、筆者が故人であり思い出として公開したという主旨であるため、極力いじらないようにした。「2流」という言葉の連発は少々くどい、職業柄か数値の描写が無駄に詳しい、急展開の割に掘り下げが甘い、なんてことも思ったけれどご愛敬ということで。また、私も編集をやっていたとはいえ、まったく分野が違うため、あまり上手とは言えませんが大目に見てやってください。

今まで公開しようなんて全く思っていなかったのが、間もなく1周忌を迎えるこの時に決めたのが少し不思議だ。父が望んだのかもしれない。

そうそう、タイトルがなかったので、冒頭を読んですぐに浮かんだ言葉に決めた。父と娘、最初で最後の共作となった。

祭りのあと —学生運動から日常に戻った青年の話―
作・父 編集・娘

小説「祭りのあと」はまとめて「小説のおきばしょ」に保存しています。

このほかも色々書いています。
図書目録にまとめていますので、よろしければご覧ください。






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