40mmで撮ると、あの頃の記憶が戻ってくる気がする。
写真を撮り始めた頃、自分がどんな風景を見ていたか、もう正確には思い出せない。
でも、40mmで撮った写真を見返すと、なぜかあの頃の空気感が戻ってくる気がする。光の角度とか、道の質感とか、誰かの後ろ姿とか。記録というより、記憶に近いもの。そういう写真が、40mmで撮ったものに多い。
最初はそれが偶然だと思っていた。でも気づいたら、カバンの中にはいつも40mmのレンズが入っていて、街に出るとき自然と手が伸びるのも40mmで、ああ自分はこの画角が一番しっくりくるんだな、と思うようになった。

35mmでも50mmでもなく、40mmである理由。
正直に言うと、最初は40mmという焦点距離を意識して選んでいたわけじゃない。
35mmも使ったし、50mmも使った。35mmは広くて開放感があって、スナップには強い。でも少しだけ「広く撮ろうとしている自分」が出てしまう感じがして、ときどき自分の感覚とズレた。50mmは自然だと言われるし、確かに自然なんだけど、もう少しだけ引きたいな、という場面が多かった。
40mmは、その両方の違和感がなかった。
構えたとき、ファインダーの中の世界が「そのまま」に見える。誇張もなく、圧縮もなく、ただそこにある風景が、見たとおりに収まる。それが40mmだった。
人間の目は実際にはもっと広い範囲を見ているけれど、「意識して見ている部分」というのは案外狭い。気になったものに自然と目が向いて、その周囲はなんとなく存在している、という感覚。40mmはその「意識の中心」にいちばん近い画角なんじゃないかと、今は思っている。

思い出の中の映像は、だいたい40mmくらいの画角をしている。
子どもの頃の記憶を思い浮かべるとき、それは広角でも望遠でもない。
夕暮れの帰り道とか、友達と歩いた商店街とか、家族で出かけた海とか。頭の中に浮かぶ映像は、なんとなく自然な距離感で、広すぎず狭すぎない。ちょうど「その場にいた自分の目線」くらいの画角をしている。
それが40mmに近い気がしている。
だから40mmで撮った写真を見ると、撮った瞬間だけじゃなくて、もっと前の記憶まで引っ張り出されることがある。「あ、こういう光、昔も見たことある」「この道の感じ、どこかで知っている」そういう感覚。写真が記録であり、同時に記憶の入口になる。
それが自分にとって、40mmが特別な理由のひとつだと思う。

3本の40mm、それぞれの個性。
手元に40mmのレンズが3本ある。
Nikon Zf の純正 40mm F2、フォクトレンダーの40mm F1.4、そして40mm F1.2。気づいたらそうなっていた。同じ焦点距離を3本持っているというのは、客観的に見れば少し変かもしれないけれど、それぞれがまったく違う顔を持っていて、選ぶたびに撮れる写真が変わる。

40mm F2は素直で信頼できる。Zfのボディとサイズも雰囲気もよく合って、持ち出すハードルが低い。日常の光をそのまま記録してくれる感じで、特別な場所じゃなくていつもの道でも「今日の記憶」として残してくれる一本。
フォクトレンダーの40mm F1.4は、光に溶けるような描写をする。夕暮れや夜、室内の柔らかい光の中で使うと、フィルムで撮ったような空気感が出る。マニュアルフォーカスで少し手間がかかるけど、その手間がシャッターを切る瞬間を丁寧にさせてくれる。
40mm F1.2は、開放で撮ると世界が変わる。ピントの合ったところだけが浮き上がって、それ以外は静かに溶けていく。普段使いには少し主張が強いかもしれないけれど、日常の中の「忘れたくない瞬間」に向けたくなるレンズだ。
3本とも焦点距離は40mm。でも撮れる写真はぜんぜん違う。それがまた面白い。

ストリートスナップと40mm。
街を歩きながら撮るとき、40mmはとても使いやすい。
28mmのGR IIIも好きで普段から持ち歩いているけれど、28mmは少し「踏み込む」覚悟が要る画角だと思っている。被写体に近づかないと絵にならないし、その分、距離感を詰める積極性が必要になる。

40mmはもう少し自然に立てる。特別に構えなくても、その場に普通に存在しながらシャッターを切れる。街と自分の間に、ちょうどいい距離感がある。
GRにも、40mm相当の RICOH GR IIIx というモデルがある。28mmのGR IIIと迷う人も多いと思うけれど、ストリートスナップで「もう少しだけ自然な距離感で撮りたい」と感じる人には、GR IIIxの40mmがしっくりくるかもしれない。
自分が40mmに惹かれる感覚と、GR IIIxが支持される理由は、きっと同じところにあると思っている。

40mmで撮ると、あの頃に戻れる気がする。
写真は記録だけど、見返すとき、そこには記憶がある。
40mmで撮った写真には、なぜかその両方がある。ちゃんと記録されていて、でも見るたびにその場所の空気や光が戻ってくる。あの頃見ていた風景に、少しだけ触れられる感じがする。
気づいたら40mmばかり使っていた。それはたぶん、自分の目にいちばん近い画角だったからだと思う。
これからも、40mmを持って街に出ると思う。
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