ミズハ・プロパティ 講義録:第34話「越境する刃。相隣関係の最新改正と「枝」の防衛線」
ミズハ・プロパティのオフィス。
佐藤はスマートフォンの画面に映る「生い茂った大木の写真」を前に、困惑の表情を浮かべていた。
「瀬織さん、管理している物件のオーナー様からSOSの電話が入りました……。お隣の庭の大きな木の枝が、うちの敷地に完全にはみ出してきて、洗濯物も干せない状態なんです。お隣の頑固な住人に『切ってほしい』って何度もお願いしているのに、ずっと無視されていて。これ、昔の民法だと『根っこなら勝手に切っていいけど、枝はお隣に切らせなきゃいけない』ってルールでしたよね? お隣が動いてくれないなら、うちのお客様はずっと我慢しなきゃいけないんですか!?」
瀬織は、新しく淹れた冷たいミントティーのグラスをそっと揺らし、氷の音を響かせた。

「我慢する必要はありませんよ、佐藤。その『相手が切るまで待たねばならない』というルールは、実務を停滞させる悪法として、近年の民法大改正によってついに打ち破られたのですから」
「えっ! 法律が変わったんですか!?」
「ええ。長年、日本の民法は『枝は相手に切らせる、根は自分で切ってよい』という厳格な区別をしていました。しかし、お隣が空き家で連絡がつかない場合や、今回のように無視され続けた場合、被害者は泣き寝入りするしかありませんでした。そこで最新の民法は、【一定の条件を満たせば、被害者みずからがお隣の枝を切り取ってよい】という自衛権(催告を伴う伐採権)を認めたのです」
佐藤は急いでノートを開いた。「ついに自分で切ってよくなったんだ……! でも、条件があるんですよね? どんなときならセーフなんですか?」
「境界線は3つあります」
瀬織はホワイトボードに向かい、青いペンで美しい木を描き始めた。

「1つ目は、お隣に『枝を切ってください』と【相当の期間を定めて催告したのに、切ってくれないとき】。2つ目は、お隣の所有者が誰なのか分からず、あるいは【どこにいるのか探しても分からないとき】。そして3つ目は、台風で枝が折れて今すぐ家が壊れそうといった【急迫の事情があるとき】です。このどれか1つでも満たせば、こちらの手で枝を切り落とすことができます」
「なるほど! 今回のお客様は何度もお願いして無視されているから、1つ目の条件を満たしますね!」
「ええ。ただし、試験を作る者たちは、この『自分で切ってよい』という文言の裏にある“最後の所有権の罠”を仕掛けてきます」
瀬織の瞳が、オフィスの照明を受けて鋭く光る。
「佐藤、もしあなたがその条件を満たして、お隣の枝を自分で業者に頼んで切らせたとします。その【かかった費用】は、誰が負担すべきかしら? 『自分の都合で切ったのだから、自分が払うべき』なのか、『原因を作ったお隣に請求できる』のか……」
佐藤は腕を組んで考え込んだ。
「うーん、お隣が悪いんだから、お隣に払わせたいです。でも、自分で勝手に切ったわけだし……やっぱり自己負担、ですか?」
「不合格です、佐藤」
瀬織の声がオフィスの空気をピシャリと震わせる。
「ああっ! 請求できるんですか!?」
「本質を見なさい。お隣の住人は『はみ出した枝を切る義務(妨害排除義務)』を負っているのにも関わらず、それを怠ったのです。ですから、こちらが代わりに切ったとしても、その【伐採費用は、原因を作った隣人に対して全額請求(不当利得返還請求または不法行為請求)できる】というのが実務と判例の結論です。さあ、このお隣との境界線の掟を、綺麗に整理しておきましょう」
💻 瀬織の宅建講義:最新民法改正「相隣関係・越境した枝」の掟
試験でも実務でも一気に出題確率が跳ね上がった、新時代の伐採ルールを脳内に叩き込みなさい。
🪓 ① 自分で枝を切ってよい【3つの例外条件】
原則はお隣に切らせるべきですが、以下のどれか【1つでも】満たせば、こちらで切り落とせます。
竹木の所有者に枝を伐採するよう催告したのに、【相当の期間内に伐採しないとき】
竹木の所有者を【知ることができず、又はその所在を知ることができないとき】(空き家問題対策)
【急迫の事情】があるとき(今にも折れて危険なとき)
💰 ② 費用負担と「根」の原則(罠)
費用の請求:条件を満たして自分で伐採した場合、その【費用はお隣(隣人)に請求できる】。
根っこのルール:お隣の木の「根」がはみ出してきた場合は、昔の法律と変わらず、【いつでも、催告なしで、勝手に自分で切り取ってよい】。
⚠️ 試験対策の超重要ひっかけ!
「お隣の木の枝が境界線を越えて伸びてきた場合、何らの催告をすることなく、その枝をみずから伐採することができる」という選択肢はバツ(✖)です。根っこなら催告なしでOKですが、枝の場合は原則として「まず催告」が必要です(急迫の事情等を除く)。枝と根っこの扱いの違いを絶対にすり替えられないこと!
オフィスの窓外、お隣の敷地との境界線に並ぶフェンスが、月光に照らされて静かに佇んでいる。
「佐藤。はみ出してきた刃(枝)を跳ね返すための最新の民法、その防衛線が見えましたか?」
「はい! 『枝は条件付きで自力伐採OK・費用はお隣へ請求』『根っこはいつでも勝手にOK』。これでオーナー様にも、自信を持って『うちの提携業者で切っちゃいましょう、費用はお隣に請求できます!』ってアドバイスできます!」
「ふふ、よくできました。お客様の日常の平穏を守ることこそが、真のプロの力です」
瀬織はミントティーのグラスを片付け、満足そうに微笑んだ[1, 2]。
「さて、これで相隣関係の最新改正も完璧です。……しかし、不動産の実務において、お客様が最も大きな金額の損害を被りやすいのは、ご近所トラブルではなく、【買った家そのものに、後からとんでもない欠陥が見つかったとき】です」
「あ! 以前業法で学んだ『契約不適合責任』ですね!」
「ええ。次回は、実務・法改正編の第4話――『民法における契約不適合責任と、買主が騙されたときの【4つの武器】の罠』についてお話ししましょう。業法よりもさらに広い、民法上の真の権利の行使を教えてあげます」
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