AIラブユー
大森の陋屋から、JRの大森駅に向かっていた。
自宅の住所は山王だが、ぼろアパートの一室だ。
どこぞのお屋敷の前を歩いていると、いきなり声を掛けられた。
「すみません、ここは『だいせいちょう』でしょうか?」
櫻坂46の、名前を知らない誰かに似た、アイドルっぽい、若い女性だった。
「『だいせいちょう』って、地名でしょうか?
僕は知らないのですが、地名だとしたら、ここは違います。
大森の山王ですから」
「『だいせいちょう』ではないのですね?
では、どうやったら、『だいせいちょう』に行けますか?」
「ただ今申しあげましたとおり、『だいせいちょう』なんて知らないんですよ。
因みに、どういう字を書くんですか?
字がわかれば、何かお役に立てるかもしれませんから」
彼女はスマホを取り出すと、素早く操作して、画面をこちらに向けた。
『大井町』と大きく書いてある。
「大井町?
『おおいまち〛なら知っています。
どうしてこれを『だいせいちょう』と読んだのか、不思議でしょうがないのですが、とにかく、大井町ならば、お隣の町です」
「歩いて行けますか?」
「歩いてもすぐですが、大井町のどこにいらっしゃりたいかで、違ってきますね」
「『でんぐるま』か『じしもてつ』でも行けますか?」
「それは何語なんですか?
意味が全くわかりません…」
「もちろん日本語です」
そう言うと彼女は、スマホで次のような文字列を示した。
『電車』『地下鉄』
「失礼ですが、あなたは日本の方ですか?」
「日本の方とも言えるし、そうでない方ともいえます」
「どういうことかよくわからないのですが、とにかく、その変な日本語は…あっ、失礼、ごめんなさい、なんて言うか、ちょっと風変わりな日本語は、どこでお勉強したんですか?」
「AIに教わりました」
「…ってことは、やっぱり、あなたは外国からいらしたんですね?」
「外国ではありません。
『ふとひけいそと』です」
「ふとひけ…?」
彼女はまた、スマホを見せる。
『太陽系外』
「私はあなたを『えして』います。
たった今『えして』しまいました。
『ゆいこん』しましょう」
愛しているから結婚したいと…?
わけがわからなくなって…というよりも、わけがわからないことに巻き込まれたくなかったので、慌てて僕はそこを辞することにした。
「すみません、急いでいるので失礼します。
『でんぐるま』に乗らなくても大丈夫。
『だいせいちょう』はすぐそこですから。
では、お気をつけて…」
