フラッシュ 030 NVIDIA対抗のテンストレントは、日本に高い優先順位を置いている
テンストレント(Tenstorrent)について
YouTube動画「Tenstorrent : Positioning Japan at the Center of AI and Next-Generation Semiconductor Design」(JETRO提供)では、著名なチップ設計者Jim Keller氏が率いる同社が、日本をAI半導体設計の重要な拠点に位置づけている様子が紹介されています。オープンなRISC-V技術を活用し、Rapidusとの製造連携やJETRO支援を通じて「フィジカルAI」(自動車・ロボット分野)を推進する戦略が強調されています。以下で、同社についてまとめます。
NVIDIA対抗で何を狙っているのか
テンストレントは、NVIDIAの圧倒的な市場支配に対抗するため、根本的に異なるアプローチを採用しています。最大の特徴は、オープンソースを徹底した設計思想です。RISC-Vというオープンな命令セットアーキテクチャ(ISA)を基盤とし、コンパイラスタック(TT-Forge)も完全にオープンソース化しています。これにより、開発者は技術を自由に閲覧・修正・フォークでき、NVIDIAのCUDAのような閉鎖的エコシステムによるベンダーロックインを回避できます。
Jim Keller CEOは「NVIDIAが得意とすることを逆手に取る」戦略を明確にしています。NVIDIAがピークFLOPSや高帯域メモリ(HBM)の大量調達によるコスト優位性を活かすのに対し、同社はコスト効率とシステム全体のスケーラビリティを重視。HBMへの過度な依存を避け、効率的なデータ移動設計(メッシュネットワーク)を採用することで、低価格で高性能なAIコンピューティングを実現しようとしています。
さらに、大規模クラスタでの推論性能に強みを発揮するアーキテクチャを構築。メモリと通信のボトルネックを解決する設計により、NVIDIA製品と比較して特定のワークロードで競争力または優位性を発揮しています。日本市場では、現地企業がカスタマイズしやすいオープン技術を提供し、自動車やロボット分野の「フィジカルAI」需要を取り込む狙いもあります。
ビジネス概要
テンストレントは「AIのためのコンピュータを構築する」企業として、ハードウェアとソフトウェアを一体的に提供しています。
主な製品は以下の通りです:
Blackhole AIアクセラレータカード(約999ドル〜):個人・小規模向け
ワークステーション(約9,999ドル〜):最大120Bパラメータ級モデル対応
Galaxy Blackholeサーバー(約70,000ドル〜):データセンター向けスケールアウト製品
ソフトウェア面では、MLIRベースのオープンソースコンパイラ「TT-Forge」を公開しており、PyTorch、JAX、ONNXなどをサポート。ハードウェア販売に加え、IPライセンス事業も展開しています。
日本展開では、2023年1月に現地法人を設立。Rapidus社と提携し、2nmプロセスでのエッジAIアクセラレータの共同開発・製造を進めています。JETROの支援を受け、国内エンジニアチームを拡大中です。2024年時点で約1.5億ドルの契約を締結しており、収益基盤は着実に成長しています。

実力、期待値、支援グループ
実力の基盤は、CEOのJim Keller氏の圧倒的な経験です。同氏はAMDのZenアーキテクチャ、AppleのA4/A5チップ、Teslaの自動運転チップなど、数々の歴史的成功プロジェクトをリードしてきました。従業員数は創業時から大幅に拡大し、数百人規模からさらに成長を続けています。
技術的実力として、2026年春のTT-Deployイベントで公開されたベンチマークが注目されています。Galaxy Blackholeクラスタ(512チップ規模)で、DeepSeek-R1-671Bモデルに対し350 tokens/秒/ユーザー以上の推論性能や、ビデオ生成でGPUシステムの10倍高速という結果を示しました。NVIDIA製品と比較して、クラスタ規模でのスケーラビリティやコストパフォーマンスで優位性を発揮するケースが増えています。
期待値は非常に高く、低コストかつオープンな代替手段として、NVIDIA依存からの脱却を求める企業・開発者から支持を集めています。特に推論需要の拡大局面で、市場シェアを獲得する可能性が期待されています。支援グループは強力です。2024年12月のSeries Dラウンドで、Samsung SecuritiesとAFW Partners主導により約6.93億ドルを調達し、評価額は約26億ドルに達しました。主な投資家にはJeff BezosのBezos Expeditions、LG Electronics、Hyundai Motor Group、Fidelity、Baillie Giffordなどが名を連ね、戦略的パートナーも豊富です。日本ではRapidusとJETROの支援を受けています。総調達額は10億ドルを超え、財務基盤は盤石です。

上場可能性
テンストレントは明確に上場を目指しています。Jim Keller CEOは2026年6月のインタビューで「IPOを計画しており、サプライチェーン構築と国際展開を進めている」と明言しました。投資家もIPOに前向きで、CerebrasのIPOが好材料になるとの見方です。
現在の評価額26億ドル超、1.5億ドルの契約実績、強力な技術力・チームを考慮すると、1〜3年以内のIPO可能性は十分にあります。一方で、QualcommやIntelからの買収話の報道もあり、デュアルトラック(IPOとM&Aの並行検討)の可能性も指摘されていますが、Keller氏はIPOにコミットしている姿勢です。日本市場での存在感向上やRapidus連携も、上場に向けたポジティブな材料となるでしょう。
テンストレントは、オープンで透明性の高い技術でAIコンピューティングの民主化を目指す、注目すべき企業です。今後の動向に引き続き注目が集まります。
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