過去話閑話。御屋形様に情緒を破壊された日々のお話。
どうも。前の記事での自分の過去語りでダメージ喰らった戦国武士です。
きっついので、ここらで一旦、違うお話を挟みましょう。
まぁ、このブログを始めた当初、
一番頭を悩ませたのは、
・御屋形様との思い出話をどこまでやるか
で、ございます。
あの頃は御屋形様と過ごした日々やら、
会話の内容などはトップシークレット扱い。
なぜならば、話せば周囲の人間から物理的に消されるから、でございます。
あれから500年も経過して、当然当時を知る方々も誰一人残っておらぬし、何より御屋形様ご本人もおられぬのだし、
この際、御屋形様との思い出話を、少しばかりいたしましょうか。
何やら私は御屋形様のことを語りだすと、どうにも気持ちの悪い男になるようなので、
務めて平静に、事実だけを述べますが、
御屋形様は見目麗しく、
日焼けした肌、
体格は良いのにすらりとした高い背丈。
大きな口と、
良く通る低い声。
私と話すときの「ハハッ」という笑い声。
大きな目に、少しばかり下がる目じりが愛らしくもあり、
くるりと巻いた髪質が、
常日頃、私の情緒を破壊しました。
※すでに気持ち悪いです申し訳ない。
私がお傍で務め始めたのは17の頃。
私の主であった宿老・高元様失脚後、まもなくです。
主を失い、御屋形様の家来であるのにさながらフリーランス武士(?)状態に陥っていた私に、
御屋形様の側近がお声がけくださいました。
(ええ…。御屋形様には御恩があれど、俺などが務まる訳がない)
「あの、その」
「では明日、巳の刻。〇〇の間に来られたし。よしなに頼む」
「ああ…(聞いて…)」
あれほど勝気だった私は、きっつい日々を過ごすうち、
いつの間にやら言いたいこともろくに話せない、
根暗と周囲に認知されるような男と変わり果てておりました。
物静かとはちょっと違う。
人の視線に怯え、一生木の影に隠れて生きていたい。
そんな男に育っていたのです。
『〇〇の間に来られたし。』
ほんの短いその言葉は、
『私は、すべてを捨てて生き直すことすら奪われた』
そう感じさせるには、
十分でございました。
…この頃の私の心の支えは、
戦の帰りに立ち寄った村で出会った、
小鈴という娘ただ一人。
小鈴は文字の読み書きのできない女ではございましたが、
代読、代筆で私との文のやり取りを重ねておりました。
私の初めての恋。
何もかも忘れ武士などやめて、小鈴と所帯をもてたらなどと、
淡い夢を見ておったのです。
あと僅かばかりの年月を我慢すれば、
生家の家督を弟が継ぎます。
弟が家督を引き継ぐまでは、
私は弟の控えとして、生きていかねばなりません。
『あと数年で、私は武士など辞められる』
そう夢見ておりましたから、
正直、御屋形様のお傍で務めるなど、ちょっと…
嫌。(苦笑)
役に立つ訳がないと感じましたし、
私が何より恐れたのは、
私の心を幾度も助けてくださった御屋形様から、
性的な求めを受けること。
自意識過剰と思われますな。
高元様の御子息・友成に受けた扱いの日々で、
私はすっかりそういう求めを警戒することが、常態化していたのです。
まぁ、そんなこんな、なんだかんだの末に、
私は推挙されました。
この頃の時代、
美形というのは男女問わず、
神仏に絡めてありがたがられるという存在で、
権力者は美形を傍に置くことを好む傾向がございました。
「美形」カテゴリにいた私も、御屋形様の傍に推挙されたのは、
おそらくは、そういう理由でございましょう。
まぁ私から言わせれば、御屋形様の美丈夫さに比べれば、
私含め全人類が屑なのですけどね。
※過激派です。
私の父方の祖母が、外国の女でございまして。
詳しくはまた次の機会にお話ししますが、そのためなのか、
私の髪は明るく、肌は白く、
眼の色は金に青い色がちらほら混ざるという、
変わった見目をしておりました。
加えて背も人より少し高いため、ことさら目立ちました。
御屋形様は神仏をとても大切になさる方なので、
私の見目は
・なんだか“ありがたそう”な感じ
・何かしらの加護を受けてそうな雰囲気
と捉えられ、
周りのご家臣方は好ましく思われたようです。
お話をお受けする決意を固め、小鈴に夢見た暮らしは捨てた。
小鈴と出会う前から、御屋形様は、私の命を救っていたから。
13の、海で死にきれなかった私に何も聞かず、
汚れているからと風呂を与えた。
14の、たった一晩のお相手をした夜。
私の目を見て、名前を聞いた。
友成様から解放されたが、再び高元様に支配されている私に、
「強いんだな。お前。戦で。
すごいよな。そんな白くて細いのに」
私の顔も見ず、書き物をしながら、さほど興味もなさそうに、
私を認めた17の昼下がり。
たった、それだけ。
それだけです。
それだけのことに私の心は救われた。
どんなにつらくとも、その記憶だけを心の支えにして生き抜いた。
だから私は決めました。命を賭してお仕えし、
『何を犠牲にしても、あなただけは守り抜く』
私は覚悟したのです。
御屋形様にとっては、何の意識も残らない一言でも、
たとえあなたにとっては、ありふれた言葉でも、
ほんの些細な仕草でも、
私はあなたに、救われたのです。
御屋形様は、かつて出会った私のことなど、
覚えておられぬように感じられました。
「仏頂面ばかりで愛想がない」
そうあなたに怒鳴られてばかりいた私が、
わずか数年の後、
へーらへーらへーらへーら♪
と、締まりのない顔であなたの周りをうろうろし、
周りのご家臣方に叱られるようになったのです。
人生、何が起こるか分かりませんな。
訓示の時のあなたは、権威も威圧もすさまじく、
ただそこにおられるだけで、後ろに押し飛ばされそうになる、そんな感覚がございました。
良く通る声で、我らにやるべく事を指し示めされるお姿は雄々しく、
そんなあなたが、ただ庭に立ち、もみじを眺めて微笑むお顔立ちに、
何故私はこんなにも、胸が熱くなるのだろう?
よく分からない気持ちが胸に溢れ、ただ満たされることだけは理解して、
誰かをただ見つめるだけで、
こんなに幸せを感じることが、あるものなのだなと、
『よく分からない理解』を、自分で得ていました。
そして、この頃の私は、必死でした。
必死過ぎて、身も心も削り切っておりました。
私に関する噂は事実に見事な尾ひれがついて、
友成が磔にされ、私に叫んで死んだ後も、ずっとずっと付きまとい、
「お前はそういう対象だ」
「お前はそういう扱いを受けて良いのだ」
「お前は人ならざる“物”だ」
そんな風に見られ、扱われる日々。
たとえ御屋形様の傍で働いても、
私はそういう務めをする男だと思われている方々は、
もう色仕掛けでもしたのだろうと、
侮蔑に満ちた目を向ける。
その頃の御屋形様は、私に指一本、触れてはおりませんでした。
そして、御屋形様は、嘲りも、疑いも。
そういう類の濁りが、一切混ざらぬ綺麗な瞳で、
いつもまっすぐ、私を見つめておられました。
ただし、信認も、その瞳にはございません。
あったのは、
「お前はまだやれるだろ?」
「そんなものではないだろう?」
「実力を隠して、自らを嘲るな」
そんな言葉を投げかける、そんな意味での『試す瞳』。
だから私は必死になった。
役に立ちたい。
この人の支えになりたい。
そうしたら、いつの頃から、
受けたご恩をお返ししたいという『望み』より、
あなたがただ、生きて、笑ってくれればいい。
私の生きる『意味』が、私の中に生まれておりました。
まっすぐに私を見てくれるだけでしあわせ。
生きて、そこにいてくれるだけでいい。
あなたが生きて笑うなら、私は死んでもかまわない。
そんな狂気という名の底なし沼に、足を片方突っ込んで、
足をとられて転んだり、もがいたりして生きました。
もがいておぼれて、自滅しました。
あの方の笑顔は、あまりに私にまぶしすぎた。
誰よりも、深く愛した。
だから妻よりも、子供たちよりも、あなたを選んで死にました。
「済まない。死ぬことになった」
そう言って謝罪した私に、
妻は泣き叫んで、言いました。
「だから申した!いつの日か、こんな事になるのではないかと…!」
妻というのは、私のことを、よく見ているなぁと思いました。
御屋形様は、いつの頃から、必死に私を守っていました。
私の見掛けが変わっていて、御屋形様の寵臣だからと攫われて、
何度も死にかけ、御屋形様の元へ戻される。
水責め程度で済んで良かった、この度は救出が早かったなぁなんて、
水責めを受けたために妙な呼吸音をさせ、胸の腑(むねのふ)が痛くて、うまく息ができなくて、ぼんやりしたまま、また高熱が続くだろうなとか考えてたら、
御屋形様が、迎えに来てくださった。
『もう大丈夫ですよ、すでに助け出されておりますし。よくこんな遠くまで、迎えに来てくだすったものですねぇ』
話せなくて、唇もろくに動かせぬけど、耳も目も平常です。
「たかゆき、たかゆき!」
泣きそうな顔で、あまりに必死だ。
『私の名前は“義継”ですよ。あなたが名付けたのでしょう。』
見当違いなことを申して、あなたの苦しみを逸らしてやりたいと思うたけれど、変わらず声は、出ませんでした。
泣いてはいけませんよ、
私は生きて戻りましたよ。
あなたは殿様なのだから、一人の家臣が死んだとしても、うろたえてはいけませんよ。
そうお話をしたかったけど、
とうとう泣き出してしまった御屋形様を見ていたら、
あなたって、本当に、私のことが好きですねぇ。
なんで?私、何もしておりませんけど…。
生涯聞けなかった問いが、この時もまた、脳裏に浮かぶ。
この時、熱が出てきたなぁと感じながら、義継という名前を与えられた時のことを思い出していました。
『“よしつぐ”、ですか?』
『お前のことを、隠しきれない。この際、名を改めるしかなかろう』
『なんで“よしつぐ”?漢字はなんです?』
『お前の家に伝わる名だろう?書き方は、こうだ』
『よう調べなさったことで。で、なんでこの字?』
『勘。』
『勘…。でも、父から与えられた名は、消し去りたくはないです』
『だったら、親しい者にだけは教えろ、だが、名を呼ぶのは俺だけだ』
無茶苦茶な理由だな、と少し呆れはしたけれど、無邪気にあなたが笑うから、その日から私は“義継”になった。
あなたが私を愛した理由は、結局、最期まで分かりませんでした。
500年経過した、今となっても。
単純に、今の私が忘れているのか、
私があなたを愛したように、あなたの理由も、私にとっては、気にも留めない、小さな何かだったのか。
重臣たちに、畳に額をこすりつけ、涙を流して懇願しました。
「どなたか私を殺してくださらぬか!私は死なねばならぬのです。御屋形様を、惑わしてしもうた!狂わせた…!もう私では、御諫めできぬ!」
騒ぎに気が付き、部屋に戻ってきた御屋形様は、穏やかに、優しく私に微笑みました。
「義継。お前はいささか、疲れすぎだ。処刑を長めてしまったからな。なかなか死ななかったから…。
切り上げさせればよかったな。無理をさせた。さ、もう休もう」
狂気という名の底なし沼に、足を片方突っ込んでいたのは、私だけのはずだった。
昨日この人は、数日前に私を二度にわたって襲った相手を、ろくな取り調べもせず、苛烈すぎる拷問の末に、殺してしまったのです。
私を襲った相手を前にした、御屋形様の怒りはすさまじかった。
取り調べなどではなかった。一方的な暴力でした。
御屋形様は理知的で、冷静な名君でした。
私はそんな御屋形様が好きでした。
元のあなたに戻ってほしかった。
いつもの優しい微笑みが見たかった。
私は、襲った相手と御屋形様の間に割って入り、
命乞いをいたしました。
男の命が惜しいわけじゃない。私はあなたを守りたかった。
だけど、私の考えなしの「命乞い」が、
御屋形様の理性という名の歯止めを、完全に破壊したのです。
どうして、
いつからか、
あなたの方が、より深くてどす黒い底なし沼に、片足を深く突っ込んでいた。
懸命に生きただけのつもりだった。
それがどうして、取り返しのつかない事態にまで、陥ってしまったのか。
ぐったりと、御屋形様より与えられた、豪奢な布団で伏せる私に、そっと小さな文が、無言のままに差し出されました。
この頃の私は、滅多なことでは自身の屋敷に戻ることすら、許されてはいなかった。
本来ならば、御屋形様のご家族のみが暮らすはずの区域の中で、
私は治療を名目として、閉じ込められておりました。
その文にある通りに城を抜け出し、
呼び出された屋敷で、
三方にのせられて、大きな一つの紅饅頭を差し出されました。
目の前に無言で置かれた紅饅頭の意味が分からなくて、相手のお顔を見ましたが、何も答えてはくださりません。
観察しようと思いました。意味を知ろうと思いました。
そうして、上から見た時に、何かに似てるなと気が付いて、
あ、これは首だ。
首台(くびだい)にそっくりじゃあないか。
ああ、そうか。
これは首台に据えられた、私の首なんだ…!
さんざ命のやりとりをして、今更になって初めて知った。
殺されるって、怖いんだと。
戦場でだって感じたことのない、例えようのない恐怖でございました。
紅饅頭を差し出した高橋様は、とても丁寧に、ご説明くださりました。
もはや看過できない事態であること、
長年の私の忠臣に免じ、心と支度を整える猶予として、一年をお与えくださること。
もはや御屋形様のお傍にいることは叶わず、
遠く離れた奈多城で、斬られる日まで過ごすこと。
残される妻のことも、子供たちのことも、何一つ心配する必要はないのだと。
「すまない、義継。お前を救ってやれなんだ…。利用するだけ利用した。我らの罪だと理解しておる。だがもはや、後悔するには、遅すぎた…。
長きにわたるお主の忠心、まことに、感服の極みであった…」
“分かってくれた”。
そう思いました。やっと、私は救われたと。
やっと、息ができました。
ようやっと、重い荷物を、おろせた心地。
やっと死ねる許しを得た。ようやく私は死ねるんだ。
やっと私は、許された…!!
紅饅頭の意味に気が付き、あれほど恐怖で凍り付いたのに、
こんなに晴れやかな気持ちになれるなんて、と、我ながら滑稽でございました。
高橋様のお屋敷を出て、門の前で待っていた義幸が、何も知らずに聞きました。
「高橋様は、いったい何のお話だったので?」
「叱られたわ。謹慎処分だ。奈多にな、行くことになったぞ。お前、ついてくるか?」
「当たり前です。あなたには、私がいないと」
呆れたように答える義幸に、
そう言ってくれると思ったよ、と、心の中で微笑みました。
そうして、約一年後、奈多のお城で私は死にました。秋の、からりとした風の心地の良い、とてもきれいな空の日です。
奈多のお城のお部屋で、不意打ちに背中を斬られ、
気が付いたら床に倒れており、皆が暗殺者たちと激しく争い、
すぐそばを踏みつけるから、
『おいおい、踏んでくれるなよ』
なんて、間の抜けたことを考えつつ。
皆の争う足の向こう、開かれた障子の先に、真っ青な海が見えました。
真っ青な海と、真っ青な空。
『ああ、きれいだなぁ…』
最期に見た景色があまりに綺麗で、何もかも忘れて死ねました。
過酷を極めた人生でした。
でも、私は誰よりも、幸せでもありました。
この世のどんな存在よりも、自分の命よりも、
家族全員の存在よりも、愛した相手と出会えたのです。
まともな人生ではありません。
まともな関係でもありません。
そのために何人殺したのかも分かりません。
決して美しい人生でもありません。
健全でもありません。
犠牲を払い、犠牲を強いて、
互いが互いを守るために、破壊の限りを尽くしました。
今の人生になり、あの時の人生、どこで修正したら良かったのかと何度も考えましたけれど、
一つでもやり直したら、私たちには成りえなかった。
もう少し、どうにかしたら幸せになれたのではと思っても、今更時間は戻らない。
何一つ、変えられない。
やり直すことなど無理な話だし、
やり直すことは、懸命に生きた全てを否定することです。
でも、ちょっとおかしいなぁと。
そんな風に思うことはあるのですよ。
『共に、地獄に堕ちてくださいますか』
そう聞いた私に、あなたは答えたではないですか。
『ああ、共に堕ちよう』
どうしてあなたは今、隣にいないのですか。
私だけ思い出してるなんておかしいです。
あなたが今この世にいないことにも、納得できません。
あなたが隣にいないので、私は大層暇なのです。
こんな風にぽつぽつと、思い出を書いています。
まぁ、あなたは私がどこに居ても迎えにくる、物好きなお方でございましたし、
今の人生か、
この次の人生か、
いつの日か、またひょっこりと、迎えに来てくださるのでございましょう。
のんびり、お待ちしております。
あなたの傍は大層忙しいので。
迎えに来るまでの期間は、万年ゴールデンウィークとして、遊び倒してお待ちします。
それでは、また別の思い出話まで。
いいなと思ったら応援しよう!
応援よろしくお願いします!
°*.\(*´∀`*)/.*゜⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
いただいたチップは創作活動費に使わせていただきます!