パートナーマーケティングのブレイクスルー 「パートナーのビジネスへの組み込み設計」
①はじめに
初めまして。私はフリー株式会社で税理士/会計士業界をパートナーとしてパートナーマーケティングを行っています。
具体的にはクラウド会計や勤怠・給与計算クラウドなどのいわゆるSaaSプロダクトを税理士/会計士の皆様から顧問先である企業や個人に販売と導入を行ってもらえるように支援をするのが、私たちの事業部の役割です。
少し特殊な業界と感じられるかもしれませんが、本質的には皆様が普段向き合っているパートナービジネスと変わりないです。
ただ少し前提を追加するとしたら税理士/会計士のパートナーにとって、会計ソフトは業務の根幹を担う商売道具であることです。
極端かもしれませんが、どのソフトを選択するかによってビジネスの組み方自体が変わってしまうくらいに重要な役割だとも私は認識しています。
だからこそこのテーマを挙げさせていただきました。
「パートナーは開拓できたけどなかなかうちの製品やサービスを案件化してくれない」
「勉強会を開いても、パートナーの熱量が上がらない」
パートナー担当者であれば、一度は直面する壁ではないでしょうか。
私自身、パートナーとの面談や営業管理を日々行う中で、この「パートナーがいかに能動的に動いてくれるか」という問いには今も向き合い続けています。
本記事では、私が現場で得た一つの大きな「気づき」についてお話しさせていただきます。
②なぜ、パートナーは自発的に動いてくれないのか?
「販売代理店契約を結び、キックオフも大々的にやった。機能説明の勉強会も開催した。なのに、いつまで経っても案件の相談が来ない…」
パートナービジネスにおいて、これは最もよくある、そして最も担当者を悩ませる「壁」です。
では、なぜパートナー企業の営業担当者は、私たちの商材を自発的に提案してくれないのでしょうか。
その原因の多くは、ベンダー側が陥りがちな「プロダクト主語のイネーブルメント(営業推進)」にあります。
私たちは自社のプロダクトに自信があるゆえに、パートナーとの面談でも、つい「機能の優位性」「UIの使いやすさ」「コストパフォーマンスの高さ」を熱心に伝えてしまいます。
「これだけ良い製品なのだから、理解さえしてもらえれば絶対に売ってくれるはずだ」と信じているからです。
しかし、パートナー企業の営業担当者の視点に立ってみてください。
彼らは自社の主力製品をはじめ、すでに数多くの商材を抱え、日々の業務や営業ノルマを背負っています。そんな彼らにとって、新しい商材の仕様を覚え、顧客に提案のストーリーを新しく描き、クロージングまで持っていくことは、非常にカロリーの高い作業です。
単に「競合より優れた機能がある」というだけでは、彼らがその労力を払ってまでわざわざ新しい商材を担ぐ動機には到底なり得ないのです。
ここで多くのベンダーは「紹介手数料(マージン)の率が低いのかな?」と考え、キャンペーンと称してインセンティブの引き上げに走りがちです。しかし、問題の本質はそこではありません。
パートナーが能動的に動かない最大の理由はシンプルで、彼らの中に「この商材を売る明確な理由(メリット)」が存在していないからです。
ここで言うメリットとは、単なるお金の話だけではありません。
「この商材を一緒に提案することで、自分のメイン商材が売りやすくなるのか?」
「自社の顧客の課題解決に直結し、自社サービスのチャーン(解約)を防げるのか?」
「提案から受注までのサイクルは短く、自分の営業成績(KPI)に効率よくヒットするのか?」
つまり、彼らが動くための「文脈」と「動機」が繋がっていないためです。

自社のプロダクトがいかに素晴らしいものであっても、それがパートナーの担当者自身の「個人的な目標達成」や、パートナー企業の「事業成長」にどう貢献するのかが見えなければ、彼らが能動的に動くことはありません。
私たちがまず向き合うべきは、「どうすれば自社のプロダクトを正しく理解してもらえるか」ではなく、「彼らは日々、何のために、どんな指標を追って業務を行っているのか」というパートナーのビジネスへの解像度を高めることだと思っています。
③ブレイクスルーとなった「気づき」〜パートナーのビジネスへの組み込み〜
前述の通り、私は面談や営業管理の現場を通して、パートナーのビジネスに対する解像度を深めていった先で一つの大きな仮説にたどり着きました。
それは、「プロダクトを深く理解してもらうこと」をゴールにするのではなく、「パートナーのビジネス(収益モデル)に、私たちのプロダクトをどう組み込むか?」を一緒に設計するアプローチへの転換です。
これは従来のベンダー主語な
①自社製品→②パートナー→③顧客へ届けるという考え方から
①パートナーのビジネス+自社製品→②高付加価値化→③顧客へ届けるというパートナー主語のアプローチです。


この視点の転換がどれほどのインパクトを持つか。私が現場で経験した、ある具体的なブレイクスルーの事例をご紹介します。
当時、私がパートナーである税理士の方との面談の中で単なる機能への要望ではなく、彼らの事業基盤に関わる深いジレンマを知りました。
彼らの多くは「提供している顧問サービスに高い付加価値を与え、顧問先に貢献をした上で顧問料の単価を上げたい」という切実なニーズを持っていました。
しかし同時に、「これ以上、日々の業務工数は絶対に増やしたくない(増やせない)」という本音も抱えており、単価アップのためには相応の設計も必要であったりと具体的な策を見出せずにいたのです。
ここで私は、自社プロダクトの「機能説明」を一旦脇に置きました。代わりに、彼らの事業課題に対する「解決策(武器)」としてのストーリーを提示したのです。
「私たちのプロダクトを顧問先に導入していただくことで、工数を増やすことなく、経営状況の可視化といった新たな付加価値を提供できます。結果として、今の顧問料をワンランク引き上げるための強力な理由付けになります」
つまり、私たちのプロダクトを「彼らの売上を上げ、かつ労働集約型のモデルから抜け出すためのピース」であると再定義したのです。
さらに、それをどう顧問先に提案し、顧問契約のスキームに組み込むかという具体的な戦略や提案資料にまで落とし込んで提案しました。
効果は劇的でした。それまで「便利なツールなのはわかるけど買ってもらうかどうかは顧問先次第だから」とあまり前向きではなかったパートナーたちが、一気に身を乗り出し、こちらを向いてくれるようになったのです。
「なるほど、うちのあの顧問プランに標準セットとして組み込めばいいのか!」
「あのクライアントの課題なら、この切り口で提案できそうだ」
ベンダー側が「プロダクトの売り方」を教えるのではなく、パートナー自身の口からも能動的な営業アイデアが次々と飛び出すようになりました。
パートナーが自発的に動く瞬間は私たちの商材が「自分たちのビジネスを成長させるための不可欠なパーツ」だと確信した時なのです。
④ブレイクスルーを起こす日々の運用と面談
先述した「パートナーのビジネスへの組み込み」というブレイクスルーは、ある日突然、魔法のように起こるわけではありません。
それを意図的に引き起こすためには、パートナーと接する日々の運用、特に「面談」や「営業管理」のあり方を根本から変える必要があります。
まず、パートナー開拓や初期面談のフェーズです。
ここで絶対にやってはいけないのが、自社プロダクトのデモや機能説明からスタートすることです。
特にERPのような複雑な業務システムやSaaSを扱う場合、機能から入るとすぐに「数ある便利なツールのひとつ」として埋もれてしまいます。
自社の説明はぐっと堪え、まずは徹底的なヒアリングに徹します。
「現在、御社の主力事業の注力領域はどこか」
「現場の営業担当者はどんなKPIを追っているのか」
「既存顧客へのクロスセルにおいて、何がボトルネックになっているのか」
など相手の事業の解像度を上げない限り、私たちのプロダクトをどう組み込むかの「仮説」は立てられません。
そして、その仮説を形にするための目標設計と日々の営業管理において最も重要なのが、「初動で巻き込むべきキーマンを見極めること」と「双方が宿題を持つこと」です。
新しい協業スキームを立ち上げる際、単に「窓口になったから」という理由で担当者と話を進めてはいけません。自社プロダクトを自社のビジネスに組み込むという視点を面白がり、新しい提案の形を一緒に模索できる「エース級の営業担当」や「事業責任者」を、意図的に初動に巻き込むことが不可欠です。
彼らと共に「最初の熱狂と成功事例」を創り上げることこそが結果的にパートナー社内へ横展開していくための最大のイネーブルメントになります。
さらに、日々の面談(定例ミーティング)では、「とりあえず提案先のリストアップをお願いします」とパートナーに一方的にボールを投げるような営業管理は厳禁です。
「我々は、御社の注力先であるA業界向けの専用提案資料(たたき台)を次回までに作成します。ですので、〇〇さんにはA業界の既存顧客3社へのヒアリングをお願いできますか?」
というように、常にベンダーとパートナー双方が宿題(ネクストアクション)を持つ状態を作ります。お互いが汗をかくこの「共創」のスタンスこそが、案件を停滞させず、パートナーの当事者意識を引き出す強力なエンジンとなります。
そして最後に、営業同行のスタンスです。
案件が立ち上がった際、ベンダー側の担当者はつい「私が代わりに上手く説明して、受注を決めてあげよう」と前に出過ぎてしまいます。しかし、これではいつまで経ってもパートナーは自走しません。
商談の主役はあくまでパートナー企業の担当者です。
私たちが目指すべきは、パートナーが「自社の高付加価値ソリューションとして、自信を持って提案できるようになること」です。パートナーが顧客からの信頼を勝ち取るためのサポート役、あるいは専門的な技術フォローに専念することを意識します。

このスタンスを貫くことで高付加価値な提案ができるパートナー担当者が増えて、結果的にブレイクスルーを量産し、「パートナーが能動的に売る組織」を作る最短ルートになるのです。
⑤パートナーマーケティングを支える社内の仕組み
「パートナーのビジネスへの組み込み」は、現場の担当者の属人的な熱量や営業スキルに依存しがちです。このアプローチを組織として再現性のあるものにし、スケールさせるためには、対外的な向き合い方だけでなく、自社内の組織体制やパートナーマーケティングの仕組みを変革する必要があります。
まず不可欠なのが、社内部署間の強力な連携体制です。パートナービジネスはアライアンス/パートナー担当チームだけで完結するものではありません。
例えば、案件登録(ディールレジストレーション)の運用です。パートナーが発掘した案件を明確に保護し、直販(ダイレクトセールス)チームとのバッティングを厳格に防ぐ社内ルールの徹底は、パートナーが安心して動くための大前提となります。
フリー株式会社でも直販とパートナーチームでのバッティングを防ぐために社内ルールがあり、その基盤を整備してくれるチームもいます。チームを作らずとも仕組みとしては用意しておくことが重要です。
併せてパートナープログラムの設計も重要です。
代表的なのが手数料やランク制度です。これまでお話ししたパートナーのビジネスにいかに組み込んでいくか?の視点で設計できるとベストですが、個人的には私たちのチームもまだまだ進化していかなければと思っています。
さらに、受注後のCS(カスタマーサクセス)部門との連携も重要です。
エンドユーザーへの直接的な支援だけでなく、「パートナーの提供する付加価値サービス(コンサルティングや運用支援)」によって、顧客企業も利益を享受できるように、CSがパートナー自身を後方支援する体制を構築します。
パートナー&CSの強力なタッグでパートナーの先の顧客に価値を提供することでエンドユーザーのチャーン(解約)を防ぎ、強固なリテンションを生み出します。
SaaS企業にはいわゆるTHE MODEL(ザ・モデル)のように効率的かつ個々の役割ごとの専門性を高めるやり方がありますが、個人的にはパートナーマーケティングにおいてはセールス→サクセスという従来の橋渡しが絶対の正解ではないように思えます。
向き合う期間や人数の多さ、それに比例した成果インパクトがエンドユーザーと比べても大きく、一つのパートナーに様々な役割の人員を割り振ったとしてもレバレッジの効いた成果を得られるはずです。
そして最後に、「パートナーイネーブルメント(社内セールス向き)」の再定義です。
社内のマーケティング部門が作成すべきは、網羅的な機能説明の資料ではありません。「どういう切り口で提案すれば、パートナー自身の主力事業の売上拡大に繋がるか」を説明するセールスシナリオの共有や、パートナーが自社のサービス等に組み込んでそのまま顧客に提示できる、提案書のテンプレート(ひな形)の提供です。
パートナーと共に汗をかき、社内のマーケティングやCS、直販部門、パートナープログラムなどの仕組みがその「共創」を下支えする。
この全社一丸となった協力体制があって初めて、パートナーは自発的に、そして強力に自社のプロダクトを世に広めてくれると思っています。
⑥終わりに
パートナービジネスは、決して「自社製品の販売代行」ではありません。お互いの事業基盤と強みを掛け合わせ、エンドユーザーに新しい価値を届ける「事業共創」のようなものだと思っています。
自社のベクトルや売上目標を一方的に押し付けるのではなく、パートナーの船(事業)にどう相乗りし、彼らの事業推進力を共に高めていけるか。この視点の転換と、それに伴う泥臭い日々の運用、そして全社的な仕組みへの落とし込みは、決して簡単な道のりではないかもしれません。
実際にまだ確信を持てていないこともたくさんありますし、世の中の変化で根幹から変わってしまうかもしれません。
しかし、パートナーが自社のビジネスの一部としてあなたのプロダクトを深く理解し、自らの言葉で熱量高く提案し始める「あのブレイクスルーの瞬間」がもたらすビジネスインパクトは、何物にも代えがたいです。
あと忘れずにいたいのは、パートナービジネスを行っている私たちや皆様が価値を届けたいのはパートナーの先にいる顧客です。
この顧客に私たちと同じくらい熱い気持ちを持って、価値を届けてくれるパートナーを作っていくことが目指すべきことです。
本当の意味でこれがパートナービジネスなのだと自信を持って、話せるように私自身もまだまだ向き合い続けていきたいと思います。
最後にこの記事が、日々パートナー企業と真摯に向き合い、壁にぶつかりながらも前に進もうとしている皆様にとって、現状を打破する一つのヒントになれば幸いです。
明日からのパートナーとの面談の景色が、少しでも変わることを心から願っています。
