VCの視点で考えるパートナービジネス
こんにちは。Angel Bridgeアソシエイトの山口(https://x.com/takuy_j27)と申します。本日は#パートナーマーケティングnoteリレーの一環として記事を執筆しています。
Angel Bridgeは、日本発のメガベンチャーを数多く生み出すことを目指し、シード・アーリーステージを中心にスタートアップ投資を行っているベンチャーキャピタルです。現在は260億円規模の3号ファンドを運用しています。

弊社は2025年1月に公表されたパートナープロップのシリーズAラウンドにおいて、共同リード投資家として投資をさせていただきました。私は担当者として、投資検討からその後の事業伴走まで、比較的長い時間をかけて同社の事業を見てきました。本稿では、その過程で改めて強く意識するようになったパートナービジネスの重要性について、VCの視点から整理してみたいと思います。
※パートナープロップへの投資時には、投資の舞台裏と称して投資の意思決定を行った背景も説明しております。併せてご覧ください。
1.重要であるにもかかわらず、うまく機能しないパートナービジネス
多くの人は今もなお、自社の商品は自社の営業で売るものだ、と思われているかもしれません。しかしBtoBビジネス全体を俯瞰すると、この前提は現実と乖離しています。アクセンチュア¹の調査によれば、BtoBビジネスにおける売上の約75%は、パートナーチャネルを経由して生まれているとされています。
企業がパートナーを活用する目的はシンプルです。
自社の営業だけではリーチできない顧客にアクセスしたい、営業人材が不足する中でも売上を伸ばしたい、あるいは新しい業界や地域へ展開したい。理由はさまざまですが、いずれも成長を続ける上で避けて通れない課題です。
一方で、現場を見ていると、パートナービジネスが期待通りに機能していないケースも数多く存在します。SaaS企業を対象とした調査²では、パートナービジネスが成功しているといえる企業は全体の2割程度にとどまるとも言われています。
このギャップはなぜ生まれるのでしょうか。

2.パートナービジネスが失敗しやすい構造的な理由
パートナービジネスの失敗は決して個々の企業や担当者の努力不足によるものではありません。多くの場合、パートナービジネスがスケールすることを前提とした設計がなされていないことに起因しています。
パートナービジネスは、大きく分けると次のようなプロセスで成り立っています。
自社の商材や戦略に合ったパートナーを見つけ、関係を構築する
パートナーに商材の価値や売り方を理解してもらい、稼働を開始する
インセンティブ設計などを通じて、継続的に稼働を加速させる
成果や稼働状況を可視化し、改善やフォローアップに繋げる
理論上は決して複雑ではありませんが、実務ではこれらが属人的な運用に依存しているケースが大半です。商材理解が十分に進まないまま販売が始まり、情報共有はメールやExcelが中心となり、結果としてどのパートナーがどれだけ貢献しているのか分からない状態に陥ります。
重要なのは、パートナーが本来は企業にとって重要な経営資源であるにもかかわらず、実態としてはブラックボックスとして扱われてしまっている点です。この構造が変わらない限り、パートナービジネスの成功確率が上がらないのは自然な結果だといえます。

3.市場として見たときのパートナービジネスの可能性
パートナープロップに出資した際は、VCとしてこのように課題の多いパートナービジネスの市場が本当に魅力的なのかを慎重に見極める必要がありました。
① 海外のパートナービジネス管理SaaS市場
まず、海外に目を向けると、PRM(Partner Relationship Management)と呼ばれるパートナービジネス管理のためのソフトウェアがすでに確立したカテゴリとして存在しています。PRM市場は2021年に約550億ドル規模に達し、2028年には1,500億ドルを超えると予測³されています。impact.comやIMPARTNER、PartnerStackといった企業が成長していることからも、市場の成立性は十分に証明されていると言えるでしょう。

② セールステックの市場トレンド
加えて、セールステック全体の進化を振り返ると、これまでの多くのプロダクトは社内の営業ケイパビリティを高めることに主眼を置いてきました。営業活動の可視化、リード数の拡大、リードの質の向上といったテーマは、すでに多くの企業で一定の解決が進んでいます。
一方で、営業人材不足やツールの飽和といった環境変化を背景に、社内の改善だけでは成長が頭打ちになるケースも増えてきました。その延長線上で浮かび上がってくるのが、社外のリソースをいかに効率的に活用するか、という問いです。この問いに正面から向き合う領域こそが、パートナービジネスでありPRMだと考えています。

4.スタートアップにおいてパートナービジネスが果たす役割
このようにマクロな観点からパートナービジネスが注目を浴びている理由が説明できるのですが、日々弊社の投資先と関わる中で「スタートアップにおいてパートナービジネスが非常に重要であること」を再認識させられます。例えば工事会社向けの経営管理システムを提供するクラフトバンクは2023年からの2年間で地域銀行や信用金庫など46行庫と連携し、紹介案件から約300社の契約を獲得⁴するなどパートナービジネスを極めて戦略的に活用している投資先です。また契約書レビューサービスを提供するリーガルテック企業のリセは2022年夏にパートナーセールスを立ち上げ、その後パートナー経由での受注が拡大⁵しています。弊社の投資先以外においても、多くのスタートアップがパートナービジネスを活用して成長を実現しているのは明らかです。
これらの事例に共通しているのは、パートナービジネスを単なる紹介チャネルとしてではなく、再現性のある成長手段として位置づけている点です。スタートアップは、成長を続けるために顧客ターゲットや提供価値を変化させていく必要があります。その過程で、限られたリソースの中でも効率的に市場を広げていく手段として、パートナービジネスは極めて有効です。
VCの立場から見ると、これは単に売上を伸ばす話ではありません。人を増やさずに成長できる構造は、資本効率の観点でも非常に重要ですし、これまで自社ではリーチできなかった顧客セグメントにターゲットを拡大するきっかけにもなるのです。
5.スタートアップ経営におけるパートナービジネスの使いどころ
VCとして多くのスタートアップ経営者と議論する中で感じるのは、パートナービジネスは万能ではない一方で、使いどころを誤らなければ非常に強力な武器になる、ということです。
まず意識すべきなのは、パートナービジネスは立ち上げの初期段階から自然に回り始めるものではない、という点です。プロダクトの価値が十分に言語化されておらず、誰に、どのように売るべきかが定まっていない状態では、パートナーも動きようがありません。自社で一定の直販実績を積み、勝ちパターンが見え始めたタイミングでこそ、パートナービジネスは本来の力を発揮します。
パートナービジネスを検討する際に、経営者が意識すべきポイントはいくつかあります。
自社が本当に取りに行きたい顧客は誰なのか
その顧客との接点をすでに持っているのはどのようなプレイヤーか
パートナーにとって、自社プロダクトを売る合理的な理由があるか
これらを曖昧にしたままパートナーを増やしても、成果にはつながりません。むしろ、パートナー数が増えるほど管理コストだけが膨らんでしまいます。
VCとして私が重要だと考えているのは、パートナービジネスを単なるチャネル戦略ではなく、経営戦略として捉えられているかどうかです。どの領域を自社でやり、どこを外部に委ねるのか。またどのようなパートナーと組むことが最適なのかなどを意識的に設計できているスタートアップほどパートナーチャネルをうまく活用し、成果に結びつけられている印象があります。
6.パートナープロップのビジネス
ここまで述べてきたように、パートナービジネスはBtoB企業にとって極めて重要な成長手段である一方、その運用は長らく属人的で、再現性を持たせることが難しい領域でした。多くの経営者が重要性を理解しながらも、十分に使いこなせていない現実があります。
パートナープロップが取り組んでいるのは、まさにこの構造的な課題です。単にパートナーを管理するためのツールを提供するのではなく、パートナービジネスを一つの経営プロセスとして可視化し、再現可能な形に落とし込もうとしています。どのパートナーが、どのフェーズで、どのように価値を生んでいるのか。その実態をデータとして捉え、次の意思決定につなげていく。その発想自体が、日本ではまだ新しいものだと感じています。
投資検討から約1年間の伴走を通じて強く感じているのは、パートナープロップが向き合っているのは「ツールの提供」ではなく、「パートナービジネスという経営アジェンダそのもの」だという点です。パートナービジネスを属人性から解放し、スタートアップがより健全にスケールしていくための土台をつくろうとしている。その挑戦は、これから多くの経営者にとって無視できない存在になっていくはずです。
VCとして、今後も同社の取り組みを通じて、日本のスタートアップにおけるパートナービジネスのあり方が進化していくことを期待しています。
参考文献:
1. アクセンチュア「B2BCX - 企業間取引における顧客体験調査2017」
2. 才流「SaaS企業のパートナービジネス失敗体験」
3. Partner Relationship Management Market Size
4. クラフトバンク、2年で46行庫と連携 還元手数料は平均75万円
5. 「LeCHECK」・「LeFILING」パートナーセールス2024年
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