【ファーストインプレッション】BYD RACCO試乗。剛性とドラポジは合格点、だが「指名買いしたくなる理由」は見当たらない
市街地をほんの少し走らせただけの、
短時間試乗だ。
したがって、これはあくまで
ファーストインプレッションであり、
このクルマのすべてを語るものではない。
しかし、クルマと向き合う最初の数分間、
そして街中を少し転がしただけでも、
「メーカーが何を狙い、どこで妥協したのか」は
その一端を見せてくれる。
結論から言えば、BYD RACCOは
「極めてクセがなく、
誰が乗っても平均点以上を出せる優等生」だ。
しかし同時に、
「安くても、
このクルマを選ぶ決定的な価値が見出せない」という強い疑問が残る試乗となった。
その理由を、
静止状態の確認から走りのフィールまで、
順を追って紐解いてみたい。
1. 静止状態の確認:真摯な姿勢と、相変わらずの弱点
走り出す前、ドアを開け、乗り込み、
ポジションを合わせる。
この段階でBYD RACCOは、
期待と落胆の両方を味わわせてくれた。
ドアの剛性感:従来の軽の域を超えている
まずドアを開閉した瞬間の重厚感と音。
ここは素直に褒めたい。
従来の日本の軽自動車にありがちな
「ペラペラ感」や軽い金属音ではなく、
しっかりとした密度感がある。
車体骨格の剛性感の高さを、
走り出す前の「ドアを閉める音」だけで
予感させてくれる。
ただし、それは「真面目に作られている」という安心感であり、
心を揺さぶるような感動までは届かない。
ステアリング調整:日本のメーカーが言い訳できない部分
今回、最も驚かされたのが
ステアリング調整機構だ。
チルト(上下)だけでなく、
テレスコピック(前後)までもが全グレード標準装備されている。
しかも、調整幅がしっかりと確保されているのだ。

日本の軽自動車やコンパクトカーでは、
「コスト」「エアバッグの配置」「スペース」
を理由にテレスコが省かれたり、
あっても微小な調整幅で済まされたりすることがいまだに多い。
RACCOのこの仕様は、日本メーカーにとって
「言い訳が通用しない」レベルの突きつけだ。
結果として、
ドラポジ(運転姿勢)は極めて良好に決まる。
中上級グレードにはパワーシートも備わる(膝裏を持ち上げるリフター機構がないのは惜しいが)。
正しい姿勢で運転に集中できる環境を整えている点は、大いに評価したい。
メーター視認性:ドルフィンと同じ過ち
一方で、
ドライバーの視界に入るメーター類は
明確なマイナス点だ。
メーター自体が非常に小さく、
直感的に情報を読み取りにくい。
これは同社の「ドルフィン」に乗った際にも
強く感じた違和感だが、
RACCOでも改善されてはいなかった。
ドライビングポジションを
重視する姿勢を見せながら、
最も目に入るメーターの視認性を
犠牲にしている点はちぐはぐさを否めない。
2. 室内空間:徹底的な「日本車研究」の跡
車内に目を向けると、
そこにあるのは
「使い慣れた日本の軽自動車」そのものの空間だ。

シートに腰掛けたときの見渡しやすさ、
小物入れの配置、
コンビニフックの位置に至るまで、
日本の軽ハイトワゴン文化を徹底的に研究し、
トレースした形跡が伺える。
違和感なく日常に溶け込むという意味では
正解なのだろうが、
BYDならではの新しい提案や
「この空間にいたい」と思わせる独自性は薄い。
3. 走りの印象:剛性感はあるが、「対話」ができない
クルマを走り出させてみる。
ステアリングと接地感
30km/h程度で街中を流している段階でも、
ボディのしっかりとした剛性感は伝わってくる。
軽自動車という枠組みを超えた骨格の強さだ。
しかし、ステアリングを切ったときの
感覚はどうだろうか。
ステアリングセンター(直進状態)の座りは
意図的に緩く設定されている。
背が高いハイトワゴン構造ゆえに、
急な挙動変化で転倒や不安感を与えないための
安全策なのだろう。
だが、かつて日産サクラに乗ったときに感じた
「車高が高いのに、
手足のようにキビキビと一体感を持って動く」
といった爽快な感動は、RACCOにはない。
一体感がないわけではないが、
タイヤが路面をどう捉えているかという
「接地感」や「路面インフォメーション」が
極めて薄いのだ。

ターゲット層(日常の足として使う層)からすれば
「ハンドルの手ごたえなんて
軽くて静かならどうでもいい」
かもしれない。
しかし、
クルマと対話しながら
安心して運転したいドライバーにとっては、
どこか地面から浮いているような味気なさを
覚える。
加減速:穏やかすぎるパワートレインと、不気味なブレーキ
加速フィールは実に穏やかだ。
ドライブモードを切り替えても全体的に
出力が絞られた印象で、
EVらしいパワフルさや速さは感じられない。
もちろん、日常使いにおいて「速さ」だけが
正解ではないし、
常識的な範囲には収まっているが、
EV特有のレスポンスや伸びやかさを
期待して乗ると肩透かしを食らう。
そして、最も驚かされたのが減速(ブレーキ)だ。
EVやハイブリッドにありがちな
「強い回生ブレーキ感」がほとんどない。
そのため、
停止寸前にペダルコントロールが難しくなって
ガクンと揺れる「カックンブレーキ」が発生せず、
スーッと自然に止まることができる。
この自然な停止フィーリングは、
単に車重が軽いから自然に止まれるのか、
それとも制御セッティングを緻密に煮詰めた成果(進化)なのか、
短時間の試乗では判断がつかなかった。
もしこれが意識的なセッティングに
よるものだとしたら、
かなり高度な制御であり
「すごい」と評価すべきポイントだ。
駐車場での5km/hからの停止など、
日常で最も神経を使う領域での
扱いやすさに直結する部分だけに、
ここは改めてじっくり検証したい
ポイントである。
4. 総評:誰にとって幸せな一台なのか
BYD RACCOを一言で表すなら、
「クセのない優等生」だ。
軽の域を超えた高いボディ剛性
テレスコ標準装備による優れたドライビングポジション
回生感を感じさせない自然なブレーキフィール
違和感なく使える日本車ライクな室内
これらを揃え、
なおかつ手頃な価格設定で
提供されているとすれば、
「日常の移動手段」としては
何ひとつ文句はないだろう。
誰が乗っても70点以上の満足感を
得られるはずだ。
しかし、「じゃあ、これが正解のクルマなのか?」と問われると、
私は首をかしげざるを得ない。
自動車としての完成度は高く、
安く作られている。
だが、乗っていて心が動くような
「明確な特徴」や
「このクルマでなければならない理由(クセ)」が
存在しないのだ。
クルマを買う、
そして所有するという体験には、
スペックや安さだけでは測れない「価値」が必要だと私は考えている。
どこか一所でも「なるほど、こうきたか!」と
思わせる設計思想の尖りがほしい。
どれだけ安く、平均点が高くても、
乗る人に語りかけてくる個性が無ければ、
そこに愛着という価値を見出すのは難しい。
「価格を考えれば十分に買い」と言える人は多いだろう。
しかし、私は買わない。
クルマに単なる移動以上の
「対話」や「価値」を求める人にとっては、
どこか物足りなさが残る一台である。
