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デザインサイエンス(01: 身体)「07_人類史における身体性・未来編 1」

このデザインサイエンスは、デザインを学ぶ学生たちに広い知識と広い視野を持ってもらうために開講したシリーズものです。詳しくは(00: イントロ)を参照ください。
 
本講義は「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、学生たちから特にリアクションの良かったトピックをランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!

 今回は「身体」です!

前回は人類史における物理的な身体「肉体・筋肉・身体機能」とその重要性について考えてきました。今回は身体性の未来に思いを馳せてみましょう。

・現代の身体性
さて、現代における身体の重要度は昔と比べると低くなりました。(前回の「人類史における身体性・歴史編」を参照ください。)その理由は、あらゆる仕事の身体・肉体的な負担を軽減させるために、今日の技術は進歩してきたからです。例えば建設現場のあらゆる重機は労働者の身体的負担を軽減させるものとして発明されてきました。また長距離の移動や食料の調達も随分簡単になりました。

このように人類史を巨視的に見れば、昔と比べて身体機能を発揮する機会が社会生活から徐々に失われつつある現在ですが、健康維持のためには適度な運動や筋肉量を維持することが必要です。そのため人類は「エクササイズ(運動)」なるものを発明し、それによって精神的な安定や疾病予防を行っています。

また多くのエンターテイメント、例えばスポーツ、登山、テーマパークなどは身体を使って楽しむものですし、優れた身体機能を発揮しているスポーツ選手などの活躍を熱狂的に観戦しています。また人々を魅了する要素として身体性はまだ重要な位置を占めており、それによって、エンターテイメントビジネスを成功させている団体や個人が沢山存在します。

またファッション業界では、モデルの健康維持のためBMI値の規定を設けることで「細すぎる体形」への過剰な依存を緩和させる動きが出てきたりと、人類の身体性への執着は様々なところに見られ、人類はまだまだ身体性によって一喜一憂し、優劣や損得を生む社会に依存していると言えます。

・人類史における未来の身体性とは?
前回からここまでで「人類史における身体性」の過去から現在までをざっくりと簡単に俯瞰してきました。そして、ここからは現在から未来へのベクトルで見ていきましょう。ちなみにここから紹介する「身体機能の補助・拡張」などの分野は議論が長年重ねられており、現在進行形で発展しています。ここではざっくりと、事例を通して俯瞰していきます。

・身体機能の補助
「身体機能の補助」という分野は古くから見られます。道具類は全てそうですが、身近なところだと杖や眼鏡などもそうです。それらは歩行機能を支えるものや、弱った視力を補うものです。また「補助器具」という分野は、いわゆる障がいをもつ身体機能を補填してくれる道具(器具)として発展してきました。

時代が進み、障がいを持つ人々の社会での活躍も進み、もはや障がいではなく個性だと捉える見方も増えてきました。今現在インフルエンサーやアーティストが、補助器具(義足)を表現のひとつとして、美しさ、逞しさ、強さを表し、それに共感する人々が増えています。この分野の特筆できるところは、「フィジカル」(補助器具であるプロダクトの機能)と「メンタル」(ポジティブな精神面が解放されていること)の両方が進化し交差して相乗効果を得ているところにあります。

図:Viktoria Modesta(左)Lauren Wasser(右)

さらに、アスリートの世界にも補助器具の大きな進化が見られます。例えば義足や車いすですがこれらはニュースやドキュメンタリーなどでも多く取り上げられていますので、みなさんも良く知っていると思います。陸上競技、特に短距離走の分野では、義足選手と健常選手との差がほとんど無いところまで進化し、今やその機能は追い抜こうとしています。ゆえに選手用の義足のスペックに規制をかける案も検討されてきています。

アスリート用の車いすも軽量化や耐久性が向上し、よりハンドリングしやすいものになってきました。また電動の車いすであれば、より細かいハンドリングや坂道や階段まで乗り越えることができるものが出てきました。また義手の技術開発分野でも「脳で思う」だけでその通りの動きを実行できるものが出来つつあります。

 図左:Oscar Pistorius 選手
図右下:階段にも対応したSCEWO社の電動車椅子
図左:ピーターパン初版で描かれた義手のフック船長(Captain Hook and Peter Pan by F.D. Bedford)
図右:Psyonic社の開発したバイオニック・ハンド:神経反応を読み取って可動する。

さらに、他人からは確認できませんが、ペースメーカーや人工肛門など、身体に装着して生命を維持しているデバイスも存在しています。

余談:
そうなると入れ歯やカツラはどうなの?という疑問も湧いてきますよね。この領域の議論は前提定義をしっかりとフレーミングしなくてはなりません。(このデザインサイエンスではオープンに雑談して欲しいため、そのフレーミングは行っていません)さらに余談になりますが、「スマートフォン」ですらも身体の一部であるという判断が、2014年6月カリフォルニア州で下された事例もあります。これはデバイスが身体の外にあるため、ここで取り扱うべきかどうか議論が残りますが、人類はもはやスマートフォン依存(情報依存)が深刻化しており、その情報によって行動を行うため、身体機能の補助として判断するという視点も存在します。アンジェリーナ・ジョリーは遺伝子検査の結果、乳がん発生率の高い遺伝子を持っていることがわかり、がんが発症していないにも関わらず、摘出手術を行いました。これも情報が身体のありかたを決定させた出来事だと捉えることができます。

アスリートの事例などからも、補助器具は今まで身体機能に問題を抱えている人たちだけのものでしたが、そのパフォーマンス力が上がってくることによって、もはや単なる身体機能の補助ではなく「拡張」のフェーズに入ってきたとも言えます。

・身体機能の拡張
ここでは先に挙げた「補助」とは違い、より高いパフォーマンスへのアップグレードだと考えられるものを「拡張」と捉えて考察してみたいと思います。
 
下図のものは、1950年代中頃、ゼネラル・エレクトリック (GE) のエンジニア、ラルフ・モッシャーによって進められた、サイバネティック擬人機械化システム(CAMS / Cybernetic Anthropomorphic Machine Systems)のプロジェクトで試作されたものです。

当時のアメリカは戦後の好景気で電気・機械産業が好景気にあり、GE は潤沢な開発予算を準備してこの開発に挑んでいました。ニーズとしては、原子力産業での遠隔作業の必要性、より大きな力仕事への対応や軍事目的などで、人間の操る機械の開発を積極的に進めていました。当時はまだコンピューター技術が発達していませんので、油圧ポンプやワイヤー、ギアなど金属パーツによって機械的に操るものでした。

図左:GE が機械擬人ロボを開発していることが掲載されたSF雑誌の表紙
図右上:GE のエンジニアによって試作されたアームロボット
図:エイリアン続編に登場したPower Work Loader ( exoskeleton )

また、この機械式の機能拡張マシーンは、SF (サイエンスフィクション)の中でも描かれています。このPower Work Loader はエイリアンの続編の作品で活躍しており、名前の通り力仕事の際に使用するパワードスーツのようなものです。このパワードスーツジャンルのことを「Exoskeleton(エクソスケルトン・外骨格)」とも呼び、体の動きに合わせて重機が反応するようになっており、外骨格として強力な手足の働きを行うものです。

これは映画の中でのお話でしたが、技術開発は進んでおり、もうほとんど映画の世界のような、パワードスーツのプロダクトが実用化しつつありますので、みなさんもExoskeletonで検索してみてください、面白い画像が沢山出てきます。

・オーグメンテッド・ヒューマン
人体と先端科学技術が融合したもので、特に医療・リハビリ分野、遺伝子編集や延命技術、電子義足や人工内耳、3Dプリント皮膚、デジタルピル(錠剤)など、バイオ分野から機械技術分野まで、様々な領域で身体機能のアップグレードが試されている領域です。

図左上:心臓に張り付ける次世代ペースメーカー
図左下:内耳インプラント
図右:CYBERDYNE社が開発した装着型サイボーグ「HAL(Hybrid Assistive Limb)」は、脳からの生体電位信号を読み取り動作をサポートする

先のエクソスケルトン技術も、このオーグメンテッド・ヒューマンと重なります。下図のように脊髄損傷者用歩行アシスト装置に代表されるリハビリ補助ロボットは、病気や事故が原因で車いすでの生活を余儀なくされている人の歩行をサポートします。またこのようなウエアラブル・デバイスは製造、物流、建設、看護などの肉体労働が必要な分野などでも開発が進んでおり、その形態も全身のサポートから上半身や下半身だけなど、部分的なものまで様々です。

・身体機能の転換
最後に、「身体機能の転換」として身体そのものが置き換わるかもしれない未来として幾つか事例を見ていきます。ここはもうほとんど未来の領域ですので、みなさんが開拓する分野になります。

・テレイグジスタンス
「テレ」はテレビやテレフォン、テレワークなどで使われる「テレ」で、ギリシャ語で「遠隔」という意味があります。「イグジスタンス」は「存在」という意味です。つまり「遠隔」で「存在」する技術です。
 
自身が存在する場所とは異なった場所で自在に行動するという人間の存在拡張の概念であり、またそれを可能とするための技術体系のことです。

例えば、危険地域や遠隔地での作業を可能にする技術で、宇宙や深海などでの建設やメンテナンス仕事などに適しています。また、ドローン技術や遠隔手術が可能なダヴィンチなども「テレイグジスタンス」技術です。作業現場が危険であったり、環境条件が人間に都合が悪かったり、またミクロの世界であったり、熟達者が近くにいないなどの条件下で、安全にまたは簡単に仕事を遂行するためのものです。

これは宇宙開発においても期待されている技術で、宇宙での真空状態、微重力環境、宇宙線や放射線などの被ばくの可能性が高い場所での作業は、将来テレイグジスタンス技術によって達成されるでしょう。

図:宇宙開発で試されたテレイグジスタンス技術

作業のためのテクノロジーとしての説明ばかりになりましたが、これは人間関係を構築する、メンタル領域も超えるかもしれないという考え方もあります。そこらへんを上手に取り込んだ物語で、映画「アバター」があります。遠い惑星に居住する現地民族と交流するために、現地民族に近い身体性を持ったアバターを、人間が遠隔操作するという設定でした。アバターを通して現地民族の信頼を得て、資源を搾取するという工作のためのテレイグジスタンスです。身体的にも精神的にも不思議なテレイグジスタンス感覚が体験できます。このようなデザインサイエンス的視点で、改めて「アバター」を観てみるのも良いかもしれません。

・バーチャル・リアリティー (仮想現実)
これは既に一般的に普及した言葉ですので説明不要かと思います。身体は現実世界に存在させつつ、意識や思考、またはアバターのような身体性を「情報」によって創られた空間に存在させることのできる技術です。テレイグジスタンスと違う点は、「仮想空間」であることです。

また映画の話になって恐縮ですが、「インセプション」(監督:クリストファー・ノーラン)では、ある人物の考えを変えさえるために、彼の夢に入り込んで工作を行うというストーリーで、仮想現実空間での活躍がたっぷり描かれています。その物語の登場人物はみな脳を直接電気的に接続し、協力しあってチームで活動します。仮想空間の中で繰り広げられる物語は身体性を持っていますが、これも全て脳内というバーチャル・リアリティーです。さらに夢の中とはいえ、実際にその人物に心変わりを起こさせるというリアリティーもあるのです。

人類は大航海や西部開拓、宇宙開発のように生存空間を拡大し続け、また情報空間・仮想現実空間までも作り出してきました。またそこで開拓・獲得、創出した空間において「仕事」達成の手段としてこれらテレイグジスタンスやバーチャル・リアリティー技術は進歩してきました。

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