見出し画像

デザインサイエンス(05: 環境)「16_Algae・藻類の大きな可能性 」

このデザインサイエンスは、デザインを学ぶ学生たちに広い知識と広い視野を持ってもらうために開講したシリーズものです。

本講義は「イントロダクション」「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、学生たちから特にリアクションの良かったトピックをランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!

 
今回は「環境」です!
 
2000年頃から注目を浴びている「藻類 (Algae)」について探っていきます。日本国内ですと「ユーグレナ」という名前がついた食品やサプリ、コスメ商品など目にしたことがある人は多いのではないでしょうか?これらは微細藻類(和名:ミドリムシ)を原料とした商品で、2005年に東京大学から興ったベンチャー企業・ユーグレナ社から発売されているものです。

ユーグレナ社の最終目標はバイオ燃料の生産ですが、最初に着手した事業は食品開発でした。燃料を作りたい企業が食品開発からスタートすることに違和感を抱く人がいるかもしれませんが、これがとても理に適った判断であることは、今回の特集で理解できると思います。

それでは一緒に「藻類の可能性」を探っていきましょう!
 
■ 藻類の4つの機能
藻類には大きく分けて4つの機能面が期待されています。それぞれの機能について解説します。

(1) エネルギー(バイオ燃料)
いまの燃料エネルギーの主流である化石燃料に替わる代替エネルギー、バイオ燃料として「藻類」は期待されています。その最大の理由としては藻類の培養では光合成が行われるため、カーボンニュートラルが達成できるからです。つまりバイオ燃料として使用するとCO2を排出しますが、生産時に光合成でCO2を吸収していますので、相殺されて実質のCO2排出量はゼロと換算することができます。

バイオ燃料の原料は主に、サトウキビやトウモロコシ、大豆やパームオイルなど畑で育てるものや、キッチンから出る廃食油などがあります。その中でも「藻類」が優れている点は、成長の早さ(日照条件によりますが1~2週間ごとに収穫が可能)と、アブラヤシやキャノーラなどの陸上植物よりもグラム当たりの油分がはるかに多いことです。

さらに、先進諸国による「持続可能な航空機用燃料 (SAF / Sustainable Aviation Fuel)」 の導入目標の達成に貢献できそうなところまで、この藻類由来のバイオ燃料開発が進んでいます。

図:エクソン・モービルも藻類燃料の開発に研究費を投じている(EARTH PROTEIN より)

 
(2) 素材(プラスチック、繊維、建築資材など)
既存のプラスチック素材の基礎は「炭素」で構成されています。つまり何億年も前に、化石燃料の原料の中に取り込まれたCO2からプラスチックを作っているのです。そこで、藻類の光合成で空気中から取り込んだ二酸化炭素でプラスチック構造をつくるバイオ・プラスチックの開発が進んでいます。つまり何億年も前に地中に固定化されたCO2をわざわざ掘り出すのではなく、いま空気中にある二酸化「炭素」を構造体にしてプラスチック代替品をつくるというのは、カーボンニュートラルの観点からも優れています。

また有機分解可能な素材ですので、石油由来のプラスチックが土に還るのに何百年も必要なのに対して、バイオ・プラスチックは厚みによって差異がありますが、数週間から数年と圧倒的に短期間で分解されます。

 図:使い捨てプラスチックの世界生産量が40億トンになる

このバイオ・プラスチック分野が将来活躍できる領域は広いと期待されていますが、初期導入としては「使い捨て用途のプラスチック製品 (Single-Use Plastic)」、例えば包装材、コンビニ袋、食品容器やストローなどへの導入が考えられます。この使い捨てプラスチックの生産量は世界で年間400,000,000トン(40億トン)規模ですので、環境問題(特に海洋汚染のマイクロプラスチック問題)に大きく貢献できます。

図:藻類プラスチックの開発を行うSWAY社(EARTH PROTEINより)

また建築資材分野では、藻類由来のコンクリートブロックの開発が進んでいます。普通のコンクリートは地中から採掘した石灰を使って製造し、その工程で大量のCO2を排出してしまいますが、石灰藻(藻類の一種)が作った石灰を利用することで、カーボンニュートラルが達成できます。

図:プロメテウス社の開発する、カーボンニュートラルな藻類由来のコンクリート(EARTH PROTEINより)

下記のリンクは、この業界をけん引している米国のプロメテウス・マテリアルズ社のサイトですが、その中で藻類の役割が分かりやすく図解されています。

 繊維分野でも、積極的に藻類の活用が試されています。自然素材のセルロースと藻類の混合で作られた有機分解可能な繊維などが成果を出し始めています。

 図:Algiknit 社が開発する藻類由来の繊維(EARTH PROTEINより)


(3) 環境修復(CO2吸収、浄化作用)
・CO2 吸収
これまで何度も出てきましたが、藻類培養では基本的に光合成を行いますので空気中のCO2を吸収します。これはカーボンニュートラルの達成ができることから、グローバルな環境政策にも貢献できます。

我々は、この便利な文明社会でのあらゆる活動においてCO2を排出してしまっています。対して、藻類由来の素材や燃料を積極的に生産することは、森林をつくる(植林する)という側面で同じといえます。いまの段階では、まだまだ小さなスケールですが、将来多くの藻類由来の製品が普及することで、この炭素循環の好転を拡大することが可能となります。

・浄化作用
藻類には優れた浄化機能が備わっています。例えばヒトや動物の排泄物(リンや窒素)を吸収・浄化するため、家庭排水の下水処理(浄化)に利用できます。また工場排水などに含まれる有害物質の「鉛」や「水銀」なども吸収するといった研究も報告されています。

さらに、藻類の中には放射性セシウムを吸収・除去する力をもつもの(nak 9)があり、2日で培地中の放射セシウムを90% 以上除去したという筑波大学での研究結果も報告されています。

 このことから、日常生活や生産活動で排出される廃棄物や、毒性の高いもの、危険な有害物質を除去したいときなど、環境改善に活用できると期待されています。

 
(4) 生命維持(食料、医療、酸素、宇宙)
・ 食料分野
藻類は「タンパク質」という栄養の観点からも優れた物質です。例えば牛肉のタンパク質含有率が約20%であるのに対し、乾燥したスピルリナやクロレラは約60%〜70% がタンパク質で構成されています。

また、「必須アミノ酸」をバランス良く含んでおり、植物性でありながら動物性タンパク質に近い、非常に質の高い栄養スコアを発揮します。

DHA・EPAなどのオメガ3系脂肪酸は脳機能の維持や向上に効果があるとして注目されており、青魚にその成分が多く含まれると言われています。しかしこれは青魚が餌とする藻類に豊富に含まれているからです。魚という海洋資源から間接的にDHA・EPA を取り出さなくても、藻類から直接抽出することで、効率的に地球環境に優しい健康食品やサプリメントなどが製造できます。

考えてみると、健康に良いといわれる昆布やワカメなどの海藻類は、「多細胞藻類」ですので、ここでの「藻類」が健康に良いというのはしごく当然のことです。

・ 肥料分野
先の浄化作用のところで、藻類はヒトや動物の排泄物から「リン」や「窒素」を吸収できるといいましたが、これはすなわち「肥料」の成分と合致します。つまりこの工程で培養した藻類を肥料として活用することができます。つまり藻類を活用した家庭用排水の浄化システムは「きれいな水」と「肥料」の両方をつくり出すことができるのです。

・ 医療分野
通常のワクチン製造では、主に動物の生体細胞が用いられ、その培養を通じてワクチン成分を生産します。そのため、生産スピードは細胞そのものの増殖速度に制約されてしまいます。

そこで現在、遺伝子組み換えを施した「藻類」を利用し、特定の抗体やワクチンを安価かつ迅速に製造する技術開発が進められています。これは、従来の動物細胞培養に比べて、コストと生産スピードの両面で極めて優れた、次世代の培養技術として期待されています。

(論文リンク:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2211926421002277

 また、先のバイオ・プラスチック分野とも重なりますが、医療用の「体内で分解される縫合糸」や「薬剤カプセル」など、「生分解可能」という特徴を活かした医療分野への応用も積極的に開発されています。


■ つくりかた
藻類の培養方法は基本的にはとてもシンプルなもので、水と養分と光の条件が整えばどんどん育ちます。藻類は毎日およそ2倍に成長すると言われていますので、例えば、1日目に1g の藻類は、わずか3週間で、2~3年かけて育てる肉牛の体重800kg を上回ることになります。

・オープンシステム(開放型)
陸上培養で代表的なものは、大きなプールで育てる方法です。一般的には屋外に設置されており、大規模で低コストな培養方法です。水車などを使って循環プールのように流れをつくることで、停滞域をなくし、まんべんなく培養できるような工夫が見られます。

図:露天型の循環プールで大規模培養を行う藻類生産の現場
 (Google Earth: 31°47'41.77" N 107°46'55.09" W, ニューメキシコ州)

また、沿岸地域での養殖も考えられます。これは陸上タイプ(淡水)と違い、海洋から栄養分を直接取り込めるので、その分のコストがかかりません。ただ他の水産養殖業と同じく近隣環境との調和に充分配慮しなくてはならないこと、対塩性の設備導入や、外部からの汚染(他の藻類や捕食者であるプランクトンなど)の回避、環境整備などの初期費用やノウハウが必要なため、なかなか実用化が見られません。

・クローズドシステム(密閉型)
クローズドシステムは、一般的にバイオリアクターと呼ばれ、密閉型の透明容器の中に培養液を封入し、外から光を当てて育てるタイプのものです。円筒型タンクのようなもので攪拌しながら育てるものや、チューブ状で循環させるものなどがあります。「攪拌」や「循環」は、いずれも停滞域をつくらず、まんべんなく光を当てるための工夫です。

この、バイオリアクターは先のオープン型の陸上培養と同様によく見られるタイプで、実験室で試験しやすく、そこからスケールできることがその理由のひとつです。しかし設備コストが高いため、量産のスケールメリットを突破できないという状態が続いています。

図:攪拌タンク型のバイオリアクター(左)と、循環型のバイオリアクター(右)

このバイオリアクターは筆者も研究室で試したことがあります。培養液と光の環境さえ整えば、どんどん緑色が深くなっていきました。ただ、培養液の栄養分や光量の最適化がうまくいかないと、ある程度で成長が止まってしまいます。

 図:筆者研究室で行った藻類培養実験
培養液を準備するだけで、比較的簡単に光合成を行いました。


・プランティングシステム(付着型)
これは人工芝のように藻が値付けされたカーペットを、自然界に存在する淡水にさらすことで、効率的な培養を行う方法です。これはHydroMentia 社が開発しており、生産コストの抑制や周辺環境との共存も配慮できているとみられますが、まだ大型の培養産業まではリーチできていないようです。

・Heterotrophic Cultivation(従属栄養培養型)
少し難解な言葉ですが、仕組みはシンプルです。 これまでの「光合成で自らエネルギーを生み出す方式」をいずれも「独立栄養培養」と呼ぶのに対し、この「従属栄養培養」は、外部から「糖」などの有機物を「エサ」として与えて育てる方式を指します。

つまり、自力で光合成を頑張るのではなく、外部のリソースに「従属(依存)」して増殖するモードへの切り替えです。この方式では光を必要としないため、光を吸収するための「葉緑素(クロロフィル)」が作られず、見た目も緑ではなくクリーム色の藻類が育つのが特徴です。

ただこの場合、与える餌である「糖」を、新たに作ったものであれば、カーボンニュートラルにはなりません。そこで農業残渣や廃棄食品などから、投与する餌を見つけてくる必要があります。そこでサトウキビの搾りかすやトウモロコシの芯などが、この培養に利用されています。


どうでしたか?藻類の成長はとても早く、しかも育て方も他の作物や家畜動物などと比べてもシンプルなものでした。

化石燃料などの採掘から精製までのプロセスや、家畜動物の飼育、水産養殖などと比べても圧倒的に簡単そうでした。しかしそうであれば、もうとっくに藻類によって地球に優しい燃料や食品、また循環型の新素材が広まっているはずですが、まだそのような世の中にはなっていません。

っということで、次に「課題」についてみていきましょう。

 
■ 課題
さて、培養が簡単そうで、とんでもなく広い分野での活躍が期待される「藻類」でしたが、なぜまだ社会に広く普及していないのでしょうか?

藻類産業の最大の課題は、大量に安定的に培養することの達成です。もちろんその克服のためにコストをかけて設備を整えればいいのですが、そうすると結局コスト高になり、社会実装が出来ないという結果になってしまいます。

例えば、開放型の屋外プールでの培養では、外環境からの競合する生物や捕食者による汚染があり、育てたい藻類だけを効率よく育てるという生産管理が難しいこと、また閉鎖型のバイオリアクターの設備は高額で量産のスケール化が難しいこと、さらにそこから脂質成分などの抽出工程などにもコストがかかるため、今の段階では化石燃料にはコスト面で競合できない状態にあります。

ただ、人類はこれまで、石油産業での「探査」「採掘」「管理」「争奪・紛争」「運搬」「精製」などとてつもなく困難な工程を経て、量産ベースに育ててきました。「藻類」の量産はこのオイルビジネスと比較すると容易だといえます。(オイルマネーの既得権益を乗り越えることが一番のハードルかもしれません)
 

■ 未来の可能性(地球・宇宙編)
・ 地球編
過去にもこのデザインサイエンスで触れましたが、これまで人類は地球という広大な土地に依存することで食料と資源を得てきました。この依存度が上がり過ぎることで引き起こされる様々な環境問題が存在します。故に、土地利用という依存度を下げることは環境負荷の低減にもつながります。

藻類は、食料や燃料資源を作り出すための土地の依存度を、バイオリアクターなどの発展で劇的に下げることができるかもしれない可能性を秘めています。バイオリアクターは露天の培養池と違って、密閉型の機械設備になりますので、垂直に重ねることで高層化が可能です。また既存の建物物のファサード(外皮)にバイオリアクター設備を組み込むデザインなどもみられ、積極的に「都市的」なデザイン言語で、新たな循環システムの構築が可能かもしれません。

 図:ビルのファサードにバイオリアクターを装備したプロジェクト
(参考:Solar Leaf / Algae Bio-Reactive Façade)

都市は建物の表面が立体的にヒダ状に折り重なっている空間といえます。その表面にバイオリアクターを敷き詰めれば、都市のヒダ表面で光合成が行われ、CO2が吸収され、酸素が供給され、食料と燃料がつくられるような、新しいグリーンシティが将来誕生するかもしれません。
 
またこのようなバイオリアクターの開発が進み、低コスト化が進めば、設置可能な場所の選択肢が増えますので、土地利用問題に悪影響を与えない僻地や乾燥地、洋上などでの展開が可能になるかもしれません。

図:藻類培養のバイオリアクターの展開の可能性

・ 宇宙編(クローズド・エコシステム)
火星移住や月面基地など究極の「閉鎖系システム」において、藻類は重要な役割を果たす可能性があります。

「Bioregenerative life support system (BLSS)・生物再生型生命維持装置システム」と呼ばれるこの概念は、生物の生育プロセスを活用して閉鎖環境での循環を創りだす仕組みのことで、藻類もその中で注目されています。

閉鎖空間において、私たちの呼吸から出る二酸化炭素を、藻類は光合成によって酸素に変換してくれます。また排せつ物も栄養源として取り込み、そしてタンパク質や燃料に変換してくれます。

さらに、宇宙空間には宇宙線という有害な放射線が存在します。これは地球上では大気によって守られているのですが、火星や月面では無防備に晒されているため、対策をしないと被ばくしてしまいます。この宇宙線を防ぐ有力な素材として「水」があげられます。そこで、外壁の内側に水のレイヤーを作り、その中で藻類を培養しようという研究も行われています。 

図:「Water Wall」 の解説図(NASA)宇宙船の外壁に藻類培養液を敷き詰めることで、宇宙線からの保護に加え、船内でのあらゆる循環(浄水、二酸化炭素吸収、酸素供給、発電など)に役立てるプロジェクト


■ さいごに
さて、今回の藻類特集、いかがだったでしょうか?

多くの機能(燃料、新素材、循環、浄化、生命維持)を持つ藻類、また成長が早く、培養方法もシンプルなものでした。藻類がつくる未来の可能性は非常に明るく、さらに宇宙開発においても大きな期待がよせられていることもわかりました。

この「藻類の可能性」のなかで触れた「課題」は、大量生産に向けたスケール化と低コスト化にしか触れませんでした。しかし産業化に向けた将来、もっと多くの困難が立ち塞がっているはずです。

もし藻類に興味が湧いたのであれば、積極的にこの分野に挑戦してみてはいかがでしょうか?みなさんの挑戦によって、藻類の循環社会の実現は思った以上に早く実現できるかもしれません!



いいなと思ったら応援しよう!