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デザインサイエンス(04: 農業)「13_昆虫食の未来」

このデザインサイエンスは、デザインを学ぶ学生たちに広い知識と広い視野を持ってもらうために開講したシリーズものです。詳しくは(00: イントロ)を参照ください。

本講義は「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、学生たちから特にリアクションの良かったトピックをランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!
 
今回は「農業」です。

 今回注目するのは、昆虫食についてです。みなさんも聞いた事があると思いますが、環境に優しいタンパク質源として期待されています。しかし、日本では2023年頃の炎上騒ぎがあり、昆虫食ブームはすっかり下火になってしまいました。

さて、このデザインサイエンスでは、地球規模の視点から、創造活動を通して世界を良くしていく仲間を増やしていくことを目的とした講義です。昆虫食という一見キモいトピックですが、面白い可能性を秘めています。みなさん、楽しんでついてきてください!

 ■ 昆虫食とは
そもそも昆虫食とは何か、なぜ昆虫食ブームが来たのか、そして日本では、世界では何が起こっているのでしょうか。昆虫食をとりまく様々なトピックをざっくりと解説します。

 ・ 背景
すでに「10_動物性タンパク質・陸上編」で取り上げたように、肉類などの動物性タンパク質製品を作る畜産業には多くの課題がありました。その中で、必要な土地面積が広大であること、投入エネルギーが大きいこと、その割に獲得できるカロリー量は非常に少ないことなどが挙げられました。また動物倫理問題もあり、既存の畜産業から肉製品の革新的な増産は困難だと言われています。 

一方、世界人口は今後100億人に向けて増加し続けると予想されています。しかも現在の新興国や開発途上地域も経済的成長と共に食の西洋化が進み、肉製品の消費量も増大すると言われているため、今後2070 ~ 2100年頃のピークに向かって人口増加分以上に食料を生産しなくてはなりません。

図:これまで、農業の大型化によって食料需要に応えてきたが、、、

このことから、100億人社会に向けて、動物性タンパク質製品の深刻な不足が予測されています。これにより価格上昇による経済的争奪戦が起こると言われています。そこで動物性タンパク質不足が深刻化するのが、低所得者地域だと言われています。つまりこの課題は「人口問題」と「畜産業」「環境問題」「貧困社会」がセットになっていることになります。

図:人口増加よりも急傾斜に上昇する食料需要の予測

 ・ 昆虫食ブームの切っ掛け
先に説明したように、動物性タンパク質製品の不足に備え、世界は共に協力しあって、この課題に真剣に取り組まなくてはなりません。そこで、農業先進国でもあるオランダに所在する、ワーゲニンゲン大学と国連食糧農業機関 (FAO)が、2013年に出版した「 Edible insect ~Future prospects for food and feed security~ 」(食用昆虫・食糧・飼料安全保障の未来展望)という出版物が切っ掛けとなり、世界中で昆虫食というものが注目されるようになりました。これは先に挙げた「人口問題」「畜産業」「環境問題」「貧困問題」に触れており、この課題解決のために、昆虫が一役買うかもしれないという可能性が紹介されています。

図:ワーゲニンゲン大学と国連食糧農業機関 (FAO)が、2013年に出版した
「 Edible insect ~Future prospects for food and feed security~ 」の抜粋

この中では、昆虫養殖産業における環境的データだけでなく、養殖の方法、開発途上地域に見られる昆虫食文化や、家畜飼料としての可能性などにも触れられています。

特に欧州や米国などは、環境問題に対して積極的ですので、この新しいトピックに素早く飛びつきました。環境保護団体やハリウッドのセレブリティなどが、派手にプロモーションを行い、昆虫食ブームが徐々に盛り上がっていきました。

日本にもこの盛り上がりを受けて昆虫食ブームが到来しました。日本国内のケースで言いますと、以前から昆虫食に取り組んでいる研究者や専門家などは、派手で過多なパフォーマンスは誤解を生む可能性があるため危惧していました。 

その勢いは衰えることなく、無印良品が環境コンシャスなアプローチで「コオロギせんべい」を発売し、昆虫食ブームのピークを迎えました。

 ・昆虫食の誤解
今まで、様々なところで講演を行ってきましたが、意外と多いケースは、「未来はいずれ「昆虫」を食べなくてはならない時代が来る」というメッセージだと理解してしまっていることです。これは大きな誤解といえます。ひとつの食材を必ず食べろ、なんて強制された時代は未だかつて人類史であったことはありません。そうではなく、食品の選択肢がひとつ増えますよ、というだけのことです。スーパーの陳列台に並び、売れ行きが悪ければ次の週には棚から消える食材と全く同じです。

 ・ 日本の状況(炎上事件とその後)
日本での昆虫食ブームのピークは無印良品から「コオロギせんべい」が発売されていた2020年頃です。

その後、2023年2月徳島県、県立の小学校でコオロギパウダーを使用した給食が出されました。環境に関わる食育としての位置づけで、合計2回そのような機会が設けられ、希望した生徒のみが食したそうです。

しかしそのニュースを聞いた人々から「子供にどうして食べさせるのか」と批判が殺到しました。これは食の安全性(甲殻類アレルギーのリスクなど)や生理的な嫌悪感、SDGsの押し付けや、特定の政治や研究助成金などに関わる陰謀論などが理由とされています。

この炎上を切っ掛けに、公的機関は世論を恐れて研究予算を根こそぎ縮減、メディアも態度を一変、今では日本ではあまり昆虫食の話がきかれなくなりました。また国内の昆虫食関連の著名なベンチャーや企業などが倒産や撤退をしてしまいました。

 ・ 欧州・米国の状況
欧州・米国は、日本とは全く違う状況だと言えます。2023年には「European Protein Strategy (欧州タンパク質戦略)」において、ヨーロッパイエコオロギの食品としての重要性が説かれており、コオロギパウダー(その後ドライコオロギや冷凍コオロギも)が新規食品として承認されました。その他、ミールワーム(甲虫の幼虫)のパウダーなども承認がされており、昆虫食市場の成長が期待されています。

タンパク質はいつの時代も重要な栄養源であり、EUでは専門の「戦略」を立てるほどです。この機関が昆虫を冷静に評価しているというのは、何か感情的ではない凄みを感じます。

もちろん欧州や米国にも、昆虫食を嫌悪する人々は沢山存在します。時に炎上騒ぎもありますが、公的機関や研究機関は、日本のように炎上に萎縮することなく、やるべきこと(安全性の検証・確認、承認など)を粛々と進めてきました。これにより、公的機関だけでなく、民間からも研究費や投資が多く投入されている業界に育っています。(もちろん投資に見合わなければ瞬時に冷めるのですが。) 

日本は少しネガティブなところが目立つと叩かれ、シュンと萎えてしまいますよね。欧州・米国では、反対意見との共存は当たり前の議論(ディベート)社会ですので平気のようです。ネガティブなところが目立っても、ポジティブなところとの天秤を測り、議論を行いながら突き進んでいます。故に対立団体などは(環境保護団体とそのアンチなど)は、そこらじゅうで揉み合っていますが。

みなさんはどっちの社会の方が好みですか?

 ・ タイでの昆虫食
私はタイに13年間住んでいましたので、昆虫屋台でよくコオロギを買っていました。ビールのおつまみにとっても美味しい!のです。特にお気に入りはコオロギの炒めです。トウガラシやこぶミカンの葉などのハーブと一緒に調理し、ナンプラーをスプレーして胡椒をかけて食べます。濃厚な川エビのような風味でとてもおつまみとして優秀です。

また希少なケースですが、雌の子持ちコオロギを食べる機会があったのですが、とんでもなく美味しかったです。なるほど養殖の段階で収穫のタイミングを図り、選別することで、より付加価値の高い商品になるということを知ることができました。

 タイ政府は2017年に世界に先駆けて、コオロギ養殖の飼育基準「GAP ( Good Agricultural Practice )」を制定しました。これはGAP基準を満たした安全なコオロギ製品を、グローバルスケールで生産することを目的としてします。

これを皮切りにタイには欧州から多くのコオロギバイヤーが訪問しています。そして、先にも説明した通り、EUがコオロギを新規食品としての承認が続きました。これによってコオロギ食品の輸出入産業のキャッチボールが成立することになります。まだ大きな取引は行われていませんが、今後タイは欧州への一大コオロギ産出国になる可能性があります。

 ■ 昆虫食のこれから
昆虫食を感情的に好き嫌いで見ていると、世界が目指している文脈が全く理解できなくなってしまいます。ここは冷静に昆虫食を捉えなおし、未来の可能性について考えてみましょう。

昆虫からのタンパク質は必須アミノ酸が豊富に含まれていることから、生産コストの高い畜産肉製品と栄養面で匹敵します。さらに生産コストが畜産製品に比べて(圧倒的に)低くなる可能性が期待されています。

そこで、このプロダクトの最適なマーケットはどこか?を冷静に見極めることが重要だと言えます。日本人の食卓は、そういう意味では全く可能性がありません。(小学校の給食で出した先生方も、将来、家庭でも食べてねというメッセージではなく、地球環境を考えることのできる切っ掛けを身近な給食で伝えたかったのだと感じています。)

それよりも、今後人口増加が予測される開発途上地域、もともとも昆虫食文化がある地域、エネルギーやインフラが充分でない地域、高機能タンパク質を必要とするスポーツやボディビルディング業界など、可能性を秘めた世界はとてつもなく広いと考えられます。

また、効率的なコオロギ飼育技術によって低価格化した高機能プロテインであれば、貧困地域でも安価に安定的に栄養を供給することもできます。また、これは今後ゆっくり解説する機会を設けますが、宇宙開発において近い将来、地産地消型の食料生産の時代が到来すると思われますが、その時のコオロギ養殖のポテンシャルは高いと予想しています。

さぁ、ここまで来ると、みなさんも「昆虫食」の悪いイメージだけでなく、良いところやその可能性についてポジティブになれたと思います。宇宙船地球号の乗組員として、世界の食糧事情をざっくりと俯瞰できたのではないでしょうか?

さて、次回はこの昆虫食に関するプロジェクトのお話になります!お楽しみに!

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