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デザインサイエンス(05: 環境)「13_EARTH PROTEIN・タンパク質循環社会の見方_2」

このデザインサイエンスは、デザインを学ぶ学生たちに広い知識と広い視野を持ってもらうために開講したシリーズものです。詳しくは(00: イントロ)を参照ください。
 
本講義は「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、学生たちから特にリアクションの良かったトピックをランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!
 
今回は「環境」です。

 前回は、「タンパク質循環社会」という構想を理解するため、タンパク質についての基本的な知識や有機分解可能な新素材開発の事例などを見てきました。そこから有機分解する新素材の多くは、タンパク質由来のものが多いことも分かりました。特に都市空間で固定化された物質や消費される物質の循環(分解)のスピードを促すことで、環境負荷を抑える試みが背景にありました。

今回はその続きです。「タンパク質循環社会」という構想を分かりやすくするために、その構造を可視化する試みです。以下の流れで解説を進めます。

4:タンパク質循環の可視化(インフォグラフィックス)
5:タンパク質循環社会の未来の可能性

 ではまいりましょう!

 4:タンパク質循環の可視化(インフォグラフィックス)

・ 情報収集・分析に際しての心構え
これまで事例で見てきたような有機分解可能な新素材が、将来広く社会に普及すれば、衣食住のあらゆる領域でタンパク質が大きな循環を始めます。そこで、このEARTH PROTEIN プロジェクトでは、その循環の様子が一目で理解できるようなグラフィックを制作するプロジェクトを立ち上げました。これは「インフォグラフィックス」と呼ばれ、伝わりにくい情報を分かりやすく伝えるツールとして活用されています。

さて、地球規模の「タンパク質循環」を可視化するという挑戦ですが、このようなマクロ情報を扱うことは、実は簡単ではありません。一見、World Bank (世界銀行)や United Nation (国連)などのリサーチ・アーカイブなどで入手可能なように見えますが、残念なことに、自分が知りたいことにぴったりと合致した情報というものは、ほとんどありません。類似したものはありますが、それらは調査対象の範囲が違ったり、また単位も違ったり、データが古かったり、そもそも科学的・学術的根拠が食い違っている説も複数存在します。真面目に調べれば調べるほど、違った情報に出会い、混乱してしまいます。

 このように地球・世界規模でのマクロ・スケールの情報調査を行う際、その情報の信頼性の確認は困難を極めます。しかし最後はいつも開き直って、間違っていても良いので、ある程度自分なりの根拠で導いた数字を信じて、「仮説」としてデザイン作業をとにかく進めることが大切です。

 科学、経済学、社会科学など定量的情報にシビアな専門領域では、いい加減な語りはご法度でしょうが、良い意味でデザインは、信じた仮説に則って、勇気一発で飛び出すことのできる領域でもあります。

「仮説」というものは、人類に大きな方向性(可能性)を提示する羅針盤のようなものです。その仮説がダイナミックであればあるほど、専門分野以外の知見が大量に含まれ、不確かな要素も多く、局所的な間違いが多く存在しているものです。それを恐れずにアイデアを提示することが、人類の未来に資するのであれば、時に勇気をもって間違い、恥をかくことも必要なのです。

そして、専門家から指摘やアドバイスをいただきながら、修正すれば良いという考え方です。このような軌道修正を繰り返しながら大きな目標地点に向かうという手法はまさにデザインサイエンスです。

 ・既存のグラフィック・モデル1(有機物全体)
さて、やっと本題です。まずは、地球上にどれくらいの生物(タンパク質を含んだ有機物)がいるのでしょうか?「重さ(炭素重量)」で集計された資料がありますので、見てみましょう!

図:分類群別の地球規模のバイオマス分布図
( Graphical representation of the global biomass distribution by taxa. / 参照:The biomass distribution on Earth / https://www.researchgate.net/publication/325276009_The_biomass_distribution_on_Earth )

 
もちろん、地球表面を覆っている plants (植物)が圧倒的に多いです。次に bacteria (バクテリア)、そして fungi (菌類)と続きます。我々人類が含まれる動物全部 ( animals ) は全体のわずか0.0036% しか存在していません。

また、animals の内わけを示すB図も面白いです。動物全体の半分は arthropods (節足動物)つまり昆虫などです。人類の重さ(炭素重量)は、地球全体のA図と対比すると、わずか0.0001% ほどです。

単位の「Gt C」は、ギガ・トン・カーボン(炭素)という意味です。1ギガ・トンは、1,000,000,000トン(10億トン)です。

今回のトピックである「タンパク質量」が知りたいというのに、包括的で信頼できる情報が「炭素重量」の情報しか見つけることができませんでした。これは、生物などを炭素量で測ることで地球の気候変動に関連する議論が行いやすくなるため、普及したものです。

この炭素重量から生物の体重を計算すれば、そこからタンパク質量が試算できます。例えば、人体の炭素含有量は体重のおよそ18% で、タンパク質は15~20% の範囲だと言われていますので、ある程度計算で導き出すことができます。

 これは、とてつもなく大きなスケールですので、一旦横に置いておきましょう。地球全体の巨大なスケール感が堪能できる情報として、まずはやんわりと理解しておくくらいで、先に進みましょう。

 ・既存のグラフィック・モデル2(動物界全体)
ここからは、もう少し「人間」や「社会」のスケールにフォーカスしていきます。そこで、まずは動物世界で起こっている食物連鎖や、私たちの食を通してのタンパク質の循環を見ていきましょう。

図左:世界の哺乳類動物のバイオマス分布図 ( the global biomass distribution of the mammalian class, represented by a Voronoi diagram. / 参照:The global biomass of wild mammals / https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2204892120 )
図右:世界の哺乳類バイオマス重量( Research, writing, and design by Mark Belan )

  この図も驚きの連続です。図を参照にテキストの読解は面倒だとは思いますが、ゆっくりと焦らず、時間にゆとりのある時にでも、ゆっくり観察・読解してみてください。

 この図(左)は、地球上に存在する「哺乳類動物」の総重量を可視化したものです。オレンジ色が「人類」、赤色が「家畜(ペット含む)」、緑色が「野生の陸上哺乳類動物」、青色が「野生の海洋哺乳類動物」です。

地球上に存在する全ての哺乳類動物の総重量の 58% (半分以上!) が「Domesticated・家畜(ペット含む)」です。その中でも圧倒的に牛が多いことがわかります。我々はとてつもない量の牛肉と牛乳を消費していることになります。

 次に圧倒している存在は「Humans・人類」です。その総重量は、野生の陸上・海洋哺乳類動物全体 ( Wild terrestrial や Wild marine ) (魚介類は哺乳類ではないので含まれていません)の合計をも圧倒しているのが分かります。自然や海洋風景に圧倒される体験などあると思いますが、その巨大なランドスケープに生息する野生哺乳類動物の総重量は人類の15% 程度しかないのです。余談ですが、その圧倒的な重量を誇る「人類」の半分は都市に住んでおり、世界中の都市の総面積は地表の1%程度のとても狭い範囲です。

 ここでの単位は Mt (ミリオン・トン)ですので、1 Mt は1,000,000 トンになり、つまり1,000,000,000 キログラムです。

図の中の「 Humans = 390 Mt 」 とは、人類の総重量が390,000,000 t (3.9億トン)という意味です。これは平均体重50 kg で、人口約78億人(当時 / その後82億人を突破中)で試算したものとなります。

 また、各自この図の追加資料などを調べてみて欲しいのですが、Domesticated (家畜) に含まれるペットの総重量が、野生の陸上哺乳類動物全部に匹敵するほどの重量になっています。

などなど、細かく読解を進めると驚きの発見の連続です。みなさんも時間のある時に、色々と分析してみてください。

 ・インフォグラフィック解説1(既存循環)
EARTH PROTEIN プロジェクトで着手したグラフィックを、順を追ってみていきましょう。図の中で表されている重量の単位ですが、小さな1コマで100,000 t (10万トン)で表しています。

図:地球上に存在する主な生物のタンパク質の総重量(仮説)

● まず基本モデルとして、一番上に黄色で表されている人類を見ていきましょう。人体の約15~20%がタンパク質でできていると言われています。世界人口が80億人(当時)で、平均体重を50 kg ( 0.05 t )、タンパク質含有量を19.2% で試算すると、人類の身体が保有するタンパク質の総重量は、およそ76,800,000 t としています。

 続く「ライオン」から「馬」までは野生動物界のタンパク質循環の試算です。

そして「豚」から「牛」までは家畜動物としての試算になります。ただ、家畜動物は毎日相当量の屠殺が行われ肉製品として循環しています。そのため地球上に存在する家畜動物の匹数が年間を通して一定していても、出産と屠殺が相当回繰り返され、循環するタンパク質量は膨大なものとなります。ゆえに家畜動物のセクションは肉製品の年間生産量から試算しています。ただ、屠殺後に廃棄する部位にもタンパク質は含まれており、循環するものもおおく含まれます。よってこの数値は今現在、再精査中ですのであまり数字を過信せず、グラフィック全体が表そうとしている「構想」そのものに着眼ください。 

● 次に、野生の哺乳類動物の世界で繰り広げられる食物連鎖に注目し、その際のタンパク質の移動について矢印で表したものです。草食動物の一部が肉食動物に移動している様子です。人間と家畜の創り出す循環に対して、陸上での野生動物の循環の小ささに驚きです。

図:野生の哺乳類動物の食物連鎖の概念図(仮説)

● 次に、家畜動物のタンパク質が人間に食べられることによって移動している図です。全てのタンパク質が人間に向かっていないのは、不可食部位(毛や皮、血液、内臓など)を除いているためです。

図:家畜からヒトへと循環するタンパク質フロー(仮説)

 ● 次に、漁業で得られた魚の一部は人間の食卓にあがり、また家畜の飼料にもなっていることが示されています。

図:漁業で得られた魚のタンパク質が陸上の人間社会に流入するフロー図(仮説)

● 次に、人間が死んだ際に「火葬」されて灰となってしまうもの、「土葬」されて循環するもの、そして「鳥葬」によって循環するものが表されています。

  図:ヒトが葬られる際のタンパク質フロー図(仮説)

● 次に、これまでの全てを合体させたものになります。ここまでは今現在「食」を中心に行われているタンパク質循環のフローになります。

図:人間社会と野生界の、食を中心としたタンパク質フロー図(仮説)

  ・ インフォグラフィック解説2(未来循環・仮説)
下に示した図は、今回最後のグラフィックになります。タイトルは、「2100年頃の未来のタンパク質循環社会のフロー図(仮説)」ということで大きなタンパク質循環が描かれています。この図も現在再精査中で、最新版のリリースを控えていますので、ここでの細かい数値などは訂正箇所が含まれます。繰り返しになりますが、ここで表したいことは、タンパク質のフローが「食」以外の産業分野でも実現した、未来のタンパク質循環図(仮説)ということです。

図:2100年頃の未来のタンパク質循環社会のフロー図(仮説)

「繊維」「セメント」「プラスチック」の産業において、有機分解可能な新素材が普及した時にどのようなダイナミズムが生まれるかをシミュレーションしている様子です。

セメント・コンクリート産業は建築物や道路など、都市構造の強度に関わる分野でもあるため、積極的に見ても10%ほどが限界かもしれません。これは、今後セメント業界や都市計画の専門家などに慎重にヒアリングを進めていきたいテーマでもあります。

それに対し、プラスチックや(化学)繊維産業は、廃棄サイクルが早いため、有機分解素材が活躍できる領域はとても大きいと感じています。よって積極的に50% で試算しています。

また「 Human 」に白枠が描かれている理由は「社会」という枠組みの設定が必要であったためです。個人のヒトとしてではなく、人々が集まった社会やコミュニティのフィールドを表しています。この表現も今後の改訂版で修正を進めています。

 ・ インフォグラフィックスまとめ
ここで紹介したインフォグラフィックスはいずれも1st version です。今後、これら情報の質と量を増やしていき、表現方法(ビジュアル)も調整を行っていきます。様々な専門分野の方々のヒアリングやアドバイスなどを反映させたアップグレードを順次行っていくことが、当面のEARTH PROTEIN プロジェクトの仕事になります。

 5:タンパク質循環社会の未来の可能性
今回、有機分解可能な新素材とその未来社会について考えてきました。

自然に還る素材といえば耳障りがとても良いですが、すなわち劣化が早いということにもなります。世の言論は耳障りの良い方の声が大きくなりますが、実際劣化の早い商品を使った消費者は否定的な感情になると思われます。

長く残ることで価値が出るものも沢山あると思います。例えば多くのプラスチック製のおもちゃは捨てられて来ましたが、奇跡的に残ったものは博物館などで丁寧に保管されています。残ってしまうことの価値もあるのです。

また、有機分解可能だからという理由で大量に消費して良い、という理屈も通りが悪そうです。有機分解するには微生物の存在が必要ですので、その(許容)総量にも天井がありますし、この分解のための環境整備も必要です。さもなければ結局、分解しつくせない物質の山が新たに作られるだけになってしまいます。

そもそもタンパク質を構成するアミノ酸はこの地球上にどれほど存在しているのでしょうか?それらを集約する生産プロセスというものは、結局資源の取り合いになってしまうのかもしれません。

 色々とネガティブな側面を最後に話してしまいましたが、このようなリスクは事前に予測することはとても重要です。そこを乗り越えて新しい可能性をみなさんと一緒に探っていけるといいなと思っています。今後もEARTH PROTEIN (タンパク質循環社会構想)プロジェクトを進めていきますので、見守っていてください。

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