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自分のパンツは自分で洗え〜6、お金を出して、男を買う。⑤


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 東京から戻ってしばらくした後、玲ちゃんから連絡があった。

『久深ちゃん、元気? ちょっと話聞いて!』

 彼女にはいつも突然呼び出されてばかりだ。

  仕事は繁忙期に突入し、定時で上がれることなど滅多にない。メッセージで話を聞くのはだめかと提案したが、やはり顔を合わせて話がしたいらしい。シフトとにらめっこしながら日程を合わせ、貴重な土曜夜に居酒屋に集まった。

「こないだの街コンの後なんだけど、久深ちゃん、誰かと会ったりした?」

「誰にも会ってないよ。広告代理店の人には連絡してみたけど、会う約束もなく終了したし」

 街コンからしばらく時間は空いたが、私はラウンジ会場で出会った広告代理店Bに連絡していた。年下というだけで苦手意識を持っていたが、彼もアキヒロ君と同い年だと思うと、そんなに身構えなくても良いかなと思う。未読無視覚悟でメッセージを送ったが、意外にも返信があった。

 まず自分は、婚活以外で出会う男性が圧倒的に少ない。彼とは婚活など堅苦しいものを忘れ、まずは友達になれたらと思ってメッセージを送った。最初は返事もあったが、結局、長くは続かなかった。

「あたし、あのあとAとBとそれぞれ飲みに行ったんだけどさ」

 おさらいをすると、ラウンジ街コンで出会った広告代理店AとBは二人で参加していた。同じ会社の同僚だという、同い年の31歳。Aは短く切った髪が爽やかなスポーツマン系、Bはパーマをかけた髪が似合う車好きだ。Bは意外と近くに住んでいることもわかり、私と玲ちゃんが出会った居酒屋に興味を持っていた。

「Aと飲みに行こうってなったときに、向こうが店の候補を挙げたんだけどさ。チェーン店の居酒屋ばかりで、大学生かっていう安い店でさ」

「そうなんだ」

「Bに聞いた話だけど、広告代理店ってやっぱりモテるじゃない? だからAもいろんな女の子に手を出してるみたいで、飲み代ケチって安い店ばかりにしてるんだって」

「そうなんだ……」

 食事の段取りから男性を採点する女性は意外と多い。お店選びやエスコート力、お会計のスマートさも見ているのだろうか。婚活で相手に対する条件をゆるゆるにしている私とは真逆の、自分に自信があるが故に妥協しない態度に感心してしまう。

  相談所で出会う男性たちは食事に行くのも慣れていなくて、こちらがリードしなきゃいけない場面も多いのだけど。彼女には結婚相談所のことを話していないので、その話題を出すわけにはいかない。

 せっかく街中で飲んでいるというのに、連日の残業疲れで私はお酒が進まない。食べたものが下痢となって出てくる毎日、静かな雰囲気の店でクラフトビールを少しずつ飲むのがちょうどいい。一方的に話し続ける玲ちゃんにひたすら相槌を打った。

「BもBでさ、あたしと飲みに行ったときに久深ちゃんのこと話してたの。メッセージが来るのはいいけど、年齢とかネガティブな雰囲気を出されるのが嫌だって。あいつ久深ちゃんのこと何にも知らないくせに悪口ばかりでほんと腹立ってさ」

 広告代理店Bにそんなマイナスなメッセージを送っただろうか? たしかに、街コンで話したことの延長のように、30代になると出会いも少なくなるよね、といった話をしたような気もする。

「あんなやつに久深ちゃんが馬鹿にされるの嫌だから、今日はそれを言おうと思って。男にネガティブなメッセージ送るのだめだからね!」

「……そうなんだね」

 婚活を頑張る者同士ではあるあるの、お互いをねぎらう会話のつもりだったのだが。広告代理店Bとは結婚相談所で出会ったわけでもなく、街コンも真剣度が低ければ温度差が違って当然だ。

 ネガティブな物言いをしてしまうのは私の悪い癖だ。それは気をつけねば。

 でもな。

 Bが私の悪口を言っていたとか、別にわざわざ私に言わなくても良くない?

 街コンの出会いなんて、婚活パーティーと同じで連絡先を交換しても次に進むことは少ないだろう。ただ無駄にLINEの友人数を増やして、企業のトーク通知があるたびにどんどん埋もれていくような終わりを迎えるのがほとんどなんだから。

 Bとは今後会うこともメッセージを送ることもない。私の中ではすでに縁の切れた相手なのだが、彼女はまだ、あの日の時間の流れに身を置いているようだ。

「Bは家の方向が一緒だから、帰りはタクシー拾ったんだけどさ。その中でエッチしようって絡んできて本当にうざかったの」

 広告代理店ABについて話すには、あのとき同じ街コン会場にいた私のほうが説明する手間が省けるのだろう。そうなんだ、嫌だったね。適当にリアクションを返しながら、私はアキヒロ君のことを思い出していた。

『まるが街コンで出会った男たちなんてさ、本当に……こんなもんだから』

 あのとき示した指先の狭さ。そんなクソみたいな男たちはごく一部だよ、と、彼はそう言いたかったのだろう。

  アキヒロ君とはその後連絡を取り合っていない。SNSを使えば手軽にメッセージを交わすことができる。けれど私は、彼とのことをひとつの思い出として自分の胸にしまった。

   女性用風俗を利用したことに後悔はない。玲ちゃんの話を聞いても、自分は誰にも相手にされなかったというような、卑屈な気持ちは出ててこない。ソウナンダ、と返す私は相槌を打つだけのロボットだ。

「あのあと、あたし、同じ街コンに参加したんだけどさ。その日の参加者によって当たり外れがあるみたい。あのホストみたいな奴がいた日もあったけど、久深ちゃんと二人で参加した時が一番メンバー悪かったかも」

「ソウナンダネ」

「だから久深ちゃんも、また一緒に行こうよ。そこで出会った女の子たちとも話が合うと思うし」

「ソウナンダ」

 街コンはもうこりごりだ。結婚相談所に登録する男性たちは当然ながら『結婚』という目的を持ち、みな同じ方向を向いて活動している。

  身体目当てのヤリ目野郎と関わる時間がもったいない。街コンに参加することはもうないだろう。

「ねえ、次の店行かない? もうちょっと賑やかなところでさ、あたしの友達呼ぶから。次の店で出会いがあるかもしれないし」

 玲ちゃんはそうやって交友関係を広げるタイプらしいが、パリピ感のある付き合いに私は馴染みがない。彼女とは住む世界が違うんだなと、改めて感じた。

「久深ちゃんの婚活はどう? 良い出会いあった?」

「私は……」

 繁忙期に突入し、家に帰って寝るだけの生活が始まった。本来なら休会手続きをしているところだが、仮交際に進んだ男性がいたためそれをキャンセルするのは惜しい。なにより、休会明けに自分の状況がさらに悪化しているのが目に浮かび、活動を続けざるを得なかった。

「久深ちゃんの条件ってどんな感じ? 学歴とか年収とか身長とか……あたしはやっぱり、自分より背の低い人は嫌だな」

 婚活をする上で、大なり小なり作り出してしまう相手への条件。高身長高学歴年収一千万以上など高望みをしていた人も、活動を続けるうちに現実的なものへと緩和されていくのが結婚相談所の世界だ。

 活動を続けるうちに、私が求めるものも少しずつ変わり始めていた。

「私……相手から大切にされたいな」

 なにそれ、と玲ちゃんが笑う。婚活の条件のはずが、私の答えはあまりにも抽象的すぎた。

 人から大切にされたい。蔑ろにされず、自分のことを、ひとりの人間として尊重してもらいたい。

「相手から大切にされたいし、私も相手のことを大切にしたい」

 大切にされたい。そう、言葉で求めるのは簡単だ。

 けれど、私が一番、自分のことを大切にしていないことにも気づいてしまった。

 恋愛が上手くいかないのも、婚活が上手くいかないもの、心の底で、結局自分はそういう存在なのだと思っているふしがある。

 自分は幸せになれなくて当たり前。惨めに生きていくのがお似合いの人生。

 なぜだろう、幸せになりたくて婚活をしているというのに、心の奥底に沈む澱がそう言っている。

 私は幸せになれない。

 でも、相手に大切にされたい。

 自分ですら大切にできていない、私という人間を、誰が大切にしてくれるというのだろう。

 歴代の恋人に蔑ろにされるのを、そういうものだと諦めている自分がいた。自分を大切にできない、その心の空虚が、恋人たちの悪癖に見て見ぬ振りをさせていたのだろう。

 大切にされるのを求めるのではなく、まず、自分が自分を大切にしなければならない。



 どうしたら、自分を大切にすることができるのだろう。

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