自分のパンツは自分で洗え〜8、婚活で運命とか言われても③
婚活といえば定番であるはずの婚活パーティーが、コロナ禍を期に様相を変えていた。
回転寿司よろしく男性が椅子を移動する大人数型から、一対一でじっくり話せる少人数型に変わっていたのは知っている。新型コロナウイルスの飛沫感染を防ぐため、対面で話すパーティーが下火になり、そのかわりマッチングアプリの利用率が上がったと聞いていた。
札幌市で開催される婚活情報を調べると、週末を中心に様々な会社でパーティーが企画されていた。飛沫感染を避けるためにオンライン開催もあるようだが、今回は会場に足を運ばなければならない。年齢層やテーマによって様々な会が開かれ、パーティー初心者の山川さんはどれが良いか悩みながら申し込んだのはワイン好きの会だった。
ブラウスを買いに早めに家を出る寸前。スマートフォンに一通のメールが届いていた。
『ワイン好き婚活パーティー開催中止について』
出た、当日中止。コロナ禍になってから、人数が集まらず土壇場で中止になることが増えたのだ。
続いて主催側から電話連絡があった。ひとり参加ならまたの機会をと流すところだが、今回は山川さんを連れて行くというミッションがある。中止になるならもっと早く連絡すべきではないかと、電話越しに苦言を呈す私に担当の男性が言った。
『ワイン好きのパーティーは中止になったんですが、本日開催予定の映画好き会はまだ空きがあるんです。よろしければそちらの参加はいかがでしょうか?』
ワイン好きは口下手な山川さんが話しやすいよう選んだテーマだ。急遽映画に変わってもついていけるものだろうか。彼女にLINEで確認すると、思いのほか食い気味に『そのパーティーで良いです』と返事があり、予定を変更してそちらに参加することになったのだった。
当日開催可能とアナウンスがあった映画好き婚活パーティーだが、いざ会場に足を運ぶと開催人数は男女とも4名の極少数だった。
私たちが参加しなければこのパーティーも中止になったのでは? 訝しむ気持ちを隠し、私は山川さんと受付を済ます。大通にあるパーティールームを使った婚活パーティーは、飛沫感染対策のためにひとつずつテーブルが離され、まるでカフェのボックス席のようになっていた。
「それじゃあ山川さん、男性陣とお話しするの頑張ってね」
「わかりました」
パーティーで定められている年齢は22歳~35歳まで。参加者も若者が多いだろうと、私は早々に出会いを諦めていた。配布されたプロフィールシートに年齢や居住地、年収などを細かく記入する。受付で身分証明書を提示し本人確認をしたが、パーティーの席では嘘をついてもバレないだろうなと思った。
時間になり、全員が揃ったところでパーティーが始まる。映画好きパーティーの流れは、最初に各5分のトークタイムを設けていた。時間が来ると男性が次のテーブルに移動する回転寿司スタイルは変わらないが、独立した席のおかげで他の参加者の会話が聞こえることはない。
「はじめまして、Aです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
最初にテーブルに着いたのは20代の男性だった。
職業欄に『医療従事者』とあり、年齢の割に年収が高い。これは国家資格持ちだろうと「薬剤師ですか?」と質問すると、彼は「そんなところです」と言葉を濁した。
医療関係であれば会話に困ることはない。コロナ禍でお互い大変なこと、今まで自分が携わった仕事の内容について。私が訪問診療の話題を口にすると、Aさんの表情が変わった。
「その職種で訪問診療がわかるんですか?」
「田舎にいたときに、車がなくて受診が難しい患者さんの家に行ったことがあるので……もちろん、資格がないのでできることは限られましたけど」
札幌に来る前の話だ。しかし、今の会社に転職してからもなにかと訪問診療についての話を聞く。少子高齢社会が進み、これからの時代は介護や在宅診療の需要が増えていくことだろう。
コロナ禍で婚活から遠ざかっていたが、すこしずつ会話の勘が戻っていく。Aさんと往診の話について盛り上がったところで、5分のトークタイムが終わった。
次いで席に座るのはBさん。年齢は私と同じ33歳。自衛官という職業と、居住地に目が留まる。
「……道北、ですか?」
ここから車で5時間以上かかる町だ。まさかこのパーティーのためにわざわざ札幌に来たのか、質問する私に彼は首を横に振った。
「地元がこっちなので、GWに帰省したんです。せっかくだし婚活して帰ろうと思って」
札幌近郊の人々がパーティーに参加することは知っていたが、遠方組が訪れるなど大型連休らしいなと思う。
「地元がこっちということは、配属で道北になったんですね。冬の寒さは札幌より厳しそうですね」
「まったくですよ。だからずっと、異動したいって言ってるんですけど」
細身の身体は日々鍛えているからだろうか。しかし、初手から仕事の愚痴とは彼も肝が据わっている。
「田舎すぎて出会いもないから、こうやって休みに札幌に出てくるしかなくて。地元の同期は日帰り圏内に配属されたのに、なんで俺だけ……」
親しくなってからならともかく、初対面の人に仕事の愚痴を言うのはな……ましてや片道5時間の遠距離は大変そうだ。同い年で話題には困らないが、その大半が仕事の愚痴は聞いていて疲れてしまう。
私は心の中で、無し、と呟く。
婚活パーティーでは会話用のメモが配られ、相手の職業などを書き残すことができる。人数が増えれば増えるほど、誰と話したかわからなくなってしまいがちだ。加えてこのパーティーでは、カップリングせずともお互い連絡先を交換できるルールがあった。
3人目のCさんもまた、居住地が札幌ではなかった。ここまで遠方の人が集まる会も珍しい。はたして山川さんは遠距離恋愛ができる人なのだろうか、私の席から彼女の様子をうかがい知ることはできず、心配しているうちに4人目のDさんの時間になった。
このDさんこそが、婚活パーティー後もやりとりが続く男性になる。
