自分のパンツは自分で洗え〜8、婚活で運命とか言われても④
Dさんのプロフィールは33歳、同い年。職業欄を確認し、私は「ん?」と声をあげる。
「もしかして、Bさんの同期ですか?」
「そうなんです。GWで札幌に集まったので、ふたりで婚活しに行こうって話になって」
Dさんもまた自衛官だった。しかし、Bさんと違う駐屯地にいるため、滅多に会うことはできないらしい。Dさんの駐屯地は車で片道2時間も日帰り圏内だ。Bさんのぼやきが脳内で蘇る。
しかし、Dさんはずいぶんと体格が良い。Bさんはスポーツマンらしい細身さだが、Dさんの身体は筋肉で大きいのだろうか? コロナ禍の婚活パーティーでは素顔を見ることができるのは挨拶をしたときの一瞬のみ、着席スタイルでは全体的な印象がつかめない。
雑談をしながら、ふと私は自衛隊に入隊した従兄弟のことを思い出した。
「そういえば、ふたつ上の従兄弟が○○駐屯地にいたような……」
「親戚に自衛官がいるんですね?」
「私の地元にも自衛隊の駐屯地があったので、子どもの頃はひとつの町に必ず自衛隊があると思っていたんですよ」
年相応の落ち着きを持つDさんとは、穏やかに話が進んだ。パーティーのテーマが映画だったため、その話題を振ってみたが、彼は困ったように眉を下げる。
「僕たち、映画好きで参加したわけじゃないんです。たまたま開催されたパーティーがこれだっただけで……」
他の参加者も口を揃えてそう言っていた。会話のために好きな映画ベスト3を用意していただけに、なんとも拍子抜けだ。Dさんも映画は観るが、どちらかというとアニメが好きらしい。
「……アニメ化した漫画なら、私がハマっているのはゴールデンカムイですね」
「ゴールデンカムイ、僕もアニメ見てます!」
当時、ゴールデンカムイは本誌で完結したばかりだ。アニメ放送はどこまで物語が進んでいるのか、訊ねると金塊の手がかりはまだ見つかっていないらしい。
ネタバレにならないよう、慎重に会話を進める。Dさんもアニメを機に原作を読み始めたらしいが、話の進み具合はアニメ放送とどっこいどっこいのようだ。
「私、4月のGW前半に母とウポポイに行ってきたばかりなんです。アイヌ民族の服の展示は他でも見たことがあるけど、チセとか囲炉裏の様子とか、ゴールデンカムイに出てくる世界そのままで」
「ゴールデンカムイは綿密に取材されてますもんね。ウポポイ行ったの羨ましいです」
彼とは後半のトークタイムでもその話題で盛り上がったが、婚活パーティーが終わったときにカップリングすることはなかった。
他の参加者でひと組成立したらしいが、それも山川さんではないらしい。会場を出る際、スタッフから封筒を渡される人がいる。彼女がそれを開けると、男性陣の連絡先が書かれたメモが入っていた。
カップリングは第一希望から第三希望までを記入するが、お互い名前を書いていたにも関わらずすれ違ってしまう場合も多い。連絡先を渡せるルールはカップリングから漏れた同士を結び、敗者復活戦のように自主的な機会を設けることができるのだった。
とはいえ、連絡先を渡したからといって相手から返事が来るとは限らない。山川さんは封筒に連絡先が入っていたらしく、それはAさんのものだった。
「Aさん、医療関係の人だったもんね。山川さんと話が合ったんじゃない?」
ちなみに私もAさんとは直に連絡先を交換していた。トークタイムで最初に当たったため、彼も唾をつけておきたかったのかもしれない。山川さんとのAさんの印象を共有していると、彼女には正しい職業を教えられていた。やはり国家資格持ちだった。
「はじめての婚活パーティーはどうだった?」
「いろんな人に『緊張してる?』って心配されました」
「最初は緊張してなにを喋ったらいいかわからないよね」
「……いや、興味を持てない人とは会話をする気になれなくて」
そういうとこだぞ。指摘しようと思ったが、同僚という身近な存在だからこそ、彼女には何を言っても響かないことを知っている。
夕方に始まった婚活パーティーは、カップリングした者同士がその後お茶に行けるよう早めに終了する。山川さんとふたりで晩ご飯を食べて帰ることもできたが、彼女は翌朝から旅行の予定が荷造りをしなければならないらしい。
「じゃあ、また一緒に婚活パーティー行こうね」
「…………」
本当に、好き嫌いのはっきりしている子だ。GW楽しんでね、と大通駅で解散した。
私はGW前半に家族旅行をしていたため、後半は帰省の予定もない。医療機関の月初は忙しく、一日だけ休日出勤をする予定だ。それ以外は6月末〆切の新人賞に向けて原稿に集中すると決めていた。
配属先の部署は3月下旬から6月末まで繁忙期だ。帰宅が21時、22時の生活が続くため、執筆の時間をとれるGWは何より貴重だった。33歳の誕生日、函館で瀧さんと決別した後にロケハン巡りをしていたが、その記憶が薄れる前に書き切ってしまいたい。
とはいえ連休初日くらいのんびりしてもいいだろう。帰宅後、冷蔵庫にストックしていた缶ビールを開けると、LINEに見知らぬ人からの通知があった。
『今日はありがとうございました。連絡先が入っていてとても驚きました、どうぞよろしくお願いします』
それはDさんからだった。袖振り合うも多生の縁と、私は彼に宛てて連絡先のメモを書いていたのだ。Dさんは他の女性とカップリングしていたため、まさか連絡が来るとは思わなかった。
パーティーが終わった後、カップリング相手とのお茶が終わったとしてもずいぶん時間が早い。不思議に思いながらも、私は連絡ありがとうの返事を送った。
『GW後半は友人と旅行で終わってしまうのですが、翌週もまた実家に帰省する用事があるんです。その時に一度お会いできませんか?』
Dさんは札幌から片道2時間の距離に住んでいる。北海道の感覚なら許容圏内の近さだ。
さくさくと日取りが決まり、私たちは翌週の日曜に札幌でランチをすることになったのだった。
