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流離の冒険者 ♯26 宴 【連載小説】(ファンタジー小説)

【あらすじ】

サティアさんから向けられた、あの視線が印象に残っていた。
将の間で見せた、ヒルデさんの姿。
わたしには、いったいどちらが本当なのか、わからなくなりそうだった。

食事を済ませた後、ヒルデさんに気を失ったサティアさんを任せ、行くべき場所を目指し、歩いていた。

流離の冒険者 ♯26 宴【あらすじ】

ヒルデさんに教えられた場所は、王城に近いとある兵舎だった。

騎士としてどこに辿り着けばいいのか考えていると、入る前から、熱気が伝わってきた。

ーーカン!カン!バシッ!カン!‥‥‥

「えい!おらぁ!ふん!」

様々な木の武器を振るう音が聞こえてくる。
重い扉を開けた先に、いくつもの激しい戦いが始まっていた。

ただの騎士とはどこか違う、あのサティアさんと同じような雰囲気がある。

全部で五十人くらいだろうか、端の方で戦いの様子を見ていると、わたしに気づいた男の騎士が近寄ってくる。

「ん?少年、ここに何の用だ?」

「あの、ヒルデ将軍から、ここに行くようにと」

「ヒルデ将軍が?それはまことか」

ーーしーん‥‥‥

ヒルデ将軍という言葉を聞いて、皆の動きが一斉に止まり、視線が一斉にこちらを向けられる。

「新しく騎士になる、エール・ルクスです。よろしくお願いします」

奥の方から、また一人やってきて、わたしの顔を見ている。

「誰か、近々、新人が来ると聞いている者はいるか!?」

誰も知らない様子で、わたしも困惑する。

「ここに、いきなり来るような人物はきいていないからな」

わたしには、騎士の中でも選ばれた近衛騎士の集まりのようにも見える。

そう考えれば、この強さを肌で感じることも納得できる。

わたしは、この中で訓練をこれからしていくのかと思うと、ついていけるのか不安になってきた。

同じ雰囲気というと‥‥‥

「あの、サティアさん。サティア・イデリアさんも、近衛騎士なのですか?」

「サティアに会ったのか」

「はい、今日初めてですけど、午前中に会っていまして、今はヒルデ将軍と一緒かと思います」

「そうか‥‥‥サティアとヒルデ将軍が。確かに、いつもは誰よりも早くここにいるのだが‥‥‥今日は珍しくいないな。うむ、わかった」

納得した様子から、サティアさんの存在も大きいのだと伝わる。

「それで、何か言われていないのか?」

「えっと、新人として雑用をしながら、戦いを見ておけと」

二人の騎士が顔を合わせて、うなづいていた。

「なるほど、ヒルデ将軍らしいな」

わたしは、この後訓練場の端っこで戦う姿を見ながら、水とタオルを持って走り回る。

ヒルデさんも言っていたように、わたしの水はおいしいみたいだ。

そうして、少し打ち解けてきたときに、あの重い扉の方から何かを感じていた。

ーー‥‥‥バーン!!!

「!?」

一斉に扉の方に目が向き、その人影から、誰なのか一瞬で察する。

わたし以外の全員がその方に走っていき、膝をついて騎士となっていた。

「ここに来るのも、いつぶりか‥‥‥」

「‥‥‥」

誰も何も言わず、ただ静かに下を向いているこの静寂の中、わたしもその方に向かう。

「エール・ルクス、わたしの横に来い」

皆が少し反応している中、わたしはヒルデさんの横に辿り着くと、感じたことのない緊張感の中、ヒルデさんがそっと口を開く。

「レンジャー、だけは‥‥‥ゴメン、ジャー」

ーーカタカタカタカタ‥‥‥

皆が一斉に震えだす様子を見て、わたしもだんだん怖くなる。

「わたしはこの言葉が、この世で、最も、気に入らない。我々をコケにされているようで、不愉快極まりない」

ヒルデさんの、本当の気持ちを聞いて、わたしも、心の中で少し思っていた、あの時を思うと背筋が凍る。

しかし、ヒルデさんはともかく、我々というのは‥‥‥

「だが、その呪いも、今日で終わる。すまなかったな」

誰も何も言えない空気が漂う。

ーーダッダッダッ!

「はぁ、はぁ‥‥‥ヒルデ隊長!」

「サティア、無理をするな。楽に休め」

サティアさんが、息を荒げながら、ゆっくりと近づいてくる。

こけそうになりながらも、必死になって歩みをやめない。

目の前にいる騎士達に、冷たくも暖かい視線が向けられていた。

「エール・ルクス‥‥‥ゴメンジャー、というのは」

「申し訳ありません!!!」

これ以上は言わせたくないような、男の騎士の声が隊列のどこからか飛んできた。

わたしも、心の中で少し思っていたけど、この言葉だけは言えない。
今この瞬間、誰よりも勇敢だったと感じる。

「諸君、顔をあげよ」

ーーザッ!バッ!

「そのような、我々にとって不名誉な言葉が、この世界に出来てしまったのは、わたしのせいでもある。わたしも心の中で、ほんの少し思っていた‥‥‥」

皆がどこか己を恥じるような、申し訳なさそうな表情をしていた。

「エール。この者たちは、かつて、きみと同じく、レンジャーに憧れた、少年・少女だ」

ヒルデさんは、謎の非公式組織の話をしてくれた。

ヒルデさんが、活躍していた時代。
かつて、多くの者がレンジャー、ヒルデ・バレットに憧れ、訪ねてきた。
だが、現実的にレンジャーは、常に危険の最前線。

簡単になれるものではなく、簡単になってしまった場合の方が危険でもある。

そういった現実的な厳しさから、ヒルデさんは厳しい課題をずっと提示し、簡単に誰も通さなければ、簡単に誰も失うことにならないと思うようになっていく。

それは、今でも変わらない。

届かない者に、別の道を進めることも多々あり、ヒルデさんに受けた恩もあるからと、簡単に捨てられない者も、これまでいくつも見てきたという。

それもあり、レンジャーではなく、騎士として生きる道を、己が誰よりも見せるようになっていったと。

そんな中、覚悟を決めた者達は、皆、口をそろえ、悔しそうにレンジャー、ヒルデ・バレットの元を去っていった。


御免、と。


ある時から、この言葉が誤認され、今のような使われ方をしてしまう。

それでも、レンジャーを目指すような人物は、騎士の中でも優秀なものがそろってきたのも事実。

将もレンジャーも、両方捨てられない。

今日ここに居る者も、別の訓練を終えた後、自主的に集まった者だけが、そろっていた。

同じ志があれば、誰でも参加できるが、どこか大事なものまで離れている空気があると打ち明けていた。

ここにいる者達でも、心のどこかでそう思っていたのかもしれない。
自分も、そちら側に行く日が、来るのではないかと。

厳しいルールを設けたが故に出来てしまった、このゆがみを、ヒルデさんも後悔しているということだった。

ヒルデさんは、この場に居る、ひとりひとりを見渡していた。

「古の宝物庫は、この少年によって、初めて攻略された。わたしを除いて」

「!?」

ーー‥‥‥

「エール、どうやって攻略したか、皆に教えてやれ」

「えっと‥‥‥上手く説明できるか」

「構わん、ここに居る者は、皆、仲間だ」

わたしは、レンジャー体験から、あの宝物庫に住み込むような生活をして攻略した記憶を、ただゆっくりと語っていく。

途中、ヒルデさんが、いつものように、膝を立てて座ると、皆に崩して座るように指示していた。

目の前にいる騎士たちや、サティアさん、そしてヒルデさんも皆楽しそうにわたしの話を聞いてくれた。

「フッ‥‥‥誠に、大義であった」

「ハッハッハッー」

「フフフ‥‥‥くすん」

皆から笑みがこぼれ、なぜだかわからないけれども、泣いている人もいる。

その後の、スライム剣士の話で、さらに盛り上がる。
あのフルアーマープレートは、今も手入れを欠かさず、家に飾っていると伝えると、大きな笑いが起こった。

でも、ヒルデさんとの旅の話の時だけ、少し皆の顔が違った。

「ヒルデ隊長!ズルいです!わたしも一緒に行きたいです!」

「俺も!行きたいですよ!」

「わたしも!お願いします!」

サティアさんが、先陣を切って発言し、すでに、元気を取り戻していたようだった。

ヒルデさんの視線が、わたしの手元に向けられ、やさしく腕をつかまれる。

「フッ‥‥‥わたしの許可なく、訓練中に、水を飲んだ者は誰か‥‥‥鍛えなおす必要があるようだ」

「自分であります!」

ひとりの名も知らない騎士が勢いよく立ち上がる。

「わたしも!いただきました!」

「えっと‥‥‥美味しかったです!」

ひとり、またひとりと立ち上がり、飲んでいない人も含め、ひとつになっていく。

ただ、ひとりを除いて‥‥‥

「えっと、ヒルデ隊長‥‥‥わたしも‥‥‥」

「何を言っている、サチが飲んだのは、ハーブティーだろ?」

「そうでした‥‥‥すみません」

やさしい嘘で、皆から笑みがこぼれ、最後に、ヒルデ隊長が立ち上がる。

「エール。きみはこの姿を、目に焼き付けておけ」

わたしは、ただ見るように指示される。

「わたしがいない間、諸君らが磨いてきたものを、全てぶつけてこい」

皆が一斉に散っていき、自身の武具を取りに行く。
ある者は剣を、ある者は槍、ふたつの剣、何も持たず構えている者も‥‥‥

「五十余人対一人か、これは、少々不利だな‥‥‥きみたちが」

ーーギギギ‥‥‥ふぅー‥‥‥

「最後に手合わせをしたのは、いったいいつだったか‥‥‥おい!もちろん、強くなっているんだろな!?」

「もちろんであります!!!」

扉の方から、聞いたことのある、もう一人のヒーロー声が大きく響き、わたしに近づいてくる。

ヒルデさんが直接の訓練をしなくなってから、ガルド兵士長がこっそり指導をしてきたと教えてもらい、隣でともに見届けようという熱い想いが出ていた。

「期待の新人が、見ている‥‥‥無様な姿は、魅せられない。そうなんだろ?‥‥‥サチ」

ーーシューッ‥‥‥カチッ!

部隊の先頭に、細く鋭い刃を向けたサティアさんが立っていた。
今日初めて見る、迷いのない瞳に、目が離せない。

ずっと、この日を待っていたと、ここに居る皆がひとつになっていた。

「遠慮はいらん。この中で、わたしに傷をつけられる者など、ただのひとりもおらん」

ーー‥‥‥

「ヒルデ隊長!!いきます!!!」

皆、真剣にぶつかることが楽しそうにも見えた。

それでも、レンジャー、ヒルデ・バレットには、誰も届かなかった。

ボロボロになった後、盛大にわたしの歓迎会が開かれた。

新しい仲間たちとの話に、ワクワクしてしまったわたしは、ここに来る前よりもずっと‥‥‥


どこに行けばいいのか、わからなくなっていた。


ーーつづく。


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