風車 シロクマ文芸部
風が吹くと消えてしまった火。火は煙となり上へ上へと昇って行って空に溶けた。
ひとつ、たったひとつの風を待っている。ロウソク一本を消すくらいの風で良い。そんな風ですら吹いてくれさえすれば連鎖的に世界は変わる。
そう確信し僕は今日も椅子に腰掛けて日を浴びている。お決まりの、うとうと、が襲ってきて夢の中に潜り込んでいく。
ピンポーン、ピンポーン
夢から飛び起き、慌ててインターフォンの画面を覗くと、そこには知らない女の人が立っていた。いつもなら居留守を使って対応しないのだが、今日はまだ頭がぼんやりしていたこともあって通話ボタンを押してしまった。インターフォンから声が響く。
「あれ?305号室じゃないですか?」
「違います。ここは205号室です」
「そうでしたか!すいません!間違えました」
ただの間違いだった。その人のハキハキと話す声が耳に響いている。
そうだ、せっかく冷蔵庫の近くまで来たから何か飲もう。そう思って冷蔵庫にあった林檎ジュースを飲んだ。青森県産のりんご果汁100%のこのジュースはりんごの美味しい部分だけを凝縮してるみたいに濃厚なのに後味は爽やかで爽快だった。
なんだか気分が良くなった僕は久しぶりにこのジュースについて教えてくれた那月と話がしたくなって電話をかけた。
3コール目で繋がった。那月は相変わらず忙しそうだ。何かあったのかを僕に尋ねてきた。
「今、この前教えてくれたジュース飲んだんだけど、あれやっぱり美味しいね」
なんだそんなことか、と那月は笑った。
「あっ、そういえばこの前のプレゼントありがとね、うちの子が気に入っちゃって」
一瞬なんのことか分からなかったけど、すぐに思い出した。この前旅先で見つけた風車。風車の色合いが緑と黄色できっと那月家に馴染むなって思って渡したんだった。
「もう風が吹くたびに笑ってんの、風車が回ることの何がそんなに面白いんだかってくらい笑ってんの」
喜んでくれたら良いなとは思って渡したけど、そこまで喜んでくれているだなんて知れて心が温かくなるのを感じた。
「この子の笑顔見てたらさ、自然と私も笑えてくんの。そして、私、幸せだわって実感するの」
電話越しだが那月が笑顔になっているのが伝わってきた。そしたら僕も微笑んでいた。
風が吹くと回る風車。それを見てきゃっきゃっと笑う友の子。その笑み、上へ上へと昇って行って空に溶けた。
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