EXPO2025 大阪・関西万博 |「離れていても一緒だよ」時空を超える未来はすぐそこに
開幕から4ヶ月以上経った大阪・関西万博だが、足を運んだのは雨の日の一度きり。まだまだ見たいパビリオンがいくつもある。なかでも通信技術の未来を見せてくれるNTTパビリオンは是非とも見たいと思っている。
(*トップ画像はイギリス館の前にある赤い電話ボックス)
万博公式サイトのNTTパビリオンのページに載っているキャッチフレーズは、『Pararell travel 時空を旅するパビリオン次世代情報通信基盤「IOWN」による空間伝送技術で、離れた場所と空間そのものを繋ぎます』である。

大阪・関西万博の開幕日には、吹田市の万博記念公園(1970年の大阪万博会場跡地)に特設したステージで音楽ユニット、Perfumeのライブパフォーマンスが行われた。そしてそのライブパフォーマンスは時と場所の隔たりを軽々と飛び越えて、夢洲で開催中の大阪・関西万博のNTTパビリオンに伝送された。
その時NTTパビリオンを訪れていた観客はまるで目の前でPerfumeの3人が歌い踊っているかのように3次元の映像を見たことだろう。歌やダンスを目の前で見ることができるだけでなく、Perfumeの3人が万博記念公園の特設ステージを踏み鳴らした振動までも体感できたという。つくづく、その場に居合わせたかったと思わずにいられない。
このパフォーマンスを可能にしたのが、NTTが開発中の次世代情報通信基盤IOWN(Innovative Optical and Wiewless Network)、通称「アイオン」[1]と呼ばれる空間伝送技術である。
IOWNとは「最先端の光技術を使って、豊かな社会を創るための構想」[2]とされているが、いったいどんな技術なのか?
IOWNの光技術と、いま私たちが家庭用のインターネットサービスで利用している光通信とは何が違うのだろうか?
現在、私たちが恩恵をこうむっている通信技術はユーザー端末同士を直接繋いでいるのではなく、交換装置を介して信号を変換している。交換装置同士を繋ぐルートではすでに光通信が導入されている。しかし、交換装置からユーザー端末への通信は電気信号が金属線を介して伝達される電気通信である。
電気通信には金属線内の電気抵抗によりエネルギーをロスするという弱点がある。失われたエネルギーは熱エネルギーとして放散され、冷却するための電力消費が必要となる。また、電気抵抗のために電子の流れが減弱し情報の伝達距離が短かくなったり、遅延が生じたりしてしまうのも課題である。
そのような弱点を克服する技術として、光信号が光ファイバーを介して情報を伝送する光通信に期待が寄せられている。光通信は高純度の石英ガラスでできたグラスファイバーを介しておこなわれる。情報はフォトン(光子)という質量のない物質に変換されて伝達される。そのため抵抗はほぼゼロと考えられ、省エネルギーで長距離の通信が可能となる。
現在、家庭内に普及しているインターネットサービスにも光通信が使われている。この技術を応用・改良して、省エネルギー・低遅延・大容量の情報伝達を実現する光技術がIOWNであると理解した。

1890年(明治23年)に日本で初めて電話が開通した。東京〜横浜間でサービスが始まった12月16日は「電話創業の日」と制定されている。
現在のように発信者と受信者が瞬時につながるわけではなく、電話交換手と呼ばれる人の手を介して通信が接続されていた。手間や時間もかかるし、何より電話機も通信料金も高額であったため一般家庭にはまだ手の届きにくいものだった。固定電話の加入者数が急増するのは昭和の半ばを過ぎた頃、1960年代後半から1970年代になってからのこと。
1970年といえば大阪府吹田市の、現在は万博記念公園となっている場所で大阪万博(Expo’70)が開催された年である。日本電信電話公社と国際電信電話株式会社が出展した「電気通信館」では、テレビ電話やワイヤレステレホン(携帯無線電話機)が未来の通信手段として展示されていた。ちなみに、日本電信電話公社はNTTの前身である。
筆者が子供の頃、地元の市民文化センターの科学展示室にテレビ電話のデモンストレーション機があったのを覚えている。通信は不安定で音声も画像も不鮮明だった。それでも、離れた場所にいる友達の顔が目の前の画面に映し出されるとワクワクした。そんなワクワク体験のために自転車を走らせて何度も訪れたものだった。
1990年代に入るとインターネットは一般家庭に広まり始めた。当時は便利になったものだと思っていたが、今になって思えば通信速度は今とは比べ物にならないほど遅かったことに改めて驚く。
2010年を迎える頃にはスマートフォンが急速に普及し、電話はもはや音声を伝達するための手段ではなくなり始めた。どこにいても相手とつながり、顔を見ながら会話ができる。1970年に描いていた夢の技術、ワイヤレステレホン(携帯無線電話機)もテレビ電話も今では夢を大きく超えて現実のものとなっている。

通信の利便性は時代を追ってではなく、年々上がってきた。通信速度が増し、扱えるデータ容量が大きくなることを当たり前のように享受し、「どんどん便利になるなあ」と呑気に思っていた。その裏には、技術者たちの描く高い目標があり、あまたの知恵や労力が費やされてきたことを思い遣ることもなく。
IOWN構想が見据える未来は2030年だという。
もはや未来とも言いがたく、社会インフラの大きな変革は秒読み段階に入っている
ピアニスト、藤田真央の著書のなかに、いつもコンパクトディスク(CD)の音源で聞いていたロシアの巨匠の演奏を高校生の時にはじめて生で聴いて、CD音源では分からなかった深みを感じて衝撃を受けたという意味のくだりがある。IOWNを以てすれば、お金と時間に制約のある若き才能が巨匠の演奏を目前にし、息づかいまでも感じ取ることができるようになるのだろう。
遠くに住む友人を訪ねる機会がないまま何年も過ごしている人も少なくないいはずだ。まるで同じ部屋で向き合っているかのように話ができたなら「離れていても一緒だよ」という言葉が感情を差し向けるものではなく、現実となる日も近いかもしれない。
社会インフラの大きな変革は、やがて私たち一人ひとりの生活に浸透していく。遠くの友人と向かい合って談笑しながら、夢見た未来が現実になっていくことを実感する日が近づいている。
【参考・引用】
[1]https://www.rd.ntt/research/JN202508_35380.html
[2]https://group.ntt/jp/group/iown/whats.html
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