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EXPO2025 大阪・関西万博|カスタムメイドの心臓がいのちを支える未来

大阪・関西万博に行こうと思ったのは、どうしてもこの目で見たいものがあったから。 

それはiPS心臓。

2006年、京都大学の山中伸弥教授らの手によりiPS細胞がこの世に誕生した。iPS細胞とは自分の体から採った細胞をなんの役割も持たない状態に戻したのちに、新しい役割を与えた細胞である。

iPS細胞の誕生により、傷んだり弱ったりした臓器や組織を修復・サポートする再生医療の研究は勢いを増した。

2025年、大阪・関西万博 の民間パビリオンのひとつ、PASONANATUREVERSE(パソナネイチャーバース)ではiPS細胞で作られた心筋細胞シートの技術を応用したiPS心臓が展示されると開幕前から何度となく耳にしていた。

この心筋細胞シートの開発を牽引したのは、その研究分野において先陣を切る大阪大学の澤芳樹特任教授である。

https://www.pasonagroup.co.jp/expo2025/

PASONANATUREVERSE(パソナネイチャーバース)

PASONANATUREVERSE(パソナネイチャーバース)に入館し、いのちの歴史を樹木の成長になぞらえた「生命進化の大樹」や、つやつやと輝くアンモナイトの化石を見ながら進んでいく。iPS心臓はどこにある?と足が早まり、この辺りの展示をじっくり鑑賞しなかったのはもったいなかったと、ちょっと後悔。アンモナイトの化石の一種で、七宝焼のような艶を放つアンモライト(Ammolite)という化石を初めて見て、米津玄師の曲名になりそうなどと思いながら先を急いでいた。

アンモライト(筆者撮影) 

不意に雰囲気の違う展示室が現れた。展示物は何もなく、壁面のスクリーンに映像が映し出されている。

自らのいのちを投げ打って地球を救った鉄腕アトム。傷ついたその体にブラックジャックがiPS心臓を移植し、ネオアトムが誕生する。感動のシーンを見たあとに次の部屋へと足を踏み入れると、照明が落とされた部屋の真ん中あたりに人が集まっている。

人だかりの中央には赤い光をたたえながら、ほんのり輝く円筒形の容器がある。人々が手に手にスマートフォンを掲げて円筒形の容器に向けている光景は、部屋の薄暗さとあいまって何かの儀式のようで神秘的。

筆者も人だかりに加わり、前の人たちの頭を右に左にとよけながら円筒形の容器に目を凝らした。赤い培養液の中には、白っぽくてぼんやりした直径3センチほどのいびつなかたまりが浮いている。

徐々に円筒形の容器に近づいてよく見ると、それは小さな心臓の形をしていた。じっと目を凝らしていると、小さいながらも確かな鼓動を打っているのが見てとれた。

……これがiPS心臓。

どのくらいの間、眺めていたのか。

我にかえってスマートフォンを取り出し、人々に倣って夢中でシャッターを切った。帰宅後に写真を見返すと、きれいに撮れている写真がほとんどない。興奮に手元が震えていたのだろうか。

 iPS心臓(筆者撮影)

1956年、鉄腕アトムがお茶の水博士により人造心臓を装着されたその頃、現実の世界では人工心臓の研究が進んでいた。試作機の製作にまでこぎ着けたケースは複数あれど、ヒトの体内にその鼓動を響かせるまでの道のりは遠く、さらなる試行錯誤が必要であった。

現在、実用化されている人工心臓には心臓の働きをサポートする補助人工心臓と、心臓を置き換える完全置換型人工心臓がある。初期の人工心臓の研究開発では米国が先行していたが、日本人研究者も大きな役割を果たし成果を上げていた。

人工心臓には繊細な管理が必要であり、心臓移植には拒絶反応のリスクがつきまとう。こうした治療法の進歩に何人もの患者がいのちを長らえてきたことは確かだが、さらにその先への期待も高まる。自分の細胞をもとにしたiPS細胞で心臓を再生できたなら、そのような課題を乗り越えられるかもしれない。

目の前で鼓動を伝えている小さなiPS心臓。心臓に似た外見をしているけれど中は空洞で、心室や心房などの構造はないそうだ。全体が均一なリズムを奏でていて、血液を循環させる力はまだ備わっていない。

実際の心臓の鼓動は複雑だ。心房と心室が巧妙にタイミングをずらして連動することで全身に血液が巡り、私たちのいのちを支えてくれている。何年も何十年も休むことのないその鼓動を思うたび、いのちの背景にある仕組みに思いが至り、生きていることの奇跡がありがたく、そして怖くなる。

筆者が子供だった頃、心は心臓に宿るのか脳に宿るのかという議論が盛んだったと記憶している。子供ながらに、友人たちと心のありかについて勝手な議論を繰り広げたものだった。

脳内の化学反応が感情の動きに伴うことや感情を司る脳内の領域など今ではずいぶん解明されていて、心はやはり脳にあるかもしれないと理性がささやく。それでもなお、気持ちがたかぶると胸が苦しくなり、心が痛む時には頭ではなく胸を押さえたくなる。心臓はヒトにとって、それほど特別な臓器なのである。

2025年4月、iPS細胞を用いて作成した心筋細胞シートの製造販売が厚生労働省に申請された。この申請が認められると心筋細胞シートは実用化に向けてさらなる一歩を踏み出すだろう。人類が思い描いた未来は徐々に形を現しはじめている。あくなき研究は今も続き、引き継がれ、やがて本物の心臓と遜色なく鼓動するiPS心臓が完成すると信じてやまない。

 

万博会場に行くまでは人混みを億劫に思う気持ちが先行していた。しかも、筆者が予約していた日に限って雨の天気予報で、気分が萎えていたのも事実。天気予報のとおり、その日は夕方まで雨が降り続いた。

多くのパビリオンを回れはしなかったが、それでも世界のあちらこちらの国々や地域が着実に未来をその手元に引き寄せていることを知り、心が躍り視界が晴れた気がした。うかうかしていると世界のスピード感においていかれてしまう。お腹の底の方から、少しばかりの焦りを帯びた高揚感が湧いてくる。

夕方になるとようやく雨が上がり雲が切れ、夕日は西の海に傾いて会場全体を濃くて柔らかいオレンジ色に包みこんでいった。

 

さようなら。そして、ありがとう。

高鳴る鼓動を胸の内に大事に抱えながら、会場をあとにした。

 


 


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タマオ📚言葉を紡ぐ薬剤師 いただいたチップは美術館訪問と書籍購入に充てたいと思います😌 蓄えた知見をもとに新たな文章を書いて、みなさまの生活をほんのり暖かくできたら嬉しいです💐✨