脳内ホルモンのアルバイト【ショートショート】#1
今日も日の出とともに起き、バナナ一本を5分ほどかけて食べる。メトロノームの一定のリズムに合わせてしっかりと咀嚼する。それから30分間のジョギングに出かける。
最近、朝日を浴びるために東側の海岸沿いの地域に移り住んだ。日の出時間ちょうどに東の水平線から太陽が顔を出す。なんてストレスフリーなんだと思う。今までは西側に住んでいて、東側には低いながらも山があり、日の出時間から15分くらいしないと太陽が姿を見せなかった。
わたしは上半身裸の短パン姿で海岸沿いの道を走る。少しでも朝日を浴びるためだ。走るスピードは心拍数が少し上がる程度。美しい日の出を眺めながら走る。実際は毎日見ているので見飽きた感は歪めないが意識を集中し、美しいと感動しようとする。
しばらく走っていると、血流が良くなり全身に血が巡るのを感じる。心臓には絶妙なストレスがかかっているのがわかる。精神、身体感覚の微細な変化を見逃さないように細心の注意を払う。それには高度なマインドフルネスが必要だ。これを習得するのに数年の月日がかかった。
そうして細心の注意を払って走っていると、脳内から幸せホルモンがドバッと排出される瞬間がわかる。わたしは長年の鍛錬により一度に生産される幸せホルモンの量が非常に多くしかも高品質なのだ。
脳内から幸せホルモンが排出された刹那、わたしは後頭部の首と頭の境目にある差し込み口に注射針を刺す。するとそこから特殊なフィルターを通って幸せホルモンだけがカプセルに入るようになっている。
今日は2.5個のカプセルを採取することができた。わたしの幸せホルモンは品質が良いと高値で取引されて人気がある。
しかし、わたしはというと、幸せというものがなんだか忘れてしまっている。
