アフターAI社会における仕事と価値の変化:言葉にならぬ「意図」を拓く
この記事は、来週5月14日のイベント「未来デザインとAI ―変わりゆく世界を捉え、明日のビジネスを想像/創造しよう」での僕の登壇するセッション「UXとビジネスエコシステムはどう変わる?」で話そうと思ってることの下書きです。
最初にすこし自己紹介。
僕は、普段、デザインリサーチやシステム思考を用いて、少子化や地域社会における中心市街地の空洞化などの問題をはじめとした社会課題解決をテーマとする事業機会探索・構想のプロジェクトに携わることが多いです。今回は、そんな仕事をしている中で感じるアフターAIにおけるUX(ユーザーエクスペリエンス)とビジネスエコシステムの変化をテーマにお話をしようと思います。
その際、1つの観点として、生成AIが社会に浸透し始めたいま、「方法」というものの価値が変容し始めているのではないか、ということから、アフターAI社会における仕事とその価値の変化について、今後の皆様との議論の糸口となるようなお話しをしてみようと思います。
発明の方法の発明(ホワイトヘッド)
僕らは日々仕事をするなかでさまざまな方法を使っています。僕自身も先にも述べたように事業機会の探索や構想を考える際に、デザイン思考やシステム思考のさまざまな思考ツール、方法を用いています。
これについてイギリスの科学哲学者のアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドが面白いことを言っていて、19世紀の特筆すべき成果はさまざまな発明品が生まれたこと以上に、「発明の方法が発明された」ことだと言うのです。個々の画期的な発明、例えば鉄道や電信そのもの以上に、発明を生み出す方法論が確立されたことこそが、真に大きな変革をもたらしたという洞察です。エジソンの電球といった個別の成果に目を奪われるのではなく、それらを生み出した試行錯誤のプロセス、アイデアを検証し洗練させるアプローチ、つまり「発明の方法」こそが重要だとホワイトヘッドは主張したんです。
この方法論の確立が、従来の文明の枠組みを根底から揺るがし、新たな文明を築き上げたと言えるでしょう。
アーティフィシャル・サイエンスとしてのデザイン(ハーバート・サイモン)
20世紀に入ると、この試行錯誤を重視するプロセスは、デザイン思考におけるプロトタイピングという手法として広く一般化しました。しかし「デザイン」を単に具体的なアウトプットによる問題解決と捉えるだけでは不十分です。デザイン思考のフレームワークであるダブルダイヤモンドが示すように、問題解決は、それに先立つ本質的な問題発見のプロセスと不可分に結びついています。
この点を明確にしたのが、経済学者のハーバート・サイモンです。彼は、デザインとシステムの関係性を多角的に考察し、デザインを「アーティフィシャル・サイエンス(人工科学)」と捉えました。ここでいう「アーティフィシャル」とは、システムやその要素が静的で孤立しているとか、自然と対立する性質を持つという意味ではありません。むしろ、それらは常に「シンセティック(合成的)」な動向の一部として存在していると彼は考えました。そして、自然と人工の間、あるいは人と人工物の間には必ずインターフェースが存在し、孤立していないもの同士が相互作用するためには、そのインターフェースのあり方が極めて重要な意味を持ちます。それこそが、問題解決のデザインなのです。しかし、そもそも相互作用するものがどのような関係にあり、真に解決すべき問題は何なのかを発見する問題発見のプロセスがなければ、効果的な問題解決は望めません。ここに、システム思考の出発点があります。
このように、ビフォーAIの時代においては、「方法」そのものが科学(サイエンス)として深く探求されてきました。しかし、いま、アフターAIの社会に突入するなかで、その「方法」の かなりの部分が、AIによって代替可能になりつつあるというのが、今回僕が議題として俎上に乗せたい事柄です。
LLMによる「方法」の代替と新たな価値の創出
少し前であれば、驚くべきことだったかもしれませんが、こうしたアーティフィシャル・サイエンスの「方法」としてのデザイン思考やシステム思考のプロセスの多くが、大規模言語モデル(LLM)によって代替可能になりつつあります。
実際、僕自身の仕事でも、リサーチ、それを基にしたシステム思考の因果ループ図の作成、ループ図が明らかにした問題の構造に対する介入点の検討、さらには戦略としての「変化の理論」の策定まで、かつては人間が多くの時間と労力を費やしてきた作業プロセスの多くの部分を、AIに任せるようになっています。僕自身は生成された結果を複数のLLM間を行き来しながら指示を出し、得たい結果を生み出してくれるようオペレーションするだけで済むようになっています。
極端な例のあるプロジェクトでは、クライアント側の担当者とのあいだで、お互いに議論の土台となる資料のほとんどをAIに作成してもらっています。適切なインプットとなる情報と、さまざまなイノベーションの手法のフレームワークやテンプレートを与えて指示すれば、ほしいアウトプットは大抵作ることができます。それをインプットとして会話をし、時にはそのディスカッションそのものを次のAIでの生成の元ネタにしていまりもしています。
プロデュースの仕事でも同様てます。以前は、クライアントに向けた提案書を作成すること自体が大きな労力を伴うことも少なくありませんでした。そのために提案を出すことをためらうこともあり、結果、商談の機会を逃すこともあったように思います。しかし、現在では、先と同様に適切なインプットと提案のフレームワークがあれば、ある程度のレベルの提案書はAIが作成できます。結果、提案を作成することに過度な価値を置かなくなってきています。パッと作って、それを元に話をしてみようと、提案をきっかけとしてクライアントとの対話が大事に思えるようになってきています。
ようするに、商談においても、プロジェクト実施におけるさまざまなシーンにおいても、資料作成や提案作成といったアウトプットそのものよりも、それらを触媒とした人間同士の対話の質と価値が飛躍的に高まっていると感じています。
オペレーションとクリエイション
この変化は、社会における仕事のあり方と価値観に大きな影響を与えるはずです。
労働市場への影響:オペレーションからクリエイティブへ
人口減少社会において、不足する労働力をAIやロボットに置き換える議論は以前から存在しましたが、ビフォーAIの社会では、その対象は主に接客や工場労働のようなオペレーショナルな仕事だと考えられてきました。しかし、LLMが登場したアフターAIの社会では、グラフィックや文章の制作、企画、リサーチといった、かつては創造的で高度な専門性が必要とされた仕事の方が、むしろAIによって代替されつつあります。
この変化は、労働市場にどのような影響を与えるのでしょうか? 創造的な仕事に従事してきた人々のキャリアパスや、企業の人材戦略はどのように変化していくのでしょうか?
仕事の価値観の変容:創造性の再定義
これまで、オペレーションの仕事は比較的低賃金で、クリエイティブな仕事は高賃金であるという傾向が見られました。しかし、AIが高度なクリエイティブなタスクをこなせるようになるにつれて、この従来の価値観は揺らぎ始めています。単に「作成する」ことの価値は低下し、何のために、どのような目的でそれを作成するのかを考え、AIに適切な指示を与えることの重要性が増しています。
さらに言えば、その企画的な作業すらAIに任せられる時代において、本当に重要なのは企画を「つくる」ことではなく、「企図する」こと、つまり、行動の土台となる意図が生まれる根源的な瞬間をいかに捉え、育むかという点に移りつつあるのではないでしょうか。
AIが捉えられない「意図」:対話とケアの倫理
LLMによる高度なリサーチは、企図の起点を探索する上で非常に役立ちますが、そこにはまだ大きな限界があります。それは、まだ言語化されていない、データ化されていない情報にアクセスできないという点です。まあ、当然と言えば当然ですね。
人々の頭の中に眠る個人的な経験、暗黙知、未だ形にならない感情や想いといった情報は、現在のAIには捉えることができません。
だからこそ、私たちが今、最も大切にすべきことの一つは、そうしたまだ文字やデータになっていない人々の内なる「意図」を、対話を通じて言葉や具体的な行動として引き出す機会を創出することではないかと思っています。いったん音声として捉えられれば、文字起こしを通じてAIが扱えるデータとなります。そこからは、AIが得意とする領域です。
そして、このプロセスは、岡野八代氏が提唱する「ケアの倫理」と深く共鳴するように感じています。ケアを必要とする人々、例えば社会的な弱者や声なき人々は、しばしば言語化やデータ化が重視される政治や経済の場から排除されがちです。そのため、そうした人々の真のニーズや願望はAIには届きにくいのです。一期一会的な性質を持つ個別の人間やモノに対する丁寧なケアを通じて、初めて見えてくる、言葉にならない「意図」を掬い上げることこそが、アフターAI社会における人間の重要な役割であり、新たな価値の源泉となるのではないでしょうか。
プロトタイピングによる新たなUXとエコシステムの模索
私たちは現在、このような視点を踏まえ、AIが捉えきれない人間の内なる「意図」を顕在化させ、それをAIとの協働を通じて社会的な価値へと転換していくための新たなUXとエコシステムのあり方をプロトタイピングしています。
組織における働き方はもちろんのこと、外部の社会、地域社会、そこにいる人びととの、あるいは、そこにいる人びと同士の間にどんな交流を喚起し実現化させ、そのことを通じて対話や行動を現在のものとしてAIが扱える状態をつくり、それをもとに価値生成ができるようにするか。そうした体験とそれを扱うことを可能にするエコシステムの設計をしていくことがアウターAIの社会の取り組みの1つの方向性ではないかと思っています。
ますます既存の組織の枠組みを越えての共創が大事になってきているといえるでしょう。既存のシステムの多くがAIが代替してくれるようになっているのですから。
というわけで、この後のワークショップセッション<AI社会のデザイン>では、そのプロトタイプの一部を参加者の皆様に体験していただき、共に未来の社会における人とAIの新たな関係性を議論し、デザインしていく機会にしたいと考えております。
皆様との活発な対話を通じて、より深い洞察と新たなアイデアが生まれることを心から期待しております。
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