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生成AIはカメラマンを殺すのか?|カメラマンしか知らない光の呪文

こんにちは。d-fractalのデザイナー、Tanakaです。

この前、事務所のメンバーで「夏の慰労会」と称して飲みに行った日のこと。

Ochiさんがボスに「AIで私たちの仕事って無くなるんですか?」と泣きつき、ボスが「デザイナーはディレクション能力と審美眼を持てば生き残れる」と一刀両断した、あの夜の話の続きです。

ボスのその理屈は、デザイナーである私には深く腑に落ちるものでした。でも、後日事務所で作業をしている時、ふと別の疑問が頭をもたげてきました。

「ボス、あの慰労会でのAIの話なんですけど」

「ん? なんやTanaka、まだ引っかかっとるんか」

「デザイナーが生き残る理屈はわかりました。でも、カメラマンはどうなんでしょう? 正直、カメラマンの方が危機的じゃないですか? だって、最近の生成AIの作る写真のクオリティ、異常ですよね」

私の問いに、ボスは手を止めてこちらを見ました。

「お前、ほんまにそう思うか?」

「ええ。違いますかね?」

ボスは少し呆れたように鼻で笑いました。

「大違いや。Tanaka、お前『Midjourney(ミッドジャーニー)』とかガッツリ使うたことあるか?」

「いえ、実はなくって。普段はもっぱらジェミニとかチャッピー(ChatGPT)の画像生成機能で、デザインのダミー素材を作って遊んでるくらいです」

「ああ、それでか」

ボスは深く頷きました。

「チャッピーは確かに賢い。適当に言葉を打てば、そこそこのもんを出してくるからな。でもな、画像生成AIの最前線であるMidjourneyの凄さはそこやない。あいつの本当の恐ろしさは、『ライティングのキメ』がめちゃくちゃ細かいところにあるんや」

■ プロしか知らない「光の言語」


「ライティングのキメ……ですか」

「そうや。たとえばな、ただ『綺麗な女性のポートレート』って打つんやない。Midjourneyには、こんな指示(プロンプト)が通じるんや」

ボスは私のデスクの端に置かれたメモ帳を引き寄せ、ペンでサラサラといくつかの単語を書き出しました。

『Rembrandt lighting(レンブラントライティング)』
『85mm lens, f/1.4』
『ソフトボックスを左斜め45度から』

「レンブラントライティングに、85mmの大口径レンズ……これって」

「せや。本物のスタジオ撮影で使う照明の技法や、機材のスペックや。斜めから光を当てて、陰になる側の頬に逆三角形のハイライトを作る、あのレンブラントライティング。それを『85mm f/1.4』という中望遠の極薄の被写界深度で切り取れ、と指示する。Midjourneyは、この『光とレンズの言語』を完璧に理解して、物理的に正しい光の落ち方とボケ味をシミュレートして出力してくるんやで。すごいやろ」

「そ、それはすごいですね……」

私は背筋が少し寒くなるのを感じました。

「以前ボスが話してくれた、富士フイルムのモノクロのフィルターワークの話に通じるものがありますね。デジタルの中で、光学的な物理法則を完璧にシミュレートしている」

「やろ? でな、ここからが本題や」

ボスはペンを置き、私の目を真っ直ぐに見ました。

「これ、ライティングの基礎もできん『なんちゃってカメラマン』や素人が、頭の中で完璧な光を計算して、このプロンプトを使いこなせると思うか?」

■ 広告代理店のAIチームにいる「異端児」


「……打てませんね。言葉を知らないし、何より光の落ち方の『正解』が分からないから」

「そういうこっちゃ。そりゃな、今や大手のメーカーなんかでも、広告制作にガンガン生成AIを使っとるで。でもな、素人がチャッピーで遊んどるのとはレベルが違うんや。代理店が専門のチームを作ってな、プロンプトを打ち込む専門のエンジニアだけやなく、そのチームの中に『プロのカメラマン』が当然のようにアサインされとるんや」

「カメラマンが、AIの生成チームに?」

私は驚きました。カメラマンはAIに仕事を奪われる側だと思っていたからです。

「せや。商品を一番美しく見せるためには、どこからどんな質の光を当てるべきか。そのライティングのアイデア出しや、AIが吐き出した画像の中に『物理的にあり得ない嘘の光』が混ざってないかをチェックするんや。最終的な絵のクオリティを担保するのは、結局、現場でストロボと格闘してきたカメラマンの『光を読む目』なんやで」

■ 奪われるのは「作業」だけ?


「結局、デザイナーと同じですね」

「でもおまえ、結局シャッター押す行為はなくなるかもしれんと今おもたやろ」

「ええ、実は(笑)」

「そんなことあるかい、そもそもじゃあその理論と理屈はどうやって伝承されるんや?結局シャッター押して新しいライティングなり実験なりして伝えていかにゃいかんし切り開いていかにゃいかんのやないんか?」

「あ。。。」

「そういうこっちゃ。まだまだおもろいやろ?」

ボスはニヤリと笑い、自分のデスクへと戻っていきました。

結局私たちに残されたのは「クリエイティブ」であり創造性なんだと思います。私たちクリエイターの「審美眼」と「知識」が、これほど残酷に、そして純粋に試される時代はないのかもしれません。

text by Miyuki Tanaka (d-fractal)


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