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印刷所にしか語れない「本」の話を。

ライターの田中です。すこしでも本に興味がある方に、本が好きな方に、本の仕事に携わっている方に、ぜひ読んでほしい本ができましたみなさん宅の玄関まで配りにいきたいくらいの気持ちを込めて、ご紹介させてください。

* * *

世の中に存在する、いわゆる「本」は商業出版物だ。

出版社でつくられ、書店を経て、読者に届けられる本。
読者のよろこびや学び、あるいは売上や社会的意義を背負った本。

本書の「聞き手・文」を担当したわたしは新卒で出版社に入社し、今も書籍を中心とした編集・ライティング業で身を立てているコッテコテの商業出版人だ。

『本が生まれるいちばん側で』に詰まっているのは、そんな本とはちょっぴり毛色がちがう「個人の本」の話だ。ほんとうに、たったひとりの「つくりたい!」からはじまる本の話。

本書の著者は、個人の本づくりを全力で応援してきた藤原印刷さん。語り手は、本社のある長野県松本市に住む兄・隆充さん、東京で営業を統括している弟・章次さんの「藤原兄弟」のおふたり。

左が兄の隆充さん、右が弟の章次さん。兄、靴下をカバーの色と合わせてくれている?

もともと教科書などの印刷を得意としてきた藤原印刷が、なぜ個人の本づくりに伴走するようになったのか? の紆余曲折ストーリーから
・人は、なぜ、どんなときに本をつくるのか
・本づくりの醍醐味や多様さ、奥深さ
・本というモノの魅力
・具体的な本づくりの進め方

まで、さまざまな切り口で「本」のことを、それはもうエネルギッシュに語りきってくださっている。

印刷所が本についてじっくり語る、はじめての本。藤原兄弟にしか語れない、本ができあがるまでのドラマが詰まった本。本づくりの入門書としても、最高の本。

それがこの、『本が生まれるいちばん側で』だ。

目次のデザインも素敵

さて、なぜ「コッテコテ商業出版人」ことわたしが、本書の制作を打診されたときに「やりたい!」と思ったのか。それには2つの理由がある。

まず、本づくりを真に理解していない引け目があったこと。かつて勤めていた出版社は、分業制。制作進行はグループ会社が担ってくれていて、印刷や製本の現場を見たことがなくても、深い知識がなくても、本がつくれてしまう環境だった。

どんなプロセスを経て、コンテンツは本という「モノ」になっていくのか?
理想の本にするために、何を考えればいいのか?


そんなだいじなことを、知らなかったのだ。

じつは真っ黒ではないブラックのインキ

そして2つめ。藤原印刷が携わってきた本には、なにか……多幸感らしきものがただよっていたからだ。

わたしは本づくりが「仕事」だ。だから読者に届く本にすることにも責任がある、取材・執筆・推敲を担う人間として。だから、いい本になったね、だけではダメなのだ。売れなければ。「おかげですばらしい本になった!」と言われても。

やりがいやよろこびと同時にプレッシャーも感じていたのかなあ、SNSで目にする、藤原印刷さんが生み出してきた本たちの「在るだけでいい」という肯定感がまぶしかった。底抜けの自由さがすこし、うらやましかったのかもしれない。

本文の途中で紙が変わる。使った紙や加工も掲載

そんな2つのちいさなモヤモヤを抱えていたわたしが引き寄せられるように向かったのが、兄・隆充さんが登壇していた「クラフトプレス(藤原印刷さんが提案する個人の本づくり)」のイベント。そこで偶然はちあわせたのが、ライツ社の編集者・大塚さんだったというわけだ。

「田中さん、藤原印刷さんの本、興味ありませんか?」

「え、あります」

2023年3月10日、金曜夜のあの即答が、この本の芽が出た瞬間だったと思う。印刷会社から見た本づくりは本好きな方々にとっても「へえ!」なはずだし……この本づくりをとおして自分の仕事の見方も変わるかも、そんな個人的な期待とともに。

かっこいい章扉

手前味噌ながら、本が産声をあげる場に立ち会いつづけた藤原印刷さんの知識と哲学がぎゅうと詰まった中身になった。でも、それだけではない。

「この本を読んだら元気になった」。これはすでに読んでくださった方々からいただいた感想で、きっとインタビューさせていただいたつくり手さんたちのわくわくが伝わったからだろう。自分の本を、心底だいじに誇らしく思っているのが。

本づくりを思いたった瞬間から「売る」ところまでみなさん前のめりに語ってくださって、こちらも毎回すっかり高揚。取材のあとは血流どくどくで、この熱をそのまま本に閉じ込めますと誓っていた。

「この本は藤原印刷の本じゃない。つくり手さんや、彼らのつくってきた本が主役だ」と兄弟は言う。この言葉の意味を感じてもらえたら、と思う。

紫インキ。濃度を変えると2色のように

長くなったけれど。
とにかく、本が好きな人みんなに読んでいただきたい一冊です。藤原印刷という会社の、どこまでもピュアな熱を味わってもらえたら最高にうれしい。

そして……商業出版をなりわいにしている方も、「畑がちがう」と思わずちょっとのぞいてみてほしいなと思います。

「はじめに」全文公開中!



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