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妄想図書館 〜まだ恋をしてもいいですか? 7冊

最終章 また、恋をしてもいい


夕暮れの海は、

いつもより、少しだけ淡く見えた。

空と海の境目が、

ゆっくり溶けていくみたいで、

この世界そのものが、

終わりを知っているようだった。

彼は、

いつもの場所に立っていた。

でも今日は、

どこか少しだけ、

そして、遠い。

私は、

胸の奥の鼓動を感じながら、

ゆっくりと近づいた。

「…知ってしまいました。私…。」

私がそう言うと、

彼は、静かにうなずいた。

「ここが、

どういう場所か。」

「あなたが、

どういう存在か。」

言葉にすると、

少しだけ、

胸が痛くなる。

彼は、

それでも、

やさしく笑った。

「それでも、

ここに来てくれて、

ありがとう。うん…。」

私は、

少しだけ、

首を振った。

「…ありがとう。

いいえ、

ありがとうなのは、私のほうです。」

あなたは、

私が、

自分を嫌いになりそうな夜に、

そばにいてくれた。

誰にも言えなかった本音を、

聞いてくれた。

それだけで、

私は、

もう一度、

呼吸ができるようになった。

「もう、

行かなくちゃ、いけないですね。」

私がそう言うと、

彼は、

少しだけ、目を細めた。

「あなたは、

もう一人じゃありませんよ。」

その言葉は、

胸の奥に、

静かに、

でも、確かに、

根を下ろした。

私は、

ゆっくりと、

彼に近づいて、

そっと、

胸に顔を埋めた。

体温は、

あった。

でも、

それは、

現実のぬくもりとは、

少し違っていて、

『思い出のぬくもり』に、

近かった。

「ありがとうございました。」

そう言って、

私は、

本を、閉じた。

静かな図書館に、

私は、

一人で立っていた。

でも、

不思議と、

寂しさはなかった。

カウンターの女性は、

もういなかった。

ただ、

あの本だけが、

棚の上で、

静かに眠っている。

私は、深く、

一度だけ、

お辞儀をして、

図書館を出た。

夜の空気は、

少し冷たくて、

でも、

前より、やさしかった。

数日後。

私は、

同じ裏道を歩いていた。

でも、

足は、

妄想図書館の前では、

止まらなかった。

そのまま、

少し先まで、

進んでみた。

新しくできた小さなカフェの前で、

ふと、

足が止まる。

ガラス越しに見える、

あたたかい灯り。

私は、

少しだけ、

迷ってから、

ドアを押した。

「いらっしゃいませ。」

その声に、

胸の奥が、

ほんの少し、

きゅっと鳴る。

それでも、

私は、

ちゃんと、

笑えた。

作った笑顔じゃなくて、

ちゃんと、

心から出てくる笑顔で。

そう、私は、

もう一度、

恋をしてもいい年齢なんだと、

やっと、自分に許せました。

                ―終―


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