しあわせ色のシャワー
ある国の大海原に、一頭の大きな鯨が暮らしていた。
お腹が満たされている時の鯨は、とても穏やかだ。
青い海をゆったりと漂い、ときおり大きな潮を吹いては、気持ちよさそうに泳いでいる。
だが、ひとたび空腹になると見境がない。
魚も、タコも、カニも、海の仲間を手当たり次第に飲み込んでしまうのだった。
そんな様子を空から見ていた一頭のユニコーンが、海辺へ舞い降りて声を掛けた。
「一緒に空の旅へ出かけないか?」
鯨は笑った。
「こんな大きな体で空を飛べるものか。」
そう言うと、海面から勢いよく跳ね上がる。
ザバーン!
大きな水しぶきを上げる豪快なジャンプだった。
「心配いらないさ。」
ユニコーンがそう言うと、どこからともなく無数の風船が現れ、鯨の体へ次々と結び付けられていく。
気が付けば鯨の巨体は、ふわり、ふわりと空へ浮かび始めていた。
「何をする!」
抗議しようとした鯨だったが、ユニコーンの鋭い角を見ると、それ以上は何も言えず、渋々空の旅に付き合うことにした。
風船をたくさんつけた鯨は、まるで空飛ぶ気球船。

ユニコーンは背中にまたがり、その角で舵を取る。
風に乗るたび、二人はどこまでも高く飛んでいった。
最初は不満そうだった鯨も、いつしか空の景色を楽しむようになっていた。
やがて、どこからともなく美しい音楽が聞こえてくる。
雲の上では音楽家たちが、海と空をテーマにした曲を演奏していた。

ところが空腹だった鯨は、演奏に耳を傾けるより先に、音楽家たちをぱくりと飲み込んでしまう。
ユニコーンは小さくため息をつくと、何も言わず進路を変えた。
その先には、大きな七色の虹が架かっていた。
虹を越えると、その麓には「虹色の温泉」が湯けむりを立てている。

温泉の真上まで来ると、ユニコーンは角で風船を次々と割った。
パン、パン、パン!
支えを失った鯨は、
ザバーン!
と大きな音を立てて温泉へ飛び込んだ。
海で暮らしてきた鯨にとって、お湯は思いのほか熱かった。
思わず勢いよく潮を吹く。
その潮と一緒に、これまで飲み込んできた海の仲間や、雲の上の音楽家たちが次々と飛び出し、温泉へ落ちていった。
鯨は何度も何度も潮を吹く。
お日様の光を浴びた潮は、七色のシャワーとなって温泉に降り注いだ。
温泉には、虹を渡ってやって来た動物たちや鳥たち、空の住人たちが集まり、みんな笑顔で湯につかっている。
実はこの「虹色の温泉」には、空腹を和らげる不思議な効能があるという。
居心地の良さが気に入った鯨は、それから虹色の温泉に住み着いた。
今日も大きく潮を吹く。
お日様の光を浴びた潮は、七色のシャワーとなって温泉に降り注ぐ。
虹を渡ってやって来た動物たちも、空の音楽家たちも、そのシャワーを浴びて笑顔になる。
笑い声が湯けむりとともに空へ舞い上がるたび、鯨のお腹は不思議と空かなくなっていた。
きっと、いちばんお腹を満たしてくれたのは、温泉ではなく、みんなの笑顔だったのかもしれない。
片桐 みかん様のこちらの企画に参加させていただきました。⬇️
