寝落ちした天女と白い龍神
ある日のこと。
天女は大きなシャボン玉に乗って、青い空をのんびり漂っていた。
ふわり、ふわり。
あまりにも心地よい風だったので、天女はついうとうと……。
気がつけば、シャボン玉の上でぐっすり眠ってしまっていた。
どれほど眠ったのだろう。
「しまった!」
目を覚ました天女は、慌てて下界を見下ろいた。
山は茶色く乾き、川は細い糸のようになり、田畑には大きなひび割れが走っている。
人々は必死に雨乞いをしていた。
その輪の中心には、一匹の白い龍神がいた。

龍神も人々と同じように空へ向かって祈っている。
天女は驚いて叫んだ。
「龍神さま! 雨を降らせるのはあなたのお役目ではないのですか?」
白い龍神は困ったように笑った。
「私は雲を集めることはできるが、雲を雨へ変えるには、天女どのが天空で舞っていただかないことには……」
天女の顔から血の気が引いた。
「もしかして私……」
「三日ほど、お休みになられていました。」
龍神は苦笑いをしてみせた。
天女は耳まで真っ赤になると、急いで立ち上がった。
そして身につけていた羽衣を優雅に、大きくひるがえすと、乗っていたシャボン玉が空いっぱいにはじけ、無数の雫が光をまとって舞い上がった。
太陽は姿を隠し、代わりに月明かりが天女を照らす。

雫は雲へ溶け込み、やがて空は厚い雨雲に包まれる。
ぽつり。
ぽつり。
やがて大粒の雨が降り始めた。
人々は歓声を上げ、渇ききった大地は息を吹き返していく。
白い龍神は静かに目を閉じ、空へ深く一礼した。
そのとき、一つだけはじけずに残った小さなシャボン玉が、風に乗って旅を始めた。
山を越え、川を渡り、小さな神社へたどり着く。
境内には、干ばつのせいで弱りきった一本の桜が立っていた。
村人たちが何代にもわたり守り続けてきた御神木だった。
シャボン玉は枝先へふわりと降り立ち、音もなくはじける。
七色に輝く雫は幹へ染み込み、根の奥深くまで潤うのだった。
それ以来、その桜はどんな猛暑、嵐、寒波がやって来ようが、毎年見事な花を咲かせ、見る人々の心を和ませていた。
樹齢百年を迎えてもなお、その花は若木のように美しい。

そして、満開の花びらが空へ舞い上がるたび、白い龍神は、寝坊して顔を赤らめる天女の顔を思い出すのだった。
片桐みかん様のこちらの企画に参加させていただきました。⬇️
