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山姥の幸せ

昔々、鬼ヶ島には、それぞれ特技を持つ鬼たちが暮らしていた。

炎を吹く鬼。
怪力自慢の鬼。
大波を操る鬼。

だが赤鬼には、鬼らしい特技が何一つなかった。

あるのは、困っている者を見過ごせない優しい心だけ。

そんな赤鬼を、一羽の鶴が旅の途中で静かに見守っていた。

赤鬼が誰かを思いやるたび、鬼ヶ島の丘には一輪の花が咲く。

子鬼を助けた日。

傷ついた動物を介抱した日。

空腹の旅人には、気づかれないようにそっと食べ物を分けた日。

花は一輪、また一輪と増え、やがて丘は見渡す限りの花畑になった。

けれど、その理由を知る者は誰もいない。



山奥には、一人の山姥が暮らしていた。

若い頃、山姥は翼を傷つけた一羽の鶴を助けたことがある。

冬の間、わが子のように世話をし、春になると鶴は元気に空へ帰っていった。

「恩返しはもういらないよ。また元気な姿を見せておくれ。」
山姥は笑って見送った。



ある嵐の日。

鬼ヶ島の浜辺に、小舟が流れ着いた。中には人間の赤ん坊が静かに眠っていた。

赤鬼は迷わず抱き上げる。
しかし鬼ヶ島では、人間の子どもを育てることはできない。

赤鬼は夜の山を越え、山姥を訪ねた。

事情を聞いた山姥は静かに頷いた。

「この子は私が育てよう。」


赤ん坊は「幸」と名付けられ、深い愛情を受けながら、心優しい娘へと成長した。

山姥は何度も幸に語った。

「お前の命を救ってくれたのは、鬼ヶ島の赤鬼だ。」

「幸、人は姿ではなく、心を見るんだよ。」

幸は、いつか赤鬼に会って礼を伝えようと心に決めた。



月日は流れ、山姥は年老いた。

着物は何度も繕われ、すっかり色あせている。

幸は思った。

育ててもらった恩返しがしたい。

ある夕暮れ、幸が縁側で夕焼け空を眺めていると、一羽の鶴が山小屋の上を飛び、一枚の白い羽を落としていった。



山姥は羽を見つめ、懐かしそうに微笑む。

「きっと……あの子だ!」


そして胸にしまっていた秘密をとうとう幸へ打ち明けた。

昔、助けた鶴がお礼に機織りを教えてくれたこと。

山姥は幸へ、その秘伝を何度も何度も丁寧に伝えた。



やがて幸は、赤鬼に会う決心をする。

山菜採りで出会った村人から、桃太郎という青年が鬼たちを懲らしめ、鬼ヶ島は静かになったと聞いたからだった。

幸は鬼ヶ島の花畑で赤鬼を見つけた。

「命を救ってくださって、ありがとうございました。」

赤鬼は照れくさそうに笑う。

山姥の言葉は本当だった。

人は姿ではなく、心なのだ。

幸は胸の内を打ち明ける。

「母に、新しい着物を贈りたいんです。」

その日初めて、山姥を「母」と呼んだ。

赤鬼は花畑の草木で糸を染める手伝いをし、壊れた機織り機を直し、薪を割り、夜遅くまで灯を守った。

幸は一糸一糸に感謝を込めて布を織る。

織り上がった布は、鬼ヶ島の花々をそのまま映したように美しかった。

着物に仕立てると、その美しさはいっそう際立った。

山姥は新しい着物に袖を通し、ゆっくりと微笑んだ。

「ありがとう。」

それは幸が見た中で、一番幸せそうな笑顔だった。

その瞬間、山の庭にも鬼ヶ島の丘にも、色とりどりの花が一斉に咲き乱れた。

空を見上げると、白い羽が風に舞う。

夕焼け空を、一羽の鶴がゆっくり飛んでいた。

山姥は静かに手を振る。

「ありがとう。」

鶴は一声鳴き、大空へ帰っていった。



それから間もなく、山姥は穏やかに生涯を閉じた。

幸は山姥から受け継いだ機織り機と、一枚の白い羽を大切にしまった。

最期に山姥は、小さく口を開いた。

「あの機織りには……」

そこまで言って、静かに息を引き取った。

その続きの言葉を、幸は知ることができなかった。

やがて、鶴から受け継がれた秘伝の織物が、幸自身の運命を救う日が訪れる。

それはまた、別のお話で。

片桐 みかん様のこちらの企画に参加させていただきました。⬇️

#3つのお題に空想のひらめきを
#鶴が残した白い羽
#鬼ヶ島に咲いた花
#山姥が守った子

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