すねた太陽と夜の音楽会
片桐 みかん様の
こちらの企画に参加させて戴きました。⬇️
すねた太陽と夜の音楽会
夜の帳が下りるころ、月はそっと空の舞台に姿を現した。
月が銀色の指揮棒を振ると、湖は待っていましたとばかりに歌い始める。

🎼ちゃぷん♩ちゃぷん♩ちゃぷん♩
🎼さらさら🎵🎵さらさら🎵🎵
🎼きらり、きらり🎶🎶
🎼しゅぽん♬♩しゅぽん♬♩
🎼しゃん♩しゃん♩しゃん♩
水面はメロディに合わせて輝き、まるで無数の星を映した楽譜のようだった。
湖から流れ出す川も歌声を受け取り、橋の下を軽やかにステップし、跳ね上がった水飛沫から、ハーモニーの波紋が花開く。
川に架かる古い橋は月明かりをまとい、銀色のベールを纏っているかのように煌めいていた。

空では星たちが瞬きながら拍手を送る。
「今夜も素敵な演奏ね」
橋が言うと、
「月さんの指揮が上手だからさ」
と湖は照れくさそうに波を揺らした。
その様子を、地平線の向こうから太陽がちらりと見ていた。
みんな楽しそうだ。
湖も橋も星も月も。
太陽はだんだん面白くなくなった。
「ふん!」
太陽は頬をふくらませた。
そして本当に怒ってしまった太陽は、地下深くへ潜り込み、ふて寝を始めた。
翌朝。
太陽は現れない。
世界は真っ暗なまま。
鳥たちは寝坊し、花はつぼみを閉じたまま。
洗濯物は乾かず、子どもたちは学校へ行く時間がわからない。
困った月は湖へ相談に来た。
「どうしましょう」
湖はしばらく考えてから言った。
「太陽さんは、自分が必要とされていないと思っているのかもしれない」
そこで月と湖と橋と星たちは、地下へ向かった。

太陽は大きないびきをかいていた。
ぐう。
ぐうぐう。
星たちがくすぐっても起きない。
橋が呼んでも返事をしない。
最後に湖がそっと歌を歌った。
その歌には、昼間の様子がたくさん詰まっていた。
子どもたちの笑い声。
花畑の色。
青空を飛ぶ鳥。
きらめく緑の木々。
そのすべてを輝かせていたのは太陽だった。
太陽はゆっくり目を開けた。
「夜は楽しそうだったから、僕はもう必要ないのかと思って」
すると月が微笑んだ。
「夜の音楽会は私たちの仕事。でも昼の音楽会はあなたしかできないのよ」
橋も言った。
「私は昼の金色も大好きです」
湖も波を揺らした。
「月の歌も素敵だけど、太陽の光で輝く朝も大好きさ」
太陽の頬は、少しだけ赤くなった。
それから照れ隠しのように、
「しかたないなあ」
と言って地上へ顔を出した。
その瞬間。
世界はぱっと黄金色に染まった。
湖は朝の歌を歌い、
橋は金色に輝き、
星たちは眠りにつき、
月は西の空で静かに微笑んだ。
それ以来、太陽はときどき夜の音楽会をこっそり見学するようになった。
そして誰にも気づかれないように、地平線の向こうで拍手を送るのだった。
