乙姫様の相談室
竜宮城で乙姫は相談室を開いていた。

恋愛、仕事、将来、家族。
海の中だけでなく、山や空からも悩みを抱えた者たちが訪れる。
ある日、大天狗が相談にやって来た。
「近頃、飛べないカラス天狗の子どもが増えておってな」
乙姫は少し考えて微笑んだ。
「それなら、大天狗さまが飛び方を教えて差し上げたらいかがですか?」

その一言で飛行教室が開かれ、大勢の子どもたちが空を舞えるようになった。
以来、乙姫は「悩みを解決する名人」と呼ばれるようになった。
しかし、乙姫にはもう一つの仕事があった。
竜宮城スマホショップの店長である。
営業ノルマは厳しい。
だが、人の話を聞くのが上手な乙姫は、お客様にぴったりの機種を勧めるのが得意だった。
その常連客第一号が浦島太郎である。
竜宮城でもてなされて以来、浦島太郎は乙姫に夢中だった。

「浦ちゃん、このスマホなら、いつでも私とビデオ通話できるの」
乙姫は画面を見せながら微笑む。
「買う!」
即決だった。
乙姫はカウンターの下で、小さくガッツポーズをした。
ところが、いざスマホを手に入れても、乙姫は相談室も販売も大忙し。
浦島太郎は毎日スマホを眺めては、
「今日は着信あるかな」
と待ち続ける。
それでも毎晩届く、
「今日もありがとう🩷」
というスタンプ付きメッセージだけで幸せだった。
そんなある日。
ついに乙姫からビデオ通話が入る。
「浦ちゃん、お願いがあるの」
「乙ちゃんの頼みなら何でも!」
「三線を覚えてくれない?」
数か月後。
浦島太郎は三線を抱え、
♪ 海の声が 聴きたくて ♪
と歌い始めた。
そのライブ配信は大人気。
「三線ライブを見るなら、このスマホ!」
乙姫は配信を映しながら、使い方を説明する。
「離れていても、浦ちゃんの歌も、私とも、いつでもつながりますよ」
その宣伝効果は絶大だった。
竜宮城スマホショップは連日大繁盛。
相談室も大忙し。
そして浦島太郎は今日も、
「乙ちゃん、また話そうね」
とスマホに向かって笑いかける。
乙姫は営業スマイルの裏で、小さく親指を立てた。
「今月もノルマ達成!」
玉手箱は過去の物、今はスマートフォンの時代だ。
こちらの企画に参加させていただきました。⏬
