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春の精霊と百回目の春

遥遠い昔の物語。

チルドニア王国のお城の裏には美しい花園があり、その奥には千年を生きる桜の大木が立っていた。

長年この国を見守り続けているうちに、言葉を話せるようになり、「語り木」と呼ばれるようになった。




チルドニア王国の王子、レオンは毎日のように花園へ通い、そこで不思議な少女と出会うのだった。

少女の名はアリア。

春の精霊だ。

「この花園を守ってくれる?」

アリアは小さな苗木をレオン差し出した。

レオンは笑顔でうなずき、それを受け取った。

「約束するよ」

語り木も枝を揺らし、その約束を聞いていた。




年月は流れ、王子は立派な青年に成長した。

国は豊かになるにつれて、城は手狭になっていた。

大臣たちは口々に、花園を切り開いて新しい宮殿を建てるよう進言するようになり、レオンは迷いながらも工事を許可してしまう。


その夜のことだ。

花園に現れたアリアは悲しそうに呟いた。

「約束を忘れてしまったのね」

春の嵐が吹き荒れた。


アリアは魔法を使い、レオンの身体を猫の姿へ変えてしまう。

その魔法の威力はレオンにだけでなく、花園を守れなアリアの自身の姿までも変えてしまった。

アリアは姿そのものが消えてしまいう。

春の精霊としての魂だけはそのまま残して……。



すっかり変わり果てたレオンとアリアに語り木が告げる。

『百回目の春に、お前たちは元の姿へ戻れるだろう



それから長い時が流れ、

レオンは猫として、
鳥の巣を見守り、
迷子の子狐に寄り添い、
泣いている子どもの膝で眠りについた。

アリアは春の精霊として世界をかけ巡る。
雪解けを導き、
花々を咲かせ、
息づくもの全てに、新しい季節を届ける。

そして毎年春になると二人は、語り木の下にやって来ては、

「あと何回春が来れば、元の姿にもどれるの?」

すると語り木は決まって答える。

『春を数えているうちは、まだだな』




九十九回目の春。


アリアの身体に異変が起こり始めた。春の精霊としての魔力が弱まっていた。


語り木は静かに告げる。

『百回目の春を迎える前に消えるかもしれぬ』

レオンは初めて心の底から恐怖を感じた。

それは人間に戻れないことではなく、アリアを失ってしまう恐怖だ。



百回目の春の前夜。

二人は語り木の下を訪れた。

すると語り木は呪いの真実を語り始めた。

『この呪いは百回目の春に自動で解けるわけではないんだ』

『最後にひとつだけ願いを叶えることができるが……』

レオンは息を呑みました。

『だが願えるのは自分のためではない』

『相手の幸せを願った者だけが、呪いを終わらせられる』


夜が明けました。

百回目の春です。



アリアは既に消えかけていた。

春風の中に身体が溶け始めていたのだ。

レオンは叫んだ。

「お願いだ!アリアを人間に戻してほしい!」

アリアも負けじと言う。

「レオンを王子の姿に戻してください!」

二人とも互いの幸せだけを願うのだった。


その瞬間、語り木が大きく枝を広げはじめ、千年分の桜の花びらが春の嵐ともに上空へ舞い上がるのを満足そうに見つめ、

『ようやく答えに辿り着いたな』

『呪いとは罰ではない』

『種が花になるまでの必要な時間だったのだ』

花園の花々が一斉に輝き始め、
百年間に咲いたすべての春が淡い春色の光となり、語り木の下に集まり始めた。

そして眩い光の中で、

猫は王子へ。

花売り娘へ。

元の姿を取り戻したのだ。



人間の姿に戻ったレオンとアリア。

二人は笑いながら涙を流した。


その時、語り木の幹に静かな亀裂が入りました。

役目を終えたのです。

『春とは花が咲く季節ではない』

『誰かを想う心が芽吹く季節なのだ』


その言葉を最後に語り木は無数の花びらとなって空へと姿を消した。


それからは二人で花園を守り続け、
春になるたび、彼らの子どもたちに
『猫の王子と春の精霊』の話をするのだった。

すると風が吹き、花びらが舞い上がる。

それは春の精霊となった語り木が、春を運んできた

片桐 みかん様の企画に参加させていただきました。

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