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お下がり

僕には四つ年上の兄がいる。
着る物、履く物、おもちゃ、学用品。ほとんどが兄のお下がりだった。

部屋の段ボール箱には、兄が着ていた制服や体操服、洋服がぎっしり詰まっている。

グローブも、バットも、ガンダムのプラモデルも。

今日着ている服も、兄のお下がりだ。

時々思う。

僕も一度くらい、新しいものを身につけてみたいんだ。

そんなことを考えながら歩いているうちに、気づけば夕暮れの空き地にいた。

誰もいない空き地は、まるで知らない町へ迷い込んだように静かだった。

空き地の隅には古い土管がある。

そこは上級生たちのたまり場で、低学年の僕には近寄りがたい場所だった。

僕は恐る恐る中へ入ってみた。

ひんやりしていると思っていた土管の中は、夕日に照らされ、思いのほか明るかった。

土管の壁を眺めながら、ぼんやりと兄のことを考えた。

兄は母さんから、いつも言われていた。

「弟が次に使うんだから、綺麗に、大切に使いなさい。」

だから兄は、何でも大事に使っていた。

グローブも、自転車も、ランドセルも。

友達みたいに思いきり乱暴には扱えなかった。

新しい服を買いに行く時もそうだった。

「弟にはこの色が似合うかな。」

「弟は青が好きだったよね。」

母さんも兄も、僕のことを考えながら選んでいた。

兄は、自分の好きな色より、僕の好きな色を選んでいたのだ。

僕は、お下がりばかりだと思っていた。

でも兄は、新品なのに、最初から僕のことを考えていた。

すると聞き慣れた声が、公園に響く。

「おーい!」

兄だった。

僕を見つけると、兄はほっとしたように笑い、土管の中へ入ってきた。

僕の隣に腰を下ろす。

しばらく二人とも黙っていた。

やがて兄がぽつりと言った。

「新しい服、欲しかったんだろ。」

僕は黙ってうなずいた。

兄は少し笑って、

「ごめんな。」

そう言った。

「俺もさ、本当は赤いグローブが欲しかったんだ。でも母さんに『弟も使うんだから』って言われて、無難な色を選んだんだ。」

僕は驚いて兄を見た。

兄は何でも好きなものを持っていたと思っていた。

そうじゃなかった。

兄もまた、僕のために少しずつ我慢していたのだ。

兄と手をつないで家へ帰る。
兄の手は温かかった。

家の玄関を開けると、おじいちゃんの部屋からラジオが流れていた。
このラジオはおじいちゃん自慢のラジオで、なんでも音が良いらしい。


「帰ったか。」

おじいちゃんが手招きをする。

僕はいつものように、おじいちゃんの膝へちょこんと座った。

ふと兄を見ると、少しだけ羨ましそうな顔をしていた。

その表情を見たのは初めてだった。

そうか。

兄は四つ年上。

僕が生まれるまでは、おじいちゃんの膝の上は兄だけの特等席だった。

僕が生まれてからは、その場所を僕に譲ってくれていたのかもしれない。

僕は、お下がりばかりだと思っていた。

だけど兄は、お下がりにできないものまで、僕に譲ってくれていたんだ。

僕はおじいちゃんの膝から降りると、兄の手を引いた。

「兄ちゃん、一緒に座ろう。」

兄は少し照れくさそうに笑い、おじいちゃんの反対側にもたれかかった。

おじいちゃんは何も言わず、僕たち二人を大きな腕で包み込んだ。

その温もりは、誰にも譲らなくていい大切な宝物だ。

ラジオから人気タレントの歯切れの良いトークと、流行歌やリクエスト曲が流れていた。

この日、僕は初めて知った。

兄から受け継いできたのは、服やおもちゃだけじゃない。

僕を想う気持ち。

僕のために我慢してくれた時間。

そして、家族の優しさだった。

ダンボールいっぱいに詰まった兄のお下がりを、兄が大切に使ったように、僕も大切に使おう。


片桐みかんさんのこちらの企画に参加させていただきました。⬇️

#3つのお題に空想のひらめきを

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