初恋〜藁半紙に咲いた、いちごの香り〜
片桐 みかん様の企画に参加させて戴きました。⬇️
初恋は苺の香り
剛は学校の机の引き出しに、見慣れない封筒が入っているのを見つけた。

それは藁半紙で作られた少しいびつな封筒だった。
差し出し人の名前を見て、胸が跳ねる。
隣の席の久美だった。
そっと封を開くと、中から藁半紙の便箋が現れる。
鉛筆で丁寧に書かれた文字が並んでいた。
いつもとなりで
わらってくれると
うれしくなります。
だいすきです❤️
剛は何度も読み返した。
胸の奥が熱くなり、顔や耳まで赤くなる。
思わず隣を見ると、久美は何も言わず、にっこり微笑んだ。
剛は慌てて便箋をしまい込んだ。
嬉しかったのだ。
けれど、どう返したらいいのかわからなかった。
まだ子どもだった剛は、好きという気持ちを受け取る方法も、伝える方法も知らなかったのだ。
それからの剛は、久美を避けるようになった。
話しかけられてもそっけなく返し、目が合うと逸らした。
久美は次第に元気をなくしていった。
「あの手紙、書かなければよかったな」
そんな頃、久美が転校するという話がクラスに広まった。
剛は初めて知った。
胸がぎゅっと締めつけられた。
そして、避けていた時間が急に重たく感じられた。
梅雨に入り、蒸し暑さを感じる放課後。
剛はひとり、駄菓子屋の前で立ち尽くしていた。
握りしめた手の中には、最後の十円玉が一枚。

ラムネが買える。
アイスも買える。
スーパーカーの消しゴムも、
当たり付きのくじも引ける。
けれど剛は店の棚に並ぶ小さな消しゴムを見つめていた。
いちごの香りがする、ピンク色の消しゴムだ。
クラスの女子の中で流行っていた。
久美は確かみかんのオレンジ色のみかんの香りの消しゴムを使っていたはずた。
剛は少し照れながら、その消しゴムを買った。
翌朝。
藁半紙の封筒に手紙と消しゴムを入れ、誰もいない教室で久美の机にそっと入れた。
そのときの剛の心臓は、太鼓のように鳴っていた。
やがて久美が教室へ入ってくる。
剛は窓の外を見ているふりをした。
久美は自分の机に近づき、封筒を見つけた。
ちらりと剛の横顔を見て、深呼吸をして席に着く。
剛は勇気を振り絞って言った。
「おはよう」
ぎこちない笑顔だった。
けれど久美は、今までで一番嬉しそうに笑って返事をしてくれた。
「おはよう」
紫陽花が色づく頃、久美は町を去って行った。
駅のホームで手を振る姿が小さくなっていくまで、剛は見送った。
夏本番がやって来た。
剛は郵便ポストの前に立っていた。
手には一通の手紙がある。
今度は藁半紙ではない。
あの駄菓子屋で買った、花柄の可愛い便箋セットで書いた久美への手紙だ。
ラブレターというよりも、近況報告をしたためる、可愛らしい内容だった。
手紙をポストへ投函すると、剛は少しだけ背伸びをした気分になった。
空を見上げると入道雲が綿菓子のように見えた。
剛は虫取り網を肩に担ぎ、麦わら帽子をかぶり直して、みんなが待つ空き地へと走り出した。
少年の夏は続いていく。
けれど藁半紙の封筒と、いちごの香りの消しゴムだけは、きっと大人になっても忘れない、少年のひと夏の思い出になるにちがいない。
#3つのお題に空想のひらめきを
#わら半紙のラブレター
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#掌編小説
