【百二十一日目】学校のザシキワラシ
今日はザシキワラシの話。
これまで何度かザシキワラシが出てくる話を紹介してきましたが、ちょっと不気味だったり、怖かったりする話が多かったと思います。
今日は不思議だけど、ちょっとかわいらしいザシキワラシの話をどうぞ。
紹介してくれるのは『遠野物語』のネタ元でおなじみ、岩手出身のおばけずき佐々木喜善こと佐々木繁さんです。
明治43年の7月頃のことです。
(岩手県)上閉伊郡土淵村の小学校に一人のザシキワラシが現れて、児童と一緒に遊び戯れるということがありました。
不思議なことに、これが見えたのは1年生の児童たちだけで、大人にも年上の子にもザシキワラシの姿を見ることは出来ませんでした。
当時は大変な話題でして、遠野町の小学校からも児童らが見学に行ったほどでしたが、やはり、ザシキワラシの姿が見えるのは幼い子たちだけで、
大人や上級生がキョロキョロと校舎内を探し回っているのを1年の子たちは不思議そうに見つめ、
「なんで見えないの?ほら、そこにいるよ」
とその見えない子供と手を取り合って笑い合っていたと言います。
また、これは今から17、8年ほど前のことです。
当時はまだ遠野の小学校は校舎がなく、南部藩の米倉として使用されていた建物を教室にしていました。
そこに、いつからか「子供の幽霊が出る」という噂が起こったのです。
その時は結構な騒ぎになりましたよ。
私は行ってませんが、私の知り合いにこれを見に行ったという人がいました。
彼が言うには、夜9時をまわった頃、入口の方から
―――トトトトトトトト・・・・
と小刻みの足音が聞こえて、突然白い着物を着た6、7歳くらいの小さな童子が戸の隙間からつーっと教室に入ってきたそうです。
童子はその場にいた大人には目もくれずに、ひとりで机と椅子の間をくぐったり、飛び越えたり、しばらく遊んでから満足したのか、すっと消えてしまったという。
「なんだか分からないが、すごく楽しそうだったよ」
と友人は語るが、私はきっとこの童子もザシキワラシだったのではないかと思っている。
佐々木繁、『郷土研究』2巻6号(大正3年8月)記事をもとに編訳。
ザシキワラシたちが楽しそうで僕も嬉しいです。
一般に、お金持ちのお屋敷に住み着いているイメージのあるザシキワラシですが、意外にも小学校での目撃談も多くあります。
ザシキワラシにとっても大きなお屋敷に一人ぼっちでいるよりも、同じ世代の子供たちが集まる空間のほうが居心地が良いのかもしれません。
ただ、小学校は幼い子供が集まる空間であると同時に、やがて去っていく子供たちとの別れの場でもあります。
ついこの前まで自分と同じ年頃だった児童たちがあっという間に大きくなって、身体的にも精神的にも大人びていく。
そんな子供たちの姿を、永遠に大人になることの出来ないザシキワラシはどんな思いで見つめているのでしょうか。
誰もいない夜の教室で一人で遊ぶザシキワラシの姿からはそんな切なさを感じてしまいました。
ついでにもう一つ、同じ岩手県の下閉伊郡岩泉町にあった小学校ではこんな話が残っています。
第二次世界大戦のさ中のことだったといいます。尼額大沢から岩泉小学校に通学していた坂下隆さんは、いつも一、二番の早さで登校していました。
そのころ、隆さんが学校に着いてみると、広い校庭に見知らぬ児童がいて、遊んでいるのを見掛けました。その児童は、早ばや登校してきた子たちと遊んでいるのですが、五人以上になると決まって見えなくなりました。
早く登校してくる子は、学校から遠い集落の子たちがほとんどでしたが、それにしても、だれも知らない子でした。
「もしかして、あの子はザシキワラシではないか」
と、隆さんたちは、友だち同志で噂をし合いました。
そのころは、戦争が烈しさを増すにつれて、不思議な噂がとび交っていました。ある神社では、「神馬がいきなり消えたが、戦場へ日本国の助太刀のために夜空を駆けぬけていった」とか、「三日月の弧の中に星が近付いている、何か不吉なことの知らせであろう」とかの類でした。
校庭に現れたザシキワラシは、戦死した兵隊さんの魂が、なつかしい母校に戻ってきた証であろうなどと、早く登校してきた児童たちは語り合いました。隆さんは、子ども心にも不思議なことだと思ったと言っておられます。
ザシキワラシの正体は何なのか、という問題については霊魂であるとか、呪術に使われる人形であるとか、色々な議論がありますが、ここでは詳しく追及しません。
でも、「戦士した兵隊さんの魂が、なつかしい母校に戻ってきた」という児童たちの解釈は素朴で、優しくて、個人的にはとても好きです。
(2025年6月29日)
【今日紹介した話】
・譚空ID.17119(No.1054)「ザシキワラシ」(『郷土研究』2巻6号、1914年8月号)。
・譚空ID.12770(No.5056)「土淵村のザシキワラシ」(水野葉舟「怪談(Ⅶ)」『勧銀月報』、1911年4月号)。
・譚空ID.7099(No.6066)「校庭で遊ぶ知らない子*」(松谷みよ子『現代民話考Ⅶ』、2003年)。
・譚空ID.19513(No.15199)「岩泉小学校のザシキワラシ」(高橋貞子『座敷わらしを見た人びと』、2003年)。
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