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梅雨支度【カフェ浪漫主義44】

【カフェ浪漫主義】
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鎌倉の梅雨入りは結構早めなので、今週はその後の酷暑期の分までも含め色々と夏支度をしている。

特に我家は山際で川沿いだから湿気が高く、書画など色々と黴やすいので注意が必要だ。絵も額入りの洋画なら問題ないが、日本画で梅雨時に似合う絵は案外少ないのだ。

そこで古今東西の絵画を探したところ、年中陰鬱な気候の英国や中北仏の風景画が梅雨の時期に飾るのにはちょうど良かった。

森の家 オリジナルリトグラフ ベルナール・ガントナー
緑釉水差し 明時代
緑釉小壺 漢時代

20世紀フランスの画家ベルナール・ガントナーは深沈としたあまり陽光を感じさせない風景画が多く、雨季の思索に浸るような部屋には好適だろう。草木の繊細で知的なペンの描線と抑制された淡彩が、静かで哲学的な世界を感じさせる作風だ。

彼の作品は正規の直筆サイン入りオリジナルリトグラフが日本市場にも多く入っていて、作者没後の版内サイン(印刷サイン)の複製画に高値を付けたシャガールやピカソなど超有名所の物より遥かに安心して購入できる。

最初に入手したこの絵が森の中の隠者の家といった趣でかなり気に入り、彼の絵がネットで安価で出品された時にはすかさず応札し、数年間で四季の絵が揃えられたのは喜ばしい。

誰でも知っているような世界的巨匠のリトグラフには贋作複製画も多い。それよりは都会的な人物画ならジャンセン、音楽を聴きながらならワイズバッシュなど、知る人ぞ知る中堅作家辺りが直筆サイン入りでも手頃な価格で入手し易い。ただ、額装の絵は掛軸に比べ一点一点が嵩張るので、枚数が増えると収納に困るのが最大の欠点だ。

梅雨も我が谷戸の朝晩はやや肌寒い。

目覚ましの飲み物も熱い物が良いかアイスにするか迷うところだ。この時期には大正頃の随筆で知った冷まし珈琲を好んでいる。

昔の夏は防疫のために一度煮沸した湯冷ましを飲むのが良家の習慣で、それが茶や珈琲にも及んでいたようだ。寝る前に淹れて自然に冷ましておけば良いので手間も掛からず、慣れるとこれが一番自然な飲み方に思え、我が簡素な草庵暮らしにも似合う気がする。

写真にある中国明朝の水差しのように元から蓋のない古器は、中身を冷ますにはちょうど良い。熱い珈琲はすぐ冷めるし、アイスコーヒーも氷が溶けると薄まって生温くなる。それが冷まし珈琲だと温度も濃さも変わらないので、時間を掛けてちびちび飲むには最適だ。

味の調整は、アイスコーヒーよりやや甘味を抑え、ミルクは多めだ。

珈琲碗も、アイス用のピューターマグや硝子器は使わず、やや大振りの陶器の湯呑か小服茶碗が良いが、この時期だけは豪華過ぎない絵柄なら色絵磁器や染付も使える。

そしてこの梅雨籠りの日々なら、意外と知る人の少ない石川啄木の集をじっくり落ち着いて読み込める。

抒情詩集 初版 石川啄木
古織部徳利 江戸時代

啄木はプロレタリア風の短歌が余りにも有名なため、一般的に詩の方はほとんど忘れ去られているが、この気品ある文語韻律は新体詩の掉尾を飾るにふさわしい名詩集だ。詩人としての啄木は、上田敏や与謝野寛に激賞されるほど早熟の天才だった。

特に『あこがれ以後』の作に格調高い佳作が集中して出て来る。

琴をひけ
(中略)
水無月の靑日射あおひざし、庭の樹ぞみづみづし。
靑梅は庭石に、君が手は夏の譜に、
花あやめかぎろひぬ。
歌ひくき爪彈や、沈の香はそよろぎぬ。
はしけやし黑髮もそよろぎぬ、
風ありて一室は薰じたり。

石川啄木『抒情詩集』

装丁も小型天金クロス貼りの可憐な本で、猟書家の所有欲をくすぐる。

例のラングの「名作は3冊ずつ揃えろ」という言に従い、ここ数年で私の目の届く市場に出された物は全て我家が買い占めた。といっても世に知られざる詩集だから初版でもみな2〜3000円ほどで揃い、これで末代まで安心だ。

梅雨時に合う音楽というとなかなか難しい。凡そ、幻想的なピアノ曲は春、抒情的な弦楽曲は秋に聴きたいものだし、冬は重厚な交響曲、真夏は涼しげな前奏曲やハープ曲が良い。そう考えると、この時期はクラシックよりもポップス、それも昭和歌謡やフォークバラードのような曲がちょうど良い気がする。

そこで今回取り上げるのは、去年の韓国の音楽番組でカバーされた「レイニーブルー」のデュオだ。

特にMasaya氏の艶のある高音と繊細なコントロールはこのようなバラードによく合っており、後半ブリッジ部分の聴かせ方は淡々としたオリジナル版よりも詩情豊かだ。彼のような正統派ヴォーカルや良いメロディのバラードは、サブスク時代となった近年、ほとんど登場しなくなってしまった。

この「レイニー ブルー(Rainy Blue)」は、1986年当時24歳だった德永英明のデビュー曲だ。

言わずと知れた有名曲だが、今の謂わゆるZ世代くらいになると聴いたことがない層も増えているのかもしれない。そもそも歌詞中の「ダイヤル式の電話BOX」もすっかり遠い存在になったのだ。そう考えると、啄木の新体詩も昭和歌謡の名曲も、大いに語り継いでいく価値があるのだと思う。

梅雨籠りの時期は、しばらくアジア地域の名曲・名演を中心に紹介していくつもりだ。

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